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オルキディアのエスコートで、主室の方から続き部屋の衣装ルームに入る。


衣装ルームに足を踏み入れると、最初に見たときよりもドレスの枚数が減っていた。


(え...?これ__減ってるというより、ドレスが全部入れ替わっている?)


「オルキディアさま、ドレスが...」


「あ、ああ。よく気付いたね、君のイメージで全て(そろ)え直したんだ」


「フェリ、こちらへ」


目の前に、一見扉とわからないように壁にカモフラージュされている扉がある。


フェリスは、衣装ルームの奥にもう一つ隠し扉があったのをはじめて知った。


「いざという時に身を隠す用になっている、婚姻後に教えようと思っていた」


オルキディアが扉を開けて、壁に備え付けてあるランプに明かりを点けてから、フェリスの腰に手を添えて、隠し部屋の中に誘導する。



部屋の真ん中に一台のトルソーが置いてあり、純白のウエディングドレスが着せてあった。



フェリスは目を輝かせた。


「素敵です」


よく見ると、一度目の時に準備してあったものとデザインが少し違っていた。


一度目の時は、婚礼用ドレスはオルキディアの方で準備がしてあり、フェリスは一度サイズを合わせただけだった。


(今回は、わざわざドレスのデザインを変えてくださったのね)



(....なにかしら...この違和感)



ウエストからボリュームをもたせて、裾に広がっていくプリンセスラインというところは同じだが__チュールのやわらかな質感や、大ぶりの花の刺繍など、一度目のドレスは全体的に甘い感じで仕立てられていた。


いま目の前にあるものは、ドレス全体に銀色の糸で煌めく刺繍が施してある。スクエアネックでデコルテが美しく見えるようなデザインで、ゆるやかなオフショルダーが上品で洗練されている印象だ。可愛らしいというより清楚な感じだ。


(もちろん、こちらのほうが私に合う...)


フェリスは、衣装ルームのドレスと、一度目に準備されていたウエディングドレスが、全て同じような可愛らしさを全面に出したデザインだと気が付く。



(このドレスのイメージは....)


(ずっと、アイレさまの態度に違和感があったけど...)


フェリスは違和感の原因に、ようやく気付いた。


(そうだったのね....)



「オルキディアさまは、聖女アイレさまを愛しておられたのですね」


オルキディアが目を見開いた。




「最初に衣装ルームにあったドレスは、すべてアイレさまを思って準備されていたんですね。可愛らしいイメージのものが多かった」


「私は清楚なものをよく身に着けるんです。アガットが清楚で可愛らしい物が好みなのです。そう目の前のウエディングドレスのような」


「このドレスは私のためのものでしょう.....では最初のは__私のためのものではなかった」



オルキディアが、隠し扉を後ろ手で閉めた。

鍵を掛けた音が、聞こえた。


オルキディアの(まと)う雰囲気が、変わった。



フェリスを恋い焦がれるような目で見つめ、すぐに間合いを詰めた。


オルキディアが、フェリスを壁側に追い詰め耳元で囁く。身をよじると、フェリスの背中が壁に接触した。


「ドレスで気付くとは.....さすがだ、フェリ」


吐息とともに送り込まれるオルキディアの声は、低くて柔らかく官能的で脳が痺れる。

足に力が入らなくなったフェリスの腰を、オルキディアが強く抱き込む。



「アイレのためのドレスを準備した時よりも、前の時間に戻れればよかったのだが....さすがにドレスの変更は間に合わなかった」


「ただ、君がクライトの店で、マーメイドラインのドレスを着て見せてくれたとき、先走って注文しなくてよかったと思ったよ、あの後クライトとすり合わせて君に合うデザインを頼んだが、さすがに数が揃わなくてね、まだこれから届くから安心して欲しい」


オルキディアが、フェリスの腰に手を這わせる。

近過ぎる距離に戸惑い、フェリスがオルキディアの胸元を押す。


それを煩わしく思ったオルキディアが、フェリスの両手首を頭上で一つにまとめた。


もう片方の手で、フェリスの顎を(すく)い強制的に目を合わせようとする。


ランプの火影に照らされて見えるオルキディアの瞳は、不安と狂気が入り混じって息を呑むほど、妖しく美しい。


低くてよく通る甘い声で、語り始める。


「セルピエンテが、すべての始まりだ。レイ...王太子がどこで聞きつけたのかその毒を入手するように言ってきてね、それで、急遽(きゅうきょ)私と君の婚姻が整ったわけだ。うまくことが運べば聖女アイレを娶っていいと言われた」


