0カウントから
いつもは前を通るだけの高級そうなホテル。陽が早めに落ちた外とは裏腹に、ここには始まりが詰まっているのかもしれない。招待状を確認するとエントランスの奥が会場らしい。集合時間は30分過ぎている。社会経験という建前で押し込んだ期待を見ないフリして、2年振りの社会にまた足を踏み入れる。
ー小室高等学校同窓会ー
グレーのスーツに身を包んだ秦海斗は招待状を受付に出し、名札を受け取る。
「名札は左胸にお願いします」
「了解です」
名札を言われた通り左胸に付け、会場の扉に手をかける。
「なにも変わりませんように…」
扉を開けて中に入ると、少しの緊張感と懐かしさを含んだ空気が立ち込める。1階の大広間に飾った男女が大勢集っている。海斗は近くにあったドリンクを手に取り、人に囲まれたテーブルを見る。左奥から右奥に向かって1組から5組、折り返して6組から左手前に10組までのテーブルがあり、カードが掛かっている。3年生の頃のクラスで集まっているらしい。3年4組だった海斗は右奥のテーブルに向かって歩いていく。
「やっと来た、海斗来ないのかと思ったよ」
「家の人にちょっと捕まっちゃって」
名前順で前後だった羽田はこの同窓会で4組の幹部。
「ふーん。ここのご飯美味いよ、取ってきな」
こいつは俺が嫌だと思うことをしない。全員に来たことを伝えることはせず、気負わないように配慮している。同窓会にあたって羽田は個別で俺に連絡をしてくれた。
海斗は首を縦に振って、グラスをテーブルに置き、壁沿いに置かれたオードブルを取りに行く。大学生にしてはお洒落な料理が用意されていた。その中に、小さなカップに入ったブルーのゼリーがある。海斗は取り分けていたお皿を置き、引き寄せられるようにゼリーを1つ手に取る。透き通ったブルーがきらきら輝いている。海斗は目の高さまで持ち上げ、会場の明かりにかざした。
「思い出すな…」
卒業後、忘れようとした記憶が自然と思い出される。海斗はゼリーを避けるように元の場所に戻した。すると、直ぐに同じゼリーが取られた。
「俺はずっと覚えてるけどな〜」
海斗は反射的に声の方に振り返ってしまった。そこには右手にゼリーを持ち、水色のスーツを着た大久保佐都がいた。
「海斗久しぶり」
海斗は佐都の目を見るので精一杯だった。




