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深夜の町内放送

作者: 米野雪子
掲載日:2026/07/03

夏のホラー2026参加作品です。

ホラー苦手な方は、逃げてください。



この町に引っ越して来てから、初めての体験だった。

そんなに田舎でもないのに、町内放送があるのだ。

幸いスピーカーからは、離れた場所に私のアパートはあるので、

大きな音では聞こえないし、騒音とまではいかない。


しかし、唐突に鳴り始めるこの音に、

私は毎回ビクリと体を揺らしていた。


昼間ならそんなに気にならないのだが、

結構な深夜に、いきなり鳴り出すのである。

これは、ちょっと怖い。





ピンポンパンポ~ン♪



〇〇家の〇〇さんが、00日の00時より行方不明になっており、

ただ今捜索活動をしております。

年齢は00歳、服装は上は〇〇で、下は〇〇、靴は〇〇です。

見かけた方、または保護されてる方は○○まで、ご連絡をお願いします。


繰り返します。


〇〇家の〇〇さんが、………~~~~

~~………………………ご連絡をお願いします。



ピンポンパンポーン……ブツッ





年齢から考えると認知症の老人の徘徊だろうか。見つかるといいけど。

あ~、いつ聞いても怖いんだが。何だろうね、この不気味さ。


この間なんて、光化学スモッグ注意報で濃度がどうたらで、

外出控えろとか放送が流れてきて、いつの時代だよと思ったわ。

まあ、防災無線の機能も考慮しての備えなんだろうけど、夜中はやめて欲しい。


静まりかえった夜の空間をあの無機質なアナウンスが、

一瞬で異質なものに変えてしまうのだ。



「もう、鳴らないよね?寝るか…」



そして別の日、夜中に町内放送が鳴り響いた。




ガタガタ…ブツッ…キィィ────ン……

ピン、ポンパンポ~ン♪



玄関のチャイムが鳴ります。

絶対に出ないでください。絶対に無視してください。


繰り返します。


玄関のチャイムが鳴ります。

絶対に出ないでください。絶対に無視してください。



ピンポンパンポーン…キィ─ン…ゴトンッ‼︎…ブツッ




寝入りばなに鳴らされた町内放送に、私は飛び起きた。


ちょっと!うるっさ、しかも何ハウリングさせてんの?

慌てて放送したのかな…しかも内容が意味不明なんだけど…テスト放送?


チャイムが鳴る?無視しろ?何の事よ?

イライラと腹を立てながら、上半身を起こした体を再びベッドに横たえる。


最悪。安眠妨害じゃん。


すると、隣の部屋の人がバタバタと走り出し、自室の玄関ドアを閉め直して、

ガチャガチャと鍵をかけているらしい音が聞こえて来た。


お隣さん…何してるの?

あんなに慌てて…さっきの…町内放送……


……私…鍵、閉めてたよね?


少し不安になって、そろそろと起き上がり玄関ドアの前に行った。

大丈夫。ちゃんとチェーンもかけている。

ホッと息を吐き我に返る。何やってんだろ、私ったら馬鹿馬鹿しい。

くるりと踵を返し、ベッドに戻ろうと歩き出した。





ピ ン ポ ー ン





………え?



肩越しに玄関ドアの方へ顔を向ける。


真っ暗な中で、ドアの下から廊下の明かりが漏れ入ってきている。



こんな、時間に…誰が…



玄関ドアの覗き穴に手をかけようとして、

ピタリと動きを止めた。


さっきの町内放送を思い出し、背筋がゾクリと寒くなる。




“ 玄関のチャイムが鳴ります。

絶対に出ないでください。絶対に無視してください ”




「…ひっ…」



思わず恐怖で声が出そうになり、慌てて自分の口を抑える。

何なの…これ…とにかく、離れよう…


足音を出さないよう、そろりと後ろに下がって身を引いた。

チャイムは、それ以降は鳴らなかった。


その夜は、訳の分からなさと不気味な怖さで、

なかなか寝付けなかった。




「町内放送?」


「はい。先輩の住んでるトコはありますか?」


「ないない。今時そんなの都内にあんの?

