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オルキディアが、フェリスを牢屋の死角になるところまで連れて行く。
大柄な男が、オルキディアに気付いた。音を立てずにオルキディアのもとまで来て頭を下げる。
「シャリオあれから、どんな感じだ?」
「2、3時間ほどで自白剤は切れていますので記録は取り終わっておりますが、今朝から、お二人で同じような内容の話を蒸し返してずっと続けています」
オルキディアが、牢屋の前に立った。
コルヌイエが、オルキディアの姿を認めて、非難がましくオルキディアに言った。
「私は、倒れていたフェリス嬢を助けただけだ。それをこんなところに閉じ込めて、いくらサルマン辺境伯でも許されない行いですよ。早くここから出しなさい」
コルヌイエが、椅子から立ち上がり鉄格子に近づく。
「理由なら、今コルヌイエ伯爵がご自分で話されたではないですか?フェリスの部屋に無断侵入したことと、誘拐の現行犯ですよ」
アイレが鉄格子を揺さぶる。
その都度ガシャンガシャンと音が地下牢に響く。
「キディ私は、関係ないでしょう!」
「何を言っているんだ?アイレは、時が戻る前にフェリスを殺しただろう」
オルキディアが不敵な笑みを浮かべる。
アイレが目を見開いた。
「時戻し...キディにも記憶があるの?」
コルヌイエは、オルキディアが時戻しに関与していて、最初の記憶がありそうだと悟ると大人しくなった。
「聖女アイレさま_時戻しにサルマン辺境伯が関わっているなら、用意周到に証拠も押さえてあるだろう。我々はもう言い逃れができない状況みたいだ」
「コルヌイエ伯爵は、フェリスの誘拐で陛下から刑の沙汰がある。アイレはその共謀罪だ、時戻しの件が明らかにならなくてよかったな。フェリスの殺害については罪に問われない」
「時が戻る前も、君らは手を組んでいただろう?フェリが殺されたあと調べたんだよ。城内にコルヌイエ伯爵の息のかかった者が、何人も潜り込んでいたから証人を見つけるのは容易かったよ」
「時が戻っても、君らは手を変え品を変えで同じことをやってくると思っていたから、最初から見張っていた」
それだけ告げると、フェリスを連れて牢を出た。
裏口の扉を出ると、フォルクとアガットが控えていた。
オルキディアが、二人にするように目で指示するとフォルクがアガットを連れて離れた。
「このまま、少し庭園を散歩しようか?」
差し出された手を取って、手入れの行き届いた庭園を歩く。
「フェリとコルヌイエ伯爵とアイレと、私の我々4人が、剣に時戻しの代償に選ばれた」
「代償はフェリが傷、アイレが聴覚、コルヌイエ伯爵が味覚_私が命だった。その対価が記憶だ」
フェリスが耳を疑った。
「オルキディアさまの命を代償に時が戻った...?」
(あの燃えた絵本の騎士さまと同じ?)
「この剣の時戻しは、能力を保有する者だけが剣を継承すると、一度だけ命を代償に使うことができる。どういう基準で選ばれるのかわからないが私の命と別に__代償を剣が選び、その対価に記憶が与えられる」
「じゃあ、私は剣に選ばれたのね...胸に大きな傷があった。その対価が記憶...」
「私の方は制約があって、時戻し時点までに私が時を戻したと気付かれると剣と私は消滅する」
「そんな、危ない橋を渡るようなことをなさっていたのですか?」
「あの日、討伐から帰った私はフェリの部屋を訪ねた。部屋は酷い有様だった__君は血の海に浮かんでいるようだった、時を戻すのに迷いは無かったよ」
「それに、今回は新たなフェリの一面が見れて得した気分だったよ」
オルキディアが、庭園の一番見晴らしのいいところで片膝を付いた。
「私たちは政略結婚で婚姻することは決まっているが....フェリ、私と結婚してほしい」
「オルキディアさま...私は夜会であなたと初めて踊った時からずっとお慕いしております」
オルキディアがフェリスを見上げて請うように言う。
「ここでキスをしても許してくれるかい?」
フェリスの頬が一瞬で赤に染まる。
返事の代わりに瞼を閉じる。
気配を感じると同時に唇に温かいものが重なる。
それは、優しく押し付けられて、すぐに離された。
唇に余韻はあるのに、物足りなく感じさせる絶妙なさじ加減でオルキディアは唇を離した。
おかげで、フェリスはオルキディアの唇を目で追ってしまう。
「衣装ルームに行こう、見せたい物がある」




