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地の底

「う、ううぅ」

気がつくと僕は暗闇の中にいた。

「ここはどこだろう?」

そういえば僕は流されて穴に落ちたんだった。目がだんだん慣れてくるとぼんやりと周りの様子が

見えてきた。どうやらあたり一面高い壁になっているらしい。

「もうすこし明るくないとよくみえないな。」何か光るものはないかと探したけれど、これといって役に立ちそうなものは無かった。

「そうだ!」

僕は背中の盾を持つと剣を引き抜いてみた。思った通り、剣はぼんやりと光を放ち辺りを照らした。

壁を照らしてみると表面はヌラヌラと光って気味が悪い。

「こっち側はどうなっているんだろう。」

ひんやりと冷たい地面を照らしながら歩くと急に地面が無くなってしまった。恐る恐る覗き込むとその下は水がすごい勢いで流れていく。

「この剣がなかったら、僕は今頃あの中に落ちてかもしれないな。」

僕は思わずぶるぶると身震いをした。

「これもマリーのおかげだな。そう言えばマリーはどこにいったんだろう。」

最後まで僕を助けようとして結局一緒に落ちたはずだ。

「マリー、どこにいるの?」

僕は大声でマリーの名前を読んでみた。

「まさか僕を置いてきぼりにしてどっかにいっちゃったのかな。」

そういってちょっぴり僕はさみしくなった。

「きゃぁぁあ」

するとそう遠くない所から悲鳴が聞こえた。

「マリー!?」

僕は悲鳴のしたほうへ急いだ。

「やめて、こっちに来ないでよぅ」

角に追いやられたマリーに大きなネズミが迫っていた。

「こいつ、マリーから離れろ。」

僕は剣を振りかざしてネズミとマリーの間に割り込んだ。

「チ、チュウ」

突然現れた僕にネズミは驚いているようだった。

「えい!」

僕はネズミの鼻先を剣で思いっきりつついてやった。

「チュッ!?チュウ!」

するとネズミは鳴き声を上げて逃げていってしまった。

「マリー大丈夫かい?ネズミはもうどこかに行ったよ。」

僕は隅っこで丸くなったマリーに話しかけた。

マリーは僕の顔を見ると

「恐かったよう。」

といって泣きながら僕に抱きついてきた。

「マ、マリー?」

僕は生まれてこのかた、女の子に抱きつかれた事なんかなんてない。初めてのことに思わずドキドキしてしまう。マリーノサラサラと流れる金色の髪が僕の頬をなでて少しむずかゆい。

