旅立ち
・・・・お、 おき おきて ・・・
遠くから声がする。
・・・・ねぇ、起きてよ、おきてってばぁ・・・
だんだんはっきりする声に、ぼんやりと目を開ける。
「ねぇ、聞こえてるんでしょ?こうなったら一発たたくしかないかな?」
何だって?一発たたくだって、僕はそれはたまらないと、目をこすりながら起き上がる。
「よかった、なぁんだ、ちゃんと聞こえてたんじゃない。」
目の前には僕の知らない知らない人女の子が立っていた。
「君は誰?」
「わたし?私は妖精よ!」
そういって女の子は僕に背中の羽をパタパタさせて見せてくる。
「妖精?」
「そ、あなたを迎えに来たの」
「迎えに?でも僕はどこにも行かないよ、僕にはケンちゃんがいるからね。」
僕とケンちゃんはいつも一緒だ。遊ぶときはもちろん、出かけるときも、食事の時も、寝るときもいつもいつも一緒だ。
「ふぅ~ん、あなたの持ち主はケンちゃんっていうのね?」
まるでバカにしたような言い草に僕はムッと来た。
「なんだ、悪いのかよ!けんちゃんを悪く言うやつは僕が許さないんだからな!」
僕は背中の盾と剣を構えた。どっちもケンちゃんがつくってもので僕の大事な宝物だ。
「なに?その手に持ってるのは、あははははよく見たら、びんのふたと、プラスティックの棒じゃないの。」
げらげらと笑い転げる妖精にさらに僕は
「いいか、聞いて驚くなよ、僕は誇り高き魔法の国の戦士、ポックルだ!ケンちゃんとたくさん冒険をして、どんな困難も乗り越えてきたんだ、とってもつよいんだぞ!あんまり馬鹿にすると、痛い目にあうぞ!」
ぼくは、胸をはって言ってやった。
「あははははは。ごめん、ごめん、でも、そんなに強い戦士様は、か弱い女の子に手を上げるのかな?」
さんざん笑って涙目になって、まだこみ上げてくる笑いをこらえてる妖精に、僕は
「もちろん手を上げたりなんかはしないさ、でもケンちゃんをばかにするやつはゆるさないんだからね!」
「わかったわよ、ところで、さっきからケンちゃん、ケンちゃんいってるけど、そのケンちゃんはどこにいるの?」
「どこって、すぐそこにいるよ!」
僕はケンちゃんを探す。いつも一緒なんだ、絶対に近くにいるはずだ。でも、どこにもケンちゃんの姿は見えなかった。
「あれ?おかしいな、いつもは絶対にそばにいるのに・・・」
そしてぐるっと見渡して、僕はまったく見覚えのない景色に驚いた。
「そういえば、ここどこなんだ?」
慌てふためく僕に向かって妖精がため息をつきながら、
「ここ?やっと気付いたのね、ここはごみ置き場よ。」
「ごみ置き場って、あのごみ置き場?」
「そ、ごみ置き場。用がなくなったものが捨てられる場所よ。」
聞き返した僕に妖精はすまし顔で答えた。
「うそだ、何かの間違いだ。きっとそうだ。だってケンちゃんが僕を捨てるなんて事はありえないんだから」
僕はそういってキッと妖精をにらみつけてやった。
「ちょっと、そんな顔しないでよ、怒るならあなたを捨てたケンちゃんに怒ってよね。」
と妖精は両手を挙げてお手上げのポーズを徒って見せた。
「とにかく、僕はケンちゃんのところに帰るから。」
僕は手に持っていた剣と盾をしまうと、妖精に背を向けて歩き出した。
「ちょっとまってよ、まだ話は終わってないんだから!」
僕はそういう妖精を無視した。
すると、急に地面が揺れて傾いた。
「うわぁあああ」
僕は何がなんだか分からずに、転がり落ちていく。
ぐるぐる目の前の景色が円を書いて僕くの周りをまわった。
転がりに転がって、ようやく止まって僕は立ち上がろうとしが、でもふらふらですぐに尻餅をついてしまう。
「大丈夫?」
さっきの妖精がパタパタと羽をはためかせて僕のところにやってきた。
「一体何が起こったんだ?」
「あそこから転がりおちたのよ!」
妖精が指差す先には、山済みになった箱や缶がたくさんあった。
そしてそれが次から次へと運ばれていくところが見えた。
「ほら、ごみ置き場だったでしょ?丁度ゴミ回収の時間のようね。」
嘘はついてなかったでしょといわんばかりに胸を張る妖精が憎らしかった。
もう一緒にはいたくはないし、なによりも僕は早くケンちゃんに会いたくてしょうがなかった。
「じゃあ、本当に僕は行くから、じゃあね妖精さん。」
再び歩き出す僕。
「だーかーら、まってっていってるでしょうに!」
そういって妖精は僕の前に回りこんできた。
「どいてよ、僕はケンちゃんのところへ行くんだから。」
僕は邪魔する妖精を手で脇に押しやってやった。
「ちょ、ちょっと、じゃあ聞くけど、あんたはそのケンちゃんがどこにいるかわかるの?」
その言葉に僕の足が止まる。それを見た妖精が、
「ほーら、わかんないんだ!それなのに一体どこへ向かおうって言うの?」
「う、うるさいなぁ、どこへ行こうが僕の勝手だろ?」
「あ、そう。でもあてずっぽうに探しても、この広い世界、人を探すのは大変よ?」
本当にいやな妖精だ。僕をからかって楽しんでいるに違いない。
「じゃあ、お前なら分かるって言うのかよ!」
乱暴に言い返す僕に
「もちろん、分かるわよ!」
そういと妖精は腰のポーチから一個、何か液の入ったビンを取り出した。
「ちょっとごめんね。」
そういって近づいてきた妖精は僕の頭のてっぺんをつねった。
「いたいよ!何するんだよう」
「あ、ごめんごめん。でもこれが必要なのよ。」
そういって手のひらには僕の頭からちぎりとった小さなちいさな塊があった。
「これをこの中にいれてっと」
そういいながらさっき取り出したビンのふたを開けてポチャンと手の中のそれを入れた。
そして僕の目の前でしゃかしゃかと振り始める。
「さぁ、色が変わってきたわ。」
ビンの中の透明だった液が黄色、赤色そしてピンク色になった。
そしてそれを満足そうに眺めると、
「じゃあさっきのプラスチックの棒、じゃなかった、剣を出して。」
僕は言われるがままに剣を妖精に手渡した。妖精はそれを手に持つと、
ビンのふたを開けて中のピンク色の液を剣に振り掛けた。
「あ、」
すると液はどんどん剣に染み込んでいってぼんやりと光を発した。
「はい、どうぞ。ちょっといろんな方向に向けてみて」
僕は手渡せた剣を軽く振ってみる。すると強く光ったり弱く光ったりするのが分かった。
「これって・・・」
「そう、これでケンちゃんのいる場所を探すのよ。ちなみに、ケンちゃんがいるほうに強く光るわよ。」
そう聞いて僕は強く光る方向を探した。するとある方向に強く光り反応した。
「どうやらそっちにケンちゃんがいるようね。さ、行きましょうか」
そういって背中の羽をはためかせて僕の前を行く。
「どうしたの?いかないの?」
歩こうとしない僕に振り返る
「あ、うん、いくよ」
そういって歩き出した僕に妖精が
「そういえばまだ自己紹介してなかったよね?わたしはマリー、よろしくね。」
そういってマリーは僕にウインクをしたのだった