EX1.魔法少女ソードダンサー
今回は番外編です
薄暗い街灯の下、仕事帰りの女性が歩いていた。
普段であれば人通りの少ないこの道を通らないが、残業で帰りが遅くなったため近道としてこの道を選んだ。
今日だけではなく残業で遅くなったときはこの近道を使っていたので、慣れてしまったため危機感が薄れていたのかもしれない。
女性が足早に道を歩いていると、目の前に一人の男が現れる。
背の高くやや痩せ身の20代に見える。うつむき加減で男の表情は見えない。
女性は突然現れた男を避けようと道を横にずれるが、男は道を塞ぐように女性の前に立ち塞がる。
「あの・・・通してもらえませんか?」
男の薄気味悪さを気にしながら女性は声を掛ける。
男は返事をせずに黙って女性の方を見ている。
再び声を掛けようかと思ったその時、男から呟き声が聞こえた。
「・・・何故僕の愛を受け入れないんだ、何故僕の愛を理解してくれないんだ、何故・・・」
流石に女性は身の危険を感じ来た道を引き返そうとしたが、見えない壁に阻まれて逃げることさえできなかった。
「何故だ――――――――!!!」
男は叫びを上げると、男の体は化け物に変化が起こる。
筋肉が膨れ上がり、体も一回り大きくなる。肌の色も緑色に変化し、ぼさぼさだった髪も身の丈ほど伸び額には角が伸びていた。
「きゃああああああああああああ!!」
男の化け物の変化に女性は悲鳴を上げて気を失ってしまう。
「ぐぁぁあぁ、やっと、やっと僕の愛を届けられる」
化け物は女性に一歩一歩近づいていく。
だが、次の瞬間その場に少女の声が響き渡る。
「そこまでです! 愛怨!」
化け物の前に現れたのは小柄で腰まで伸ばした黒髪の少女だった。
「それ以上の身勝手な行いは許しません!」
少女は剣型のステッキを天に掲げ叫ぶ。
「ステップアップ!」
すると少女の体は光に包まれる。
足にリボンが巻き付き弾けるとピンク色のブーツが現れる。手にも同様にピンクのグローブが。
そして体にリボンが巻き付き弾けるとピンクのフリルの衣装とフレアスカートが現れる。
最後にストレートの黒髪にリボンが巻き付きツインテールのヘアスタイルに変化する。
変身を完了した少女は決めポーズで手にした剣を愛怨に向け、高らかに叫ぶ。
「魔法少女ソードダンサー! 貴方の歪んだ愛を踊り斬ります!」
突然現れ自分の愛の邪魔をした魔法少女に愛怨は怒りを向ける。
愛怨は手から爪を伸ばし魔法少女を切り刻もうと突進してくる。
だが魔法少女は両手に剣を掲げ、向かって来る愛怨に剣を振るう。
「はぁぁぁ! 剣舞!」
左右の高速で振り回された剣は、愛怨の爪を容易く切り裂く。
そして高速ステップから繰り出される二刀流は愛怨の体までダメージを与える。
「ぐぁぁぁあぁ!」
己の不利を悟った愛怨は距離を取り逃げ道を探し始める。
「逃がしません!」
このまま逃がしてなるものかと、一気に距離を詰めようとする魔法少女の前に新たな人影が現れる。
高身長にタキシードの衣装に身を包み、目元に竜をあしらった仮面を付けた男だった。
「申し訳ないですが、貴女の攻撃はそこまでにしてもらいましょうか」
「! あなたはっ! 悪世栖の26の幹部の1人! スタート!」
「ここ最近、貴女には沢山の愛怨を倒されてしまってね。これ以上の犠牲はご勘弁願いたいのですが。」
「戯言を! 愛怨を放っておけば沢山の人が傷つくわ! わたしはそれを許さない!」
「ふぅむ、仕方ありませんね。貴女にはここで退場してもらいましょう」
スタートが指を鳴らすと背後から新たな愛怨2匹が現れる。
「くっ!」
流石に愛怨3匹に幹部1人を相手にするのは不利だった。