しばらくして落ち着いたマリーは

「ポックル、助けてくれてありがとう。わたしネズミが苦手なのよ。」

と顔を赤くしながら僕に言った。

「そうなんだ。まぁ苦手なものは誰だって一つや二つはあるもんだよ」

「ありがとう。ポックルは優しいのね。」

元気なく笑うマリーに僕はマリーを安心させようとして

「それにまた来たら、僕が追っ払ってあげるから、安心しなよ!」

そういって剣を高く掲げてみせた。

「頼りにしてるわ。」

僕は剣をそのままにして盾を背負うと、はぐれないようにマリーの手をにぎって歩き出した。

「ねぇ、マリーここって何処なのかな?」

「ここは下水道ね。」

「下水道?」

「そうよ。そして地面の中にあるの。」

「地面の中って、じゃあ、もう上にはでられないの?」

絶望が僕を包む。だってこれじゃあケンちゃんにあいにいくことなんかできないじゃないか。

「大丈夫よ。このままそこの下水の流れに沿っていけばいつかは出られるわ。」

マリーの言葉に希望の光が僕の心にともる。

「でも、いつ出られるか分からないんでしょ?」

「まぁね。でもきっとすぐよ!」

それからしばらく僕とマリーは無言で歩いた。どこまで行っても見えるのは高い壁と下水の音だけ。

僕は少しでも気を紛らそうとしてマリーに話しかけた。

「ねぇ、そういえマリーは妖精になる前ってなんだったの?」

急に声をかけられて驚いたのか、つないだマリーの手がびくっとなった。

「ああ、わたし?わたしはお人形よ。でもどうして?」

「だって、マリーもこうやって持ち主に会いにいったのかなって思ってさ。」

「う~ん、わたしの場合はボックルの何倍も大きかったから、こんな風に歩いては無理だったわ。」

「どうして?」

「だって、お人形が歩いてるのをみたら、みんな驚くでしょう?」

「そうかなぁ?」

僕は首をかしげた。

「そういうものなの」

「でも、それじゃあ持ち主の下にいけないじゃないか、どうやっていったのさ?」

「運かな。」

「運?」

「わたしは自分で移動できない代わりに色々な人の手をわたって行ったわ。その間にいろいろな国を回って、いろんなものを見て・・・」

「ふぅ~ん。で、どれくらいかかったの?」

「さぁ?どれくらいかかったのはわからないわ。きっと何十年だったのかもしれないわ。」

「そんなに長い時間・・・忘れられちゃうんじゃないのかな?」

「そうね。でも、わたしがあの人にたどり着いたとき、もうその長い旅でぼろぼろだったのに『ずっと会いたかったわ。』って、わたしのことを抱きしめてくれたわ。」

マリーは目をじっと閉じてそのときのことを思い出しているようだった。

「そっか、僕もどれだけかかるか分からないけど、ケンちゃんに会えたとき、『会いたかった』って言ってもらえるかな?」

「もちろんよ!だから一緒に頑張ってケンちゃんのところに行きましょ!」

「うん。ありがとう、マリー。」

僕は絶対に何があってもケンちゃんのもとにたどり着いてみせるとここに誓ったのだった。


「こっちなのかな?」

僕達はなんとか下水道から出ようと、出口をさがしてかなりの時間歩き続けていた。

しかし、いくら歩いても一向に出口は見えてこなかった。

「ねぇ、ちょっと休憩しようか。」

脇に転がっていた空き缶にマリーはちょこんと座る。

「そうだね、さすがに少し疲れちゃったよ。」

僕もマリーの横に座った。

マリーは腰のポーチから赤いものを2つ取り出すと、

「食べる?美味しいわよ。」

といって僕にその片方を手渡す。マリーは残ったほうをかじるともぐもぐと口を動かした。

「食べるって行っても・・・どうやって?」

僕もマリーのように口に持っていくが、かじるどころか、つるつると滑ってしまう。

「あ、そうか、食べれないんだった。ごめんね。」

「そうなの?」

「うん。その体では無理ね。でも、妖精になれば食べれるようになるわ。ポックルが妖精になるときまでとっておいて上げる。」

そういってマリーは僕から赤いものを受け取るとまたポーチにしまった。

「いらないよ。だって僕は妖精にならないから。」

「そう?妖精になったら他にもたくさん楽しいことが待ってるのに。」

そういいながらマリーは最後のかけらを口にぽんと入れて、指に残ったのを舐めた。

確かに食べるということに興味はわいたけど、でも僕はそれよりもケンちゃんと一緒にいるほうがいい。

そんなことを考えていると、暗闇の向こうからカサコソと音が聞こえてきた。

「うん?なんだろ、この音は・・・」

僕は音のするほうを剣で照らしてみた。するとその中から茶色のへらべったいものが浮かび上がった。

表面は光にたらされ、そこからピンと突き出た糸の様に細いものがゆらゆらと動いている。

「マリー、これなんだろう?」


僕の声に振り返ったマリーがそれを見てさっと顔を青くした。

「ご、ゴ、ゴキブリよ!」

「ゴキブリ?なにそれ?危険なの?」

ただならないマリーの様子に僕も背中の盾を構える。

「危ないってもんじゃないわ。こいつは何でも食べるの。ポロックあなたも例外ではないわ。」

「なんだって!」

驚く僕の光の向こうの闇の中に、どんどんカサコソという音が増えていく。

「一匹見たら百匹はいると思え・・・やばいわ、逃げないと!」

マリーと僕は走ってその場を逃げ出した。

カサコソカサコソカサコソ後ろから僕達を追ってくる足音が聞こえる。

「いつまでついてくるんだ?!」

と、急に目の前の地面がなくなってしまった。

「しまった!」

振り返ると壁、天井、床一面に何十という茶色の塊が剣の光にぼうっと浮かび上がった。

「追い込まれちゃったわ。どうしよう。」

じりじりとゴキブリがこっちによってくる。

もう僕達には後がなかった。

「マリー飛んで逃げるんだ!こいつらは僕がひきつけておくから!」

そういって僕は剣と盾を構えて一歩前に踏み出す。

そんな僕にマリーは

「そんなの駄目にきまってるでしょ!ポックルこそ逃げて!」

「いやだ、僕は女の子を置いて逃げるなんて出来ない。だって僕は戦士なんだから!」

意気込んでみたものの、でもどうしたらしい・・・この数はさすがにやばい。いざとなったらこの中に飛び込むしかないか・・・僕はそう思って下水のほうを見ると白い板のようなものがぷかぷかと浮いて流れてきた。

「これだ!マリー、あの白いのに乗ろう!」

僕はタイミングを見計らってポーンと飛び移る。

「ポックル待って!」

マリーも白い板に飛び乗ってきた。

水の勢いが早いせいか、どんどんさっきいたところから離れていく。

「間一髪だったわね。」

マリーはホッとため息をついた。そして僕に向き直ると

「ポックル、もうあんな無茶なことは言わないでね。」

「どうしてさ、」

「だってこの旅はあなたがいてこそなのよ。それにいざとなったらわたしは飛べるし、なんとかできるから。」

「わかったよ、・・・。」

きっとそれは本当のことなんだろう。僕はうなだれる。

「分かってくれたのならいいわ。でもさっきはありがとうね。ちょっぴりかっこよかったわよ。」

そんな僕を慰めるかのようにマリーは言った。

僕はそんなマリーの顔を見ることが出来ず、前を眺めた。すると奥のほうに白い点を見つけた。

「あれ、あんだろう?」

白い点はどんどん大きくなってくる。

「きっと、出口だわ!」

そして白い点は次第に光となり、そして僕達はその光の中へ入っていったのだった。







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