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3人のうちの一人が、聞き耳を立てていたフェリスに目ざとく気がついた。


今夜のフェリスの装いは、グリーンのワンピースで以前アガットが調達してくれた地味なワンピースだ。

同色のボンネットを目深にかぶっていた。



「あなた、討伐後にオルキディアさまに連れ去られるように担がれていった侍女ね!」

「ララが言ってた、フォルクさまを誘惑していた女って、こいつのこと?」

「そうよ!」


一人の女が、急にフェリスのボンネットを脱がせた。

「地味だけど、美人じゃん」


アガットが、すぐにフェリスと女の間に体を滑り込ませた。



「なに、急に感じ悪い〜」

ララと呼ばれた女が急に大きな声で騒ぎ出す。


周りにいた人が、フェリスたちに注目する。

「アガット、行きましょう。中央広場に行けばオルキディアさまもいらっしゃるでしょうから」


「ちょっと美人だからって、領主さまに構われて私たちとは違いますって?」

「ララ…こんな人に構ってないで、フォルクさまを探しに行こうって」


どんどん人集(ひとだか)りができてくる。

「フォルクさまには色目を使っても無駄だからね!」


「なんて...言い草!」

アガットが今にも怒りだしそうな空気を察してフェリスが止める。

「アガット、人目を引いてるから……ちょっとあっちに行きましょう」


フェリスは、アガットを連れて人混みを抜けその場を離れる。


広場から少し離れた所で、人けが少なくなった。


「フェリスさま、あのような者にあんな口の聞き方を許すなどあってはならないことです」

「わかっているわ。とにかく、今夜オルキディアさまが私を領民に紹介するとおっしゃっているから、それまでの辛抱よ」

なんとかアガットを宥める。


「では、フェリスさま。早くオルキディアさまのもとに参りましょう」


「ええ、中央広場に警備室が設置されているとおっしゃっていたからそこに向かいましょう」

ここまで来たが、先程のように絡まれた時、護衛もなしで出かけたことが悔やまれる。


二人は中央広場に戻る。


警備室はわかりやすいところにあり、すぐに見つけられた。

二人は人混みを掻き分け警備室に向かう。

目の前が警備室で二人は安心しきっていた。


不意にフェリスの腰に腕が巻き付く。

「え...」

アガットは人混みの多さで、フェリスが捕らえられたのに気が付くのが一瞬遅れた。

「アガットっ」


「フェリスさまっ」

アガットが振り返った時は、覆面をした大柄な男にフェリスが抱え込まれて、手を伸ばしても届かないほどに距離が空いていた。


「フェリスさま、誰か!人さらいです!」

アガットは声を張り上げたが、周りの喧騒に掻き消される。

アガットは急いで、警備室に駆け込んだ。


扉を勢いよく開ける。

「騎士の皆さま、助けてください!」

息が上って真っ青な顔で飛び込んできたアガットを見て、フォルクがそばに駆けつけてくれた。


「どうなされたのですか?」

アガットが肩で息をする。

「フェリスさまが(かどわ)かされました。お助けください」


「あなたは?」


「申し遅れました、フェリスさまの侍女をしておりますアガットと申します」


「アガットどの、こちらへ。」

警備室の奥に扉があって、フォルクがノックをする。


「入れ」

警備室の奥の部屋には、応接室のようなものがあって、そこにオルキディアがいた。


オルキディアは、ちょうど密偵らしき男から報告を受けていた。狼狽しているアガットの姿を見て、気の毒に思う。


「アガット、すまない不安にさせた。フェリスの連れて行かれた場所には目星がついている」


「フォルク、出るぞ」


「私も行きます」

アガットが(すが)るようにオルキディアを見た。


「......フォルク、彼女の護衛も頼む。シャリオ、打ち合わせ通りだ」

「了解」


オルキディアを先頭に、シャリオと少し遅れてフォルクとアガットが続く。


暫く走ると、建物の影になるところに馬車が止めてある。


この辺りは、星祭の広場からそんなに離れてはいないが、古い建物が乱立していて見通しがよくないので、人目に付きにくく、隠して馬車を止めるにはお(あつら)え向きだった。


