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現実

「おい、お前大丈夫か?」

つんつんとつつかれて僕は目を覚ました。

「ったくよぉ、いきなり空から落ちてきたからビックリしたぜ。」

そういいながら、背中の黒い翼をパタパタさせている。どことなくマリーに似ているが、顔以外が黒いのと尻尾があるのは違った。

「空から?ああ、そうだった。」

僕はカラスにさらわれて、マリーが助けてくれたけどそのまままっ逆さまに落ちたことを思い出した。

「どうやら、お前も持ち主に会いに旅してるってところか、」

そういって僕をしげしげと見ながら、回りをぐるぐるまわる。

「えっとぉ、君も妖精なの?」

僕の質問に一瞬目を見開いたが

「まぁ、そんなもんだ。」

ガサガサと後ろから草を掻き分けて一つの影が出てきた。

「ザッシュ、ここにいたのか。」

出てきたのは僕より一回り大きく、鎧兜をまとっていた。

「おう、アルトか、丁度いい所に戻ってきたぜ、お前の仲間だよ。」

僕はとりあえず二人に自己紹介をすることにした。

「僕はポックル。カラスにさらわれてそれで、マリーに助けてもらったんだけど、そのまま落ちちゃって、」

「カラスか、あいつらは本当に手癖が悪いからなぁ」

ザッシュが腕組をしながらうんうんとうなずく。

「ポックル殿。それは災難だったな。私アルト、君と同じように私もご主人様を探して旅してをしている。そして、この後ろのお方が私を目覚めさせてくれたザッシュ殿だ。」

そういって僕に手を出して握手を求めてきた。

「アルト、その背中のヤリ・・・」

僕は握手をしながらアルトの背中のヤリが青く光っている事に僕は気がついた。

「これって、もしかして・・・」

「なんだ、知ってるのか、なら話は早いな。そうさ、アルトのご主人様とやらが近くにいるってことさ。」

ザッシュの言葉にアルトはぐっとコブシを握り締めながら

「ご主人様を捜し求めて早3ヶ月。やっと、やっとご主人様に会うことが出来る。また遊んでもらえの科と思うと、待ち遠しい。」

「そっか、よかったね、アルト」

アルトのその姿を見て僕の頭にケンちゃんのことがよぎる。僕も早くケンちゃんに会いたい。

その前に、マリーと合流しないと。

「アルト、ザッシュ、僕はまだまだ旅の途中だし、マリーも探さないといけないから、行くね。」

そういって2人に別れを告げたときだった。

「あ、アルトがこんなところに、なくしたとおもったのにな・・・それとなんだろう?この消しゴム見たいのは・・・まぁいっか。」

突然僕達の上にぬっと大きな手が出てきて僕とアルトを掴み上げた。

そのまま僕たちはその手に運ばれていった。

コトン、そして僕とアルトは急にその手から下ろされた。

「ま、まこと殿、やっと会えた・・・。」

アルトが感極まった声を出して震えている。

「良かったな、アルト!」

後から追ってきたザッシュがそんなアルトの肩をぽんぽんとたたいた。

僕は巻き込まれてここまで来ちゃったけれど、まさか再会する場面に出会えるなんておもっても見なかった。

しばらくすると足音がしてアルトや僕なんかよりも大きなロボットの巨人が現れた。

「現れたな、亡霊騎士アルト、わたしが成敗してくれる!」

そういってアルトに大きな剣で切りかかる。

アルトは槍を構えてその剣を受け止めるが、

「喰らえ、必殺!」

次の瞬間、アルトはポーンと投げられて、壁に激突する。そしてその衝撃でヤリが折れ、足が取れた。

「しぶといやつめ、これでどうだ!」

すると、黒い筒のようなものが出てきてアルトに狙いを定める。

パシュ、パシュ、パシュと、音がするたびに、アルトの鎧は欠け、手足がちぎれとび、そして兜に穴が開いた。

「ふ、ふ、ふ、これで最後だぁ!」

そして、アルトの上に大きな分厚い本が落ちてきて・・・ぐしゃっと音がした。更にその上から足でどんどんと踏みつけたのだった。

僕は目の前の光景にただ、震えることしか出来なかった。

すると今度は、

「そこの小汚い兵士め、今度はこの剣で切り刻んでやる。」

そういって手からカチカチと光るものが出てきた。

「くらえ!」

そういって僕を押さえつけてきりつけようとしたときだった。

「まこと、おやつよ!」

遠くから声がした。

「はーい。いまいく。」

そういって僕を放り投げ、足音が去っていった。

「おいおい、こいつはひでぇな」

ザッシュがあるとの上の本をどかそうとしていた。

僕もザッシュを手伝って何とか本をどかすことが出来た。

下から現れたのは粉々に砕け散ったアルトとだった。

「ア、アルト・・・」

言葉失う僕を尻目にザッシュがそのアルトの残骸を掻き分けて、

「あ、あったぜ、」

と何か取り出した。

ザッシュの手の中には黒い光の球があっておもむろにザッシュがそれをかじる。