 ねえ、社長の住んでる所は町内放送ってあります?」


「あ〜、町内放送?俺の田舎の実家にはあるが、こっちではねぇな」


「だよねぇ。あんたどこに引っ越したんだっけ?」


「〇〇です。そんな田舎でもないのに、やっぱり変ですよね」


「〇〇?」


「はい」


「……そこさ、行方不明者がやたら多い地区だよね」


「は?」


「ある日忽然と姿を消す人が多いって噂があるんだよ。

 でも、事件性がないから公表はされてないらしいけど。

 それにしても、そんな気味の悪い町内放送聞いたことないわ。

 聞き間違いじゃないの?」


「…そうですよねぇ。寝入りばなだったから、幻聴だったのかも…」


「まあ、何はともあれ気をつけな。女の一人暮らしなんだから」


「はーい」



うわー、嫌な噂聞いちゃったなぁ。

引っ越したばかりだけど…他に移った方がいいかもしれない。

私はパソコンに向かい、ポスター初校デザインを黙々と進めた。



そして別の日、またあの町内放送が鳴り響いたのだ。



「…聞き間違いじゃなかった。今度はちゃんと聴こえた」



足を忍ばせて玄関ドアの前に立って、チャイムが鳴るのを待ってみる。

大丈夫、鍵はしてあるし、開けなければいいんだ。





ピ ン ポ ー ン





来たっ!


好奇心が抑えられず、両手をドアにそっと押し付け、

覗き穴に目をあてる。


………あれ?


誰もいないし、いつものアパートの共用廊下だった。


何だ、馬鹿みたい。何もないじゃん。あービビって損した。

ま、現実はこんなもんよ……寝よ。


身を引こうとすると、両手で触れていたドアが、

ギイ──ッと静かに開いた。


えっ、鍵閉めてたはずなのに……


ドアノブを握って閉めようとすると、

突然、凄い力でドアを引っ張られ、勢いよく開け放たれる。



「うわぁっ‼︎」



一瞬だった。


一瞬だけ目を瞑ってしまった次の瞬間、

私は一人で真っ暗の中で立っていて茫然とした。



「な、に…?どこ…ここ…何も、見えないんだけど…」



寝ぼけて、夢でも見てるのかもしれない…

あまりに現実離れした出来事に、私の思考は逃避し始めていた。


そして、私の腕を誰かが掴んだ。

いきなりの事に、体が跳ね上がる。

腕を掴んでいた人物が姿を現して、その表情にギョッとする。


満面の笑顔で、号泣していた。

歳は30代半ば位の女性だろうか…



「ありがとう、ありがとう!やっと開いた!やっと開いた!

 やっと出られる!でられるぅぅぅぅ────っ‼︎

 嬉しい、嬉しい、嬉しいいいいいいいっ!

 あはははははははははははははははははははははははっ‼︎

 きゃああああっ、うあああああっ───ああああ───っ‼︎」



彼女の凄まじい表情と感情に、私は呆気に取られてしまい、

無言で彼女を見つめていた。


そして唐突に、フッと姿が消えた。



「…………え?」



暗闇の中、私は一人取り残されたのだ。





「どこに行っちゃたんですかねぇ…折角コンペ取ったのに…」


「お前ら、この間…変な話してたよな」


「……え?…ああ!町内放送のことですか?」


「ああ…」


「えっ…、まさかぁっ、関係ないでしょ?」


「…………」


「………ドア…開けちゃったん、ですかね…」



返事の代わりのように、

社長は小指でリターンキーをタンッと弾いた。





どんなに叫んでも、私の声は暗闇に吸い込まれていく。


私は息を切らし疲れ切って、その場にへたり込んだ。





ああ、そうか。


次の人が、玄関を開けてくれないと、


出られないんだ。







お願い、誰か…



お願い…お願い…誰か…



ここから、出して…



早く、早く、町内放送を流して!



そして…誰か、玄関を開けて‼︎














ガタガタ…ブツッ…キィィ────ン……

ピン、ポンパンポ~ン♪



玄関のチャイムが鳴ります。

絶対に出ないでください。絶対に無視してください。


繰り返します。


玄関のチャイムが鳴ります。

絶対に出ないでください。絶対に無視してください。



ピンポンパンポーン…キィ─ン…ゴトンッ‼︎…ブツッ

















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