オルキディアたちが近づくと、見張りの隊員がオルキディアに頭を下げる。オルキディアたちは、馬車から死角になるところに身を隠す。


「隊長、言われたとおりに馬車の牽引具を壊しておきました。御者と護衛が2名、先ほど馬車の調達に出てます」


「中に乗っているのは?」


「聖女と覆面の男と、護衛らしき身なりの男が1名馬車に乗り込むところを確認しています」


「聖女が先に到着して乗り込み、しばらくして覆面の男が女を担いで、そのすぐ後ろから護衛らしき身なり男が追従して、馬車に乗り込んでました」


「その後すぐに、聖女とコルヌイエ伯爵が揉めている声が聞こえました」


「コルヌイエ伯爵も、馬車内で待機か?」


「中でコルヌイエ伯爵の名前を、聖女が何度も呼んでいたので間違いないと思います」


見張りの隊員が状況を思い出しながら報告する。


「覆面の男は身をやつしていましたが、もしかしたらコルヌイエ伯爵自身かもしれません。...そうなると、今馬車内には3人のはずです」


フォルクがその意見に異を唱える。

「コルヌイエ伯爵が、人の領地内に自ら乗り込んできて、自ら誘拐をするとは考えにくいですが...」


「フェリが欲しくて気がせいたのだろう、一度目のようにアイレに勝手に殺されてはたまらんだろうからな」


「隊長?」

よく聞き取れず、フォルクが聞き返す。


「独り言だ...気にするな。私も覆面がコルヌイエ伯爵だと思う。自ら担いできたと聞いてなおさらそう確信した」


オルキディアが見張りの隊員に、次の指示を出す。

「御者と護衛が戻ってきたら、相手をしておいてくれ」


「よし、コルヌイエ伯爵がとアイレがいるなら馬車を確保しよう」


「シャリオ作戦通り行くぞ。アガットは私と一緒にここから動かないように。星祭の最中だ、平和的にいくからここにいても大丈夫だ」


シャリオが足音を立てないように馬車に忍び寄る。


大男のシャリオが力を入れて、馬車を揺らした。

誘拐目的で用意した馬車は、外から見えないようにわざわざ窓がなかった。


「なに、地震か...」

「やだ、馬車から出ましょう」

周りは人けのないところを選んだせいで、古めかしい建物が多かったのを思い出す。

下手したら建物が倒壊しそうな揺れだ。


「くそ、仕方ない...慎重に降りるぞ。聖女、足を持て。意識のない人間は重たいから手伝え」

「それ私に言っていいるの?フェリスさんを置いていけばいいじゃない」


シャリオがさらに馬車をもう一度大きく揺らして、手を止めた。

中では、悲鳴があがる。

「今のうちだ、また揺れる前に一度外へ避難して状況を確認するぞ」

「そこの護衛に持たせれば、いいじゃない...」

アイレが抗議する。

護衛そっちのけで、か弱い自分に持たせる神経を疑った。


「私の目の前で、私以外の男に触らせるなど言語道断だ」


「私じゃ落としちゃうかもよ...」

落とすと聞いて、コルヌイエがしぶしぶ提案した。


「仕方ない、聖女の手の上からお前が持て」

コルヌイエ伯爵が護衛に命じる。


外で一連のやり取りを聞いて、シャリオは吹き出しそうなのを我慢するので大変だった。


3人がフェリスを抱えながら、そろそろと慎重に出てきて、手がふさがっているところを捕らえる。



護衛が聖女の後ろからピッタリ覆い被さるようにして、聖女の手に手を重ね、フェリスの足を支え馬車を後ろ向きに慎重に降りてくる様にシャリオは我慢できずに吹き出した。


続いて、覆面を取っていたコルヌイエがフェリスの脇の下から腕を入れて、慎重に馬車から降りてくる様はかなり奇妙な構図だった。




フォルクが剣の刃をコルヌイエ伯爵の首に突きつけた。


オルキディアがコルヌイエ伯爵と、アイレの手からフェリスを回収する。

「フォルク、シャリオ、二人を拘束して地下牢に案内しておいてくれ」


オルキディアがコルヌイエの顔を間近で見て、確認した。

「コルヌイエ伯爵、アルモアダ伯爵令嬢を誘拐した罪で捕らえる」

「現行犯だ、覚悟しておくんだ」


「キディ...私、まさか私も捕まえるの?あなたの妻になるために頑張ったんだよ。キディが何もしてくれないから...」


























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