「うひゃ~、またこいつはすごいいい味になったな」

「そ、それってまさか、アルトの・・・」

「うん?そうだぜ、これがアルトの『想い』さ」

「お、想いって、食べちゃったらアルトが妖精になれないじゃないか!」

そんな僕の言葉もお構いなしにザッシュは最後の一口をむしゃむしゃと食べて飲み込んだ。

「こいつは、特別な『想い』を宿しないなかったからな。ちょいと力を貸してやったんだよ。」

「でも、ならどうして」

「ま、こいつが捨てられていたところに一緒に砕けたこいつの仲間がいてな、もしやと思ってここまで旅をしてきたけどよ、まさかこんな結末になるとはな」

そういってザッシュはぱちんと指を鳴らした。すると

「ママー痛いよう。」

「まぁ、まこと!手をどうかしたの?まぁ大変。」

と向こうから子供の泣き声が聞こえてきた。

「何したの?」

「お仕置きだよ、なぁにちょっと手を切っただけさ」

黒い『想い』、そして突然の不幸に似た出来事・・・そして僕はある確信にいたった。

「ま、まさか、ザッシュは悪魔?」

「ああ、そうさ、悪魔だよ。」

そういって背中のとんがった翼をパタパタさせて、そして尻尾をくねらせた。

「お前は、食べるためにアルトを利用したのか?!おまけにその持ち主に怪我までさせて・・・」

僕は盾を構え剣をザッシュに向ける。

「おいおい、何か勘違いしてないか?俺はよ、アルトの仇をとってやったんだぜ、」

「で、でも、そうかもしれないけど、もしもザッシュと、悪魔と一緒じゃなかったら、アルトはこんな目にあわなかったかもしれないじゃないか!」

そう言った僕にザッシュはギッと睨みつけた。

「いいか、その耳を開いて良く聞けよ。お前はどうそのマリーとかいう妖精に言われたか分からないが、みんながみんな持ち主に再会できるとは限らないんだ。もちろん俺達、妖精や悪魔が一緒に旅をするからそうならないように努力はするさ。そして、再会出来たとして、それがすべてハッピーエンドで終わるものだとは限らないんだよ。このアルトがいい例だ。」

そういってザッシュはアルトの破片の一つを拾って握りしめた。

「こいつだってよ、何日も何日もご主人様、ご主人様に会うんだって言って、いろんな危険な目に会いながらやっとここまでたどり着いて、こんな結末になるなんて、これが俺のせいだって言うのか?違うだろ?お前も見ていた通り、アルトのご主人様がやったことなんだよ。」

僕は剣と盾をいつの間にかおろしてうなだれていた。

「お前も、お前の持ち主に再会しいたときにどうなるか、分からないんぜ。」

そういってザッシュに肩をポンと叩いて

「ほら、今度はお前が切り刻まれないうちにいくぞ」

僕は促されて歩き出した。そして一度だけアルトを振り返ってつぶやいた。

「さよなら、アルト」


外に出ると強い風が吹いていた。

前を行くザッシュが振り向いて僕に話しかけた。

「ここまでくれば大丈夫だろう。お前はこれからどうするんだ?」

「僕は、僕はどうしたらいんだろう・・・」

アルとの事が頭から離れない僕はケンちゃんに会いに行くという言葉が出てこなかった。

「俺はな、時計だったんだ。いろんな人の手を渡って、何度も修理されて・・・やっと持ち主のもとに着いて、そのときはちょっと故障してて。俺は他のみんなのように、俺のことを修理して大事にまた使ってくれるんだろうって信じて疑わなかった。でも、そいつは俺が故障していたことを知るとそのまま路地裏に投げ捨てたんだ。」

「で、悪魔になったの?」

「本当は妖精になれると思ってたんだけどさ、気がついたらこんな格好をしてたってわけよ。」

「ザッシュ・・・」

「本当に人間は自分勝手だぜ、自分の都合で俺達を作って、いらなくなったら捨てるんだ。次から次へと新しいものが出来てくるから、少しでも壊れてたら捨てるのさ。それが現実さ。修理したり、直したりすればまだまだ使えるのにな。だから、それを少しでも分からしてやるために、俺はこの力を使うのさ。」

そういってザッシュは、僕にいたずらっぽそうに笑って見せた。

「ポックルー。」

上のほうから声がした。

「マリーだ!」

見上げる僕にザッシュは

「お前さんのお付の妖精が来たようだな。じゃあ俺はここでさよならするぜ。どんな結末が待っていようと、必ず旅を成し遂げるんだ。頑張れよ。」

そういってパタパタとザッシュはどっかに行ってしまった。

「ポックル、大丈夫?探したのよ!」

「う、うん」

そう元気なくうなずく僕の顔をマリーは覗き込みながら

「結構疲れているようね、今夜はここらへんで寝る場所を探しましょ」

マリーはどこか僕を気遣うかのように一緒に歩きながら、今夜の寝る場所を2人で探すのだった。



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