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早朝、オルキディアはいつもの日課である剣の鍛錬をするつもりで帯剣した。


「これは....」


そのまま、一足飛びに地下牢まで向かう。


アイレとコルヌイエを、今日牢から出すことになっていた。


オルキディアは、王太子殿下にセルピエンテを手渡した時に、ある程度の報告をしていたので、その時に二人の処遇についても聞いていた。


アイレは主犯でないことに加えて、サルマン領やこれまでの王家ヘの貢献を鑑みて、今後は王家の監視下に置かれ、外出に制限がかかるくらいの罰になると王太子が言っていた。


コルヌイエ伯爵は、誘拐とはいえ未遂のため、土地の一部を没収される程度で済むということだ。ただし、しばらくは社交界で肩身の狭い思いをすることになる。


オルキディアは、見張りのシャリオに交代を告げて下がらせると牢屋の前に立った。


確認したが記録用紙には、時戻りのことは一切記録が無かった。

フェリスの部屋に無断侵入したことと、誘拐未遂について(したた)めた調書になっていた。

アイレの方も、誘拐を手伝ったと書いてあるだけだった。


アイレが、オルキディアに気付く。

すぐさま寄ってきて、鉄格子を両手でしっかり握って上目使いで訴える。


「キディ...私ね、キディとフェリスさんが仲が良くて焦っちゃったんだよ、だって私を好きって言ってくれてたでしょう?」


「コルヌイエ伯爵から聞いたの、キディは陛下から押し付けられてフェリスさんと婚約したって」

「私、なんとかしたいって思っていて...そしたら、コルヌイエ伯爵がちょっと手伝ったら、私とキディを婚姻させてくれるって言うから....」



オルキディアが、アイレに向かって(つぶ)やく。


「アイレ、時が戻ればいいのにな....」


アイレは、オルキディアがそんな非現実的なことを口にしたことに驚いた。

「そんな、夢みたいなこと言わないで私を助けてよ」


「そうか、夢みたいか....」


オルキディアは、アイレには時戻しの記憶がないことにホッとして息を深く吐いた。


「アイレは、コルヌイエ伯爵に(そそのか)されて手伝っただけだ、おそらく大したお咎めはないよ、今日迎えが来るから、王都に戻って大人しくしているんだな」





オルキディアは、柄にもなく牢屋から主室へ一目散に走って戻った。


主室から、続き部屋へ続くドアの前へ立つ。


息を整え、魔力を放出して剣に(まと)わせ、ドアノブごと内鍵を壊して、フェリスの寝室に押し入った。


迷うことなく剣を下ろしたので、余分な音がしなかった。


剣を素早く鞘に収めると、まだ眠っているだろうフェリスのベッドに音もなく忍び寄る。


フェリスは仰向けに行儀よく眠っていた。

呼吸に合わせて胸元が上下している。


オルキディアがベッドの端に腰掛けて、思い詰めたような瞳でフェリスのナイトドレスを横に引き裂き、腰の辺りまで引き下ろす。


2つの柔らかい山が、勢いで揺れる。


当初の目的を忘れて、オルキディアの視線は吸い付くように、フェリスのマシュマロのように白くてふわふわの胸に引き寄せられる。

オルキディアの、喉仏が大きく上下した。


フェリスは、布を引き裂く音で目を覚まし、目の前にオルキディアがいることに驚く。


視線をオルキディアに固定したまま、上半身を起こして、咄嗟(とっさ)に胸元を両腕で隠す。


フェリスはかなり混乱していてたので、何も言葉を発することができず、オルキディアを見つめ続けていた。


オルキディアは、ようやく我に返り無言でフェリスの両手首を掴んだ。


「や....」


一気に左右に開いて胸元を凝視する。


フェリスの胸元の傷跡が、以前クライトの店で見たときと同じように残っていた。


「オ、オルキディアさま....」

フェリスは恥ずかしくなってうつむく。


フェリスの視線が、(あら)わになった胸元へいく。


「え__傷が....昨夜は消えていたはず」


「フェリ...」

オルキディアがベッドに上がり、フェリスを抱きしめた。

「君も、一度目の記憶がまだあるんだろう?」


「そ、そういえば....」


「今朝、剣を手にとった時に感じたんだ。次の後継者が現れるまで君と私の記憶は消えないって」


フェリスは、嬉しくて思わず口元が緩んだが、すぐに別の心配が頭をよぎる。


(この胸の傷跡は....記憶の代償?)


「では、オルキディアさまも、なにか代償が....?」


「魔力が、半分ほど剣に吸収された気がする」


「それは、大丈夫なのでしょうか?」

フェリスが心配そうな顔で、オルキディアを見上げる。

オルキディアは、フェリスが心配をしてくれたのが嬉しくて、額にキスをする。


「ワイバーン討伐くらいの規模になると、しんどいかもしれないが、魔力がなくなったわけではないし、大丈夫だ。こんなに嬉しいことはない」


そう言った後、弾かれたように、オルキディアがフェリスを抱きしめていた手を緩めて、フェリスから体を離した。

「済まない、気が急いて....」


オルキディアが、フェリスから体を少し離したことで、フェリスの胸元が露わになる。


「あ、あの...ごめんなさい」

フェリスの顔が羞恥心で赤くなり、胸元を急いで腕で隠す。



オルキディアが焼き切れそうな理性を総動員させて、視線を()らしながらブランケットを手繰り寄せ、フェリスの胸元を隠すように(おお)った。



「フェリ...私は今から部屋を出る」

オルキディアは自分に言い聞かせるように、しっかりと口にする。



フェリスは、まだもう少し一緒にいたくてオルキディアの手を掴んだ。

「オルキディアさま...」



オルキディアの体が、固まった。


フェリスに掴まれた手から、熱い血液が一気に全身にめぐるような感覚になる。


「フェリ...」

オルキディアが、性急にフェリスの腰を引き寄せてキスを仕掛ける。


不意に、場に似合わない可憐な笑みを、フェリスが浮かべた。


「フェリ...?」

オルキディアが、(けが)れのないフェリスの笑みを目の当たりにして、性急過ぎた行いを反省し、呼吸に集中して邪念を払う。


オルキディアの状況なぞ露知らず、突如遊び心が湧いたフェリスは、クライトの店でしたやり取りをもう一度再現したくなった。


自らブランケットを少し下げて、胸元の傷跡を(さら)す。


オルキディアの視線がそこに縫い付けられ、理性を失いフェリスの腰を抱く手に力が入る。


オルキディアの目が伏し目がちになり、フェリスの唇に自分の唇を重ねようとした時__フェリスの鈴の鳴るような声が、聞いたことのある言葉を暗唱した。


「サルマン卿、見ての通りなのです。原因はわからないのですが...目が覚めたら急に胸元にこのような傷がありましたの」


オルキディアは、フェリスにその気がないことがわかって苦笑いした。

そして、ある一場面(ひとばめん)が鮮明に蘇る。


フェリスは、そのまま続ける。


「サルマン卿に相応しくありませんでしょう。この婚約を破談にしてくださいませ」



オルキディアは、フェリスを優しく抱きしめた。

フェリスの、この可愛い遊びに付き合うことにした。


「傷のことは....気にしなくてよい。そのようなことでは婚約の解消などしない」


記憶力はいい方だと、2度目のセリフを口にした。



二人の視線は絡み合い、どちらともなく唇を重ねた。












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