フェリスは生唾を飲み込んだ。


オルキディアが、フェリスの鎖骨から耳の後ろまで、指の背で下から上へ撫でるように触れていく。


「何度か君の屋敷に招待され、その都度セルピエンテを探ったがどこを探してもない。しょうがなく君を婚姻の準備という名目で3ヶ月早めに城に呼んだ。必ず持参すると踏んでね」


「ところが、何故かレイが....王太子殿下がアイレに何も伝えていなかったんだ。アイレは私が本当に婚姻すると思って帰ってきてしまった。君を狙っていたコルヌイエ伯爵の入れ知恵だったんだろう」


「そして、ここからが大誤算だ」


オルキディアがフェリスの目を見つめて、視線を離さない。



「君と一緒に生活するうちに、君の(たお)やかな所作に目を奪われて、慎ましやかで、可憐なところに強く惹かれてしまった」


「反対に久しぶりに会ったアイレは、聖女の力を得たせいなのか、王宮で過ごしたせいなのか、元々そうだったのか...性格が豹変していた。計算高くて、人にちやほやされて、自分が常に人の輪の中心にいないと我慢できないような高慢な性格になっていた」


「君は、アイレのわがままにも感情を荒げることなく、いつも一歩引いて笑顔を絶やさない、私の心がだんだん君に惹かれていくのが、自分で手にとるようにわかったよ」


「王太子に、正直に告げて君を正式に妻にしようと思っていた矢先、コルヌイエ伯爵が君を簒奪するために魔物を城に仕込んだ。騒ぎに乗じて君を攫うつもりだったと先ほど言っていたしな__ところが、私がフェリを愛していると、気付いたアイレがコルヌイエ伯爵の計画に便乗して君を殺した」



フェリスが、拘束された腕を解こうと身をよじる。オルキディアが片方の口角を上げた。


「時戻しの剣には、まだ秘密がある」


「制約が外れて私がこうして剣のことを話せるのは、明日には私を含め皆一度目の記憶が、二度目の記憶とすべて置き換わるからなんだ。私を含めて、時戻しのことは全て忘れる、なかったことになる」


「本当は制約が外れるのはもう少し先のはずだったんだが、アイレが聖力で代償である聴覚と味覚と君の傷を癒してしまったから、剣の効力が切れるのが早まった」


「この剣の能力は、剣を手にした者がその適応があれば、剣から直に知識として流れ込む。明日を境に次この剣を引き継ぐものが出るまで、誰も時戻しのことを知るものはいなくなるんだ」


「君はこの話は明日には覚えていないよ。時戻しに関する記憶は消される」


オルキディアが、目を伏せた。


「二度目の私は君に忠実だったし、君を守ることを最優先に動いたが....先ほどの話で__君の心は私から離れてしまっただろうか」


オルキディアの声が、少し震えていた。


オルキディアの唇は、フェリスの唇を(かす)るほど近いのに触れることはない。



「オ...オルキディアさまは、一度目のときも私を愛してくださったから剣の能力を使われた、代償と制約を知って、そうでしょう?」


オルキディアが、フェリスの言葉を聞いて目を見開く。


「ああ...一度目の君は、慎ましくて控えめで好感が持てた。知らない間に好きになっていた。二度目の君は意外と激しい一面も持ち合わせていると知ってさらに魅力的だと思った_愛している」



「私の気持ちも、先ほどの話を伺っても変わりませんでした。オルキディアさまをお慕いしております」

オルキディアが、ようやくフェリスから少し離れてフェリスの目を見つめる。


「明日の朝が怖いです、明日も同じように私を愛してくださっていますか?一度目の私があなたから居なくなるんでしょう?」


オルキディアは、フェリスに受け入れてもらえたことで箍が外れた。


オルキディアが、フェリスの頭上でまとめた両手首を持つ手に力を入れて腰を引き寄せた。


「フェリ、君はもう少し自重して物を言うんだ。この城では私を止められる者はいない。しかもここに踏み込める者もいないのに...」


感情も自制心も抑制できなくなったオルキディアは、そのまま(むさぼ)るようにフェリスに口付けた。














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