4. 「初めて見る大人の男と、闇に残された王子」
「ジュヨン、どうやら変態ではないみたいだ。部屋に布団を敷いておいてくれ。大きな怪我はしていないようだから……」
父さんがこう言わなければ、通報していただろう。
崩れた倉庫の破片の間から金髪の裸の男を抱き上げた父さんは、彼を背負って立ち上がった。 ジュヨンは依然として男を疑わしげな目でにらんでいた。
しかし最後の瞬間、なぜこの変態野郎が自分を守ろうとして体を投げ出し、ジュヨンを抱きしめたのか理由がわからなかった。 変態だから?
「ああ、何してるの? 重くて死にそうだよ」
慌ててジュヨンは家の中に入った。 狭いリビングを通り、寝室のタンスから布団を取り出す。 しばらく躊躇したが、リビングではなく寝室に布団を敷かなければならなかった。父さんが男を背負ったまま、当然のように寝室に入ってきたからだ。
「見てないで濡れタオルでも持ってきなさい」
正直に言えば、さっきから男の裸に目がいってしまうのは仕方なかった。 こんなに詳しく、長く、つまり好奇心を満たすほどに大人の男性のものを見たことはなかったからだ。 ジュヨンはそれが子供たちの小さなものより単に大きいだけではないことを、今日初めて知った。
ちらちらと見ていたジュヨンの目がどこにとらわれているのか、父さんは知っていた。 知らないふりをして布団をかけてくれた父さんは、ぼんやりしているジュヨンを急かした。
「あ、そうだ、濡れタオル! わかったよ!」
濡れタオル? 病人の看護なら慣れている。 父さんもジュヨンも母さんの看病を何年もやってきて、それなりの看護師も顔負けのほどに鍛えられていた。
アルミのたらいに温かい水を入れ、タオルを浸して寝室に持って行った。 父さんはそれを受け取り、男の顔や体を拭きながら傷を調べた。
「悪い人ではなさそうだ。何か事情があるのだろう。こんなに綺麗な顔をして、なぜこんなみじめな姿でうちに来たのだろう?」
まったくもってわからないことだ。 一つ推測できるのは、彼がどこかから空を飛んでジュヨンの倉庫の上に落ちてきたということだけ。
「落ちてきた? 空から? 空中から? 隣の家から?」
父さんは信じられないというようにジュヨンを見つめて聞いた。
「うん。地震が起きたかと思ったよ。それで倉庫があんな風になったんだ」
ジュヨンが実感を込めて話しても、父さんは依然として信じられない様子だった。 彼は今日、大学入試に失敗したジュヨンが馬鹿なことを言って正気ではないと思ったのだ。
「お前、どんなに古い倉庫でもあんなに崩れる高さから落ちたら即死だぞ! しかもボロくてもコンクリートでできてるんだぞ!」
そうなのか? ジュヨンは疑わしい気持ちで目を細め、死んだように眠っている男を見つめた。
「死んでるんじゃない?」 「さあな。病院に行くべきかな?」
そんなお金がどこにあるっていうの? ジュヨンはそう叫びそうになった。父さんの気持ちもジュヨンと似ていた。 それでも娘のために体を投げ出したこの男が、決して悪い人には見えなかった。
しかし、見た感じでは大きな怪我はなさそうに見えるこの男は意識が戻らない。
「カイ……私の息子カイ……」
声が聞こえた。 辺りは薄暗く、一歩も踏み出せない暗黒の世界だった。
母上、大地を穏やかな微笑みで包み込む女神ガイアの声がカイの意識を捕らえた。
「カイ……」 「カイ、私の王子様……」
声はもうガイアではなかった。 カイは別の声が誰なのか思い出そうとした。
「ここだよ……僕はここにいるよ」 「誰? 暗くて見えないよ」 「もう、いたずらっ子! さあ、私を愛して」 「これからは私を愛してね。うん?」
見えない闇の中でも、声の女性から漂う甘い花の香りが感じられた。 朝露を含んだアカシアの花の濃厚な香りがカイの鼻先に届いた。
「カイ、私のこと覚えている?」
別の女性だった。 カイは声の主が女性であることだけはかすかにわかったが、誰なのかはわからなかった。
「王子様、私をお見捨てになるなんて……」 「私だけを愛すると言ったじゃない」 「嘘つきのカイ……」 「カイ、私のところに来て」 「カイ……」
カイ、カイ、カイ……。 声たちは次第に近づいてきた。 そしてカイのそばで耳元で囁いているかのように接近してきた。今や息遣いさえ感じるほどだった。
パッ!
闇は瞬時に晴れ、声の主たちが一目で見えた。 突然明るくなった視界は、その光で相手を識別することができなかった。
「な、なんだ! 君たち! うわっ!」
女性たちは皆カイを取り囲み、恨みと軽蔑の眼差しを向けていた。 涙を流す者もいれば、冷たい表情を浮かべる者もいた。
誰かが近づいてきた。 女性たちが頭を下げて道を開け、その間を歩いてくる者がいた。
長い銀髪をなびかせ、天界の力を象徴する水晶の装飾が施された黄金の杖を持つエウルスだった。
「あ、父上……!」
厳かな顔で自分を見つめるエウルスを見たカイは、何も言えなかった。 しかしエウルスの視線は、非常に優しく温かい眼差しを帯びていた。
「息子よ、私はお前を信じている。人間界での時間は辛いだろう。しかし耐え抜け。この女性たちの涙と愛を無駄にしてはいけない。そこでの時間を修行だと思い、お前の力を取り戻すよう努めよ。お前は強くなるだろう。お前を信じている、カイ」 「父上! 父上!」
皆去って行くところだった。 エウルスがカイに背を向ける前、見るに堪えないほど悲しく哀れな眼差しで息子への愛と信頼を送った。
カイは喉が詰まった。 無鉄砲に過ごしてきた過去の時間が悔やまれた。
しかし、もう遅い。遠ざかるエウルスは振り返らなかった。 父上を呼ぶカイの切ない声だけが虚しく響いた。
カイと一夜を共にした女性たちもエウルスと共に去った。 列を成して去って行く彼女たちも振り返る者はいなかった。
「父上ぇぇぇ……」
長くこだまするカイの声が彼女たちに聞こえたかもしれないが、誰も振り返る者はいなかった。 彼女たちは皆光の中に消えた。
闇の幕を取り払った光の中で、カイだけが一人残された。 周囲を見渡しても誰もいないことが恐怖に変わり、これまで感じたことのない孤独が改めてカイを捉えた。
誰もいなかった。誰も。 熱い涙が流れた。




