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コルヌイエ伯爵の無断侵入の日から、5日ほど経った。
ようやくまた普段通りの日常に戻り、気持ちも落ち着きを取り戻した頃にアイレの訪問があった。
フェリスは、少し警戒をして表面上は快く迎えた。
アイレは開口一番、フェリスにとってトラウマになっていることを悪びれもなく聞いてきた。
「コルヌイエ伯爵がこちらに先触れもなく来ちゃったんでしょう?困った方よね。まあ、恋をするのに年齢は関係ないし、どうしても我慢できなかったみたいだから許してあげて」
フェリスは今の言葉に違和感を感じた。
(どうしても我慢できなかったみたい...?なぜアイレさんがコルヌイエ伯爵の気持ちをご存知なの?)
フェリスは、自分が死んだきっかけを思い出した。
【あのセミージャをくれたのは、聖女アイレさま。もしや、今回のコルヌイエ伯爵の無断侵入に手を貸した?
前回は、二人で討伐に行って城の人間は皆、誕生会の準備で大広間に集まって私一人だった。
今回の星祭でなにかが起きるの?
アイレさまが、コルヌイエ伯爵と繋がりがあるのは間違いないような気がしてきたわ。
でも断言できるだけの確証はないわね。全て私の推測でしかない....】
フェリスは、鎌をかけることにした。
「アイレさま、私オルキディアさまに予定通り7の月の30日に結婚式をあげようって言われて、抱きしめられたんです」
フェリスはわざと幸せいっぱいの顔をする。
アイレは、面白いくらいに反応を返した。
「あなた、いい気なものね。城の使用人も騎士も、全ての人があなたのことを娼婦のように思っているわ。ノアとの噂があまり広がらずに残念だったけど、この間のことがもう噂になってるわ。あなたがコルヌイエ伯爵を部屋に誘い込んだって。早く婚約解消なさったほうがいいと思うけど。あの城にあなたの居場所なんてないわ」
(聖女アイレさまは、最初から私を敵視なさっていたのね。)
(じゃあ、前回モストロベアを仕掛けたのもアイレさま?ひとりでそんなだいそれたことできるのかしら__前回もコルヌイエ伯爵と手を組んでいたの?)
「フェリスさま、顔色が....」
近くで控えていたアガットが、心配して寄り添う。
「アイレさま、少し具合が悪くなりました。申し訳ございませんが、今日はもうお引取りください」
「それは、良くないわ。私が癒やしてあげましょうか?」
アイレが心配そうに、フェリスの顔を覗き込んでおでこに手をかざす。
柔らかい光が、アイレの手のひらから溢れて、フェリスを包み込む。
すぐに体が温まり、睡眠をしっかりとったときのようにスッキリする。
「アイレさま...素晴らしいお力ですね」
フェリスは立ち上がり頭を下げた。
アイレが笑顔を見せた。
「こんなところに閉じ込めてるキディが良くないわ。星祭が終われば出られると思うわ。コルヌイエ伯爵がここから出してくださるわ」
(なんでかしら...アイレさまの態度に違和感を感じる)
「アイレさまは、コルヌイエ伯爵のことをよくご存知ですね」
「去年、王宮に来られて私の後見人になってくれるって約束したの。コルヌイエ伯爵が、私は聖女だけど元が平民だから、キディの妻になるには支度金とか用意できないだろうからって」
「フェリスさまとキディの結婚って異例の速さで決まっちゃたでしょう?」
「もう式が目前じゃない?居ても立っても居られなくて、ずっと渋ってた国王陛下をなんとか説得して、急いでこっちに戻って来たの」
「もし私が、キディの婚約者になったらフェリスさまには、不名誉な事で、次の婚約者が見つからないだろうってコルヌイエ伯爵が言ってね、フェリスのために自分が正妻として迎えるって言うのよ、いい人でしょう」
(なぜ、私という婚約者がいるのに、こうもオルキディアさまと結婚できると思っているのかしら...ああ、そうよ違和感はこれだわ)
「アイレさま...星祭はコルヌイエさまの提案ですか?」
「そうよ、それをキディに提案したのは私よ。コルヌイエ伯爵がキディに自分の存在を明らかにするなって言うから」
今回のフェリスは以前と違い、貴族令嬢あるまじき行動力を見せているので、オルキディアはフェリスに中途半端な情報を伝えて下手に動かれると困るので、フェリスにはなんの情報も与えていなかった。結果としてフェリスは独自で少ない情報源で色々考えることになってしまっていた。




