『想い』
僕はあれから一言も話すことができなかった。
無言で箱に落ち葉を敷いてるときも。ずっとアルトのこと、そして悪魔のザッシュが言ったことが
頭の中でグルグルと回って、思い出すたびに僕の胸を締め付けた。
横になって、僕はマリーにやっと話しかけることが出来た。
「マリー今日はごめん。」
そういったマリーは僕のほうを向いて
「ううん。ポックルが無事だっただけでそれだけで良かった。わたしがいない間に何があったかは分からないけど、話したくなったらでいいから。」
「ありがとう。」
僕はそんな優しいマリーにただお礼を言うことしかそのときは出来なかった。
次の日、目が覚めるとマリーが剣で方向を確かめながら、驚きの声をあげた。
「ポックル、これってひょっとしたら、ひょっとするかも」
「マリーどうしたの?」
「もしかしたら、もうかなりケンちゃんに近いのかもしれない。」
そういいながら剣を僕に見せてきた。
「こ、これって・・・」
「ええ、点滅してるわ。しかもこんなに早く。」
昨日はいろいろあったせいか、剣の状態を確かめる暇がなかったけれど、確かに剣は点滅していた。
「でも、またそんなに旅してないのに・・・」
マリーは何年も、アルトだって3ヶ月かかったんだ、なのにどうして・・・・
僕の考えてることを見透かしたかのようにマリーが言った。
「まぁ、確かに少し早いような気がするけれど、これでなんとなく分かった気がする。やっぱりポックルあなたは捨てたれらわけじゃなさそうね。」
マリーの言葉に僕は思わず聞き返した。
「それってどういうこと?」
「あなたの捨てられ方が普通じゃなかったの。もし本当にあなたが捨てられたとしたならば、その大きさだもの、他の物と一緒の袋に入って捨てられてたほうが自然だわ。」
「じゃあ」
「そ、おそらくケンちゃんが何かの拍子でポックルを落としちゃって、そして、あなたを誰かが拾ってあそこに置いたって事。まぁあくまでもわたしの想像の域を出ないんだけど、その可能性は大きいわ」
ケンちゃんは僕を捨ててなかった・・・僕はそれだけでうれしくなった。
「この様子だと、後一、二日ってところね!」
そういってマリーは羽をはばたかせて宙に舞い上がった。
「どうしたの?ポックル。」
「ほんとに僕は捨てたれたんじゃなかったんだよね?」
僕はマリーを見上げながら言った。
「まぁ、あくまでも可能性だけど、そうであるのはほぼ間違いないとおもうわ。それを確かめるためにもいきましょ。」
「うん。」
僕は心の中のもやもやを振り払い、マリーの後を歩き出した。
それから僕の剣が青く光ったのは三日後の日が沈んでからだった。
目の前の白い大きな建物を見上げながらマリーが話しかけた。
「ポックルどうする?このまま会いに行く?」
僕はどうしてもマリーに話しておきたいことがあった。だから
「ううん、明日にしようよ。心の準備が欲しいし、疲れちゃった。」
「そっか、わかった。」
そして僕たちは花壇の横の脇に積み重ねられたブロックの穴の一つで寝ることにした。
いつものように落ち葉をしいて剣を明かり代わりに立てかけた。奥に座ったマリーが、ぼうっと青い光に照らし出される。
「今夜で旅もおしまいだね。」
マリーがどことなく寂しそうに言う。
「うん。でも僕は本当はケンちゃんに会うのが怖いんだ。」
「どうして?」
僕の言葉が意外だったのか、マリーが聞き返してきた。
「僕はあの日・・・」
僕はアルトとザッシュに会ったこと、そしてアルトの身に起こったこと全てをマリーに話した。
「そう、そんなことがあったのね・・・。」
「ごめん。今の今まで話せなくて。」
うなだれる僕にマリーは
「仕方ないわ。確かにその悪魔のザッシュが言ったことは間違ってないわ。そう、再会の全てがハッピーエンドで終わるわけじゃないわ。」
そう静かにマリーは言った。
僕はそんなマリーに
「ねぇ、マリー、マリーはもしもだよ、もしも、マリーがあの時、持ち主に再会したときに自分を必要としてなかったり、すぐに捨てたりされてたら、マリーは悪魔になってた?」
突然の僕の質問にマリーはそして少しだけ考えて、こう言った。
「わたし達『物』はこの世に存在する限り、いつまでも物であり続けることは出来ないと思うの。使い込まれれば、磨り減るし、壊れるし、そして捨てられる。でもそれって箱に入ったままじゃ、店に並んだままじゃ何にも起きない。何の運命か、私たちを選んでそして使ってくれたから起こる事なの。そして『想い』が宿るほど大事にしてくれたから、旅をすることができる。わたしの場合、長い旅だったからかもしれないけど、わたしは決めてたの、たとえどんな結末が待っていようとも、会うことが出来たら、『私を選んでくれてありがとう』って、その『想い』を伝えることが出来たらそれでいいって。」
「ありがとう、か。僕は、悪魔になっちゃいそうで怖いよ。悪魔になってケンちゃんを不幸になんかしたくないのに。もうこのままいっそのこと、ケンちゃんに会いに行くのをやめたほうがいいのかもしれない・・・。」
マリーは僕の震える手をやさしく握り締めながら
「そんなことはないわ。あなたにはものすごく、あたたかい『想い』が宿っているの。わたしは、あなたに込めたケンちゃんの『想い』を信じるわ。それに、ポックルだってケンちゃんに伝えたい『想い』あるでしょ?」
「僕の伝えたい『想い』?」
「ずっといってたじゃない、僕はずっとずっとケンちゃんと一緒にいたいんだって。その『想いを』伝えるためにも、明日ケンちゃんに会いに行くの。もし、再会したときに必要としてなかったら、それはそれでいいじゃない。妖精になってわたしと一緒にいきましょ!」
そういってマリーは僕に笑い開けてくれた。
ただケンちゃんに会いたくて始まったこの旅。そうだ、僕はずっとケンちゃんと一緒にいたかったから、だからケンちゃんに会いにここまで来たんだ。会ってからのことはそのとき考えればいい。もしも一緒にいられないのなら、妖精になってマリーと一緒に行くのもいいかもしれない。そうすればケンちゃんを不幸にしなくて済む。
「そうだね。ありがとう。僕は最後までこの旅をやり遂げるよ。」
僕はマリーの手を握り返しながら、僕の迷いはもう消えていた。