だが魔法少女に襲い掛かろうとした愛怨の1匹が両手両足に矢の攻撃を受けて倒れこむ。
「魔法少女ラブチェイサー! 貴方の歪んだ心を狙い打ち!」
ソードダンサーをピンクとするなら、新しく現れた魔法少女はオレンジの衣装で統一されていた。
そしてもう1匹の愛怨はどこからともなく現れた鞭に絡め取られ、高く持ち上げられると地面に叩き付けられる。
「魔法少女クイーンプリンセス! 貴方の歪んだ性格、調教して差し上げますわ!」
こちらの魔法少女はブルーで統一されていた。ただし衣装の方は他の2人に比べ露出が多く、多少過激だ。
「ラブ! クイーン!」
突然現れた助っ人にソードダンサーが声を上げる。
そんなソードダンサーの下に2人の魔法少女は駆け寄る。
「ソード、1人で突っ走らないでよ。探すの大変だったんだから」
「あら、それがソードのいいところじゃないの」
ラブチェイサーの文句をクイーンプリンセスはたしなめる。
「くっ、まさか他の魔法少女まで揃うとは・・・」
スタートは苦痛の表情で魔法少女たちを睨みつける。
「スタート! あなたの野望はここまでよ! ラブ、クイーン、行くわよ!」
「うん!」
「ええ!」
2人の魔法少女は頷きあう。
ラブチェイサーは弓を掲げる。クイーンプリンセスはラブチェイサーの掲げる弓に弦の代わりに鞭を張る。
最後にソードダンサーが矢の代わりに剣を引き狙いをスタートと愛怨に定める。
「「「愛を貫く一筋の光! 愛多憎生エンジェル・イン・マジック!!」
放たれた剣は愛怨3匹を消滅させる。
辛うじて逃れたスタートだが完全にとは言えず僅かながらダメージを負っていた。
「く、ここまでのようですね。いいでしょう今日は身を引きましょう。ですが次こそは必ず貴方達を屈服させて見せますよ。」
そう言い残すとスタートは闇の中へ消えていく。
「あ! 待ちなさい!」
「ラブ、今から追いかけても無駄よ。それよりその女性を送り届けましょ」
ソードダンサーは気を失って倒れていた女性を抱き上げる。
「そうね。一般市民の安全が最優先ね。ラブもいつまでもスタートを追いかけていないで手伝って下さらない?
それとも仮面の下のイケメンに憧れてるのかしら?」
クイーンプリンセスのからかいにラブチェイサーは顔を真っ赤にする。
「ななななっ、そそそんなことっ!」
「はいはい、2人とも遊んでないで手伝ってよ」
こうして魔法少女たちは人知れず秘密結社・悪世栖から町を守っているのだ。
だが、悪世栖との戦いはまだ始まったばかりだ。
頑張れ魔法少女! 負けるなソードダンサー!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「って言う夢を見たんだけど、どう思う?」
俺の話が終わってみんなを見ると、笑いを堪える人、呆れる人、怒り出そうとしてる人など様々だった。
「えーと、その弓を使っているラブチェイサーとは僕の事なのか・・・?」
「お姉様! あたしは!? あたしは!?」
「あははっ! 魔法少女ソードダンサー! いい! それいいよ!
舞子、大丈夫! 第2話ではもう2人の魔法少女が出てきて5人揃うんだよ。」
「ふーん、ラブチェイサーがクリスなら、消去法でクイーンプリンセスはあたしなんだ。
ふーん、フェルにとってあたしはクイーンなんだ。ふーん」
鳴沢の笑顔が怖い。顔が笑ってるのに目が笑ってないよ。
「あ、いや、ゆ・夢の話だから。ベルがクイーンだなんて一言も言ってないよね?!」
「ふーん」
その様子を見てクリスは呆れるし、舞子は焼きもちを焼くし、天夜は面白がって煽るし。
暫く鳴沢の機嫌が悪かったのは言うまでもない。