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「済まない、執務室にいたんだ。密偵が報告に来たが、隠し通路を使わなくてはいけないから、駆けつけるのが遅くなってすまなかった」


アガットがオルキディアを見て、一礼して壁際に控えた。


オルキディアが、フェリスと目を合わせるために真っ白な絨毯の上に片膝を付いた。



先ほどコルヌイエ伯爵の急襲にかなり気が昂ぶっていたフェリスは、目の前の漆黒の髪と瞳を見て安堵とともに、オルキディアに対して抑えていた恋慕と嫉妬が一気に吹き出した。




(さっきのコルヌイエ伯爵の言うことが本当なら、オルキディアさまは聖女アイレさまのものになるんだわ...王家が圧力をかけたに違いないわ。なら…もうどうしようもないもの。)



複雑な感情は、はらはらと涙となって流れ出た。



「毒を、回収したのでしょう?後生ですから返してください」

オルキディアが、指の背でフェリスの頬を伝う涙を壊れ物を扱うように優しく拭う。


「怖い思いをさせた。もう少し...星祭が終わる日まで待って欲しい。それまでは...」


フェリスは、目を伏せた。

「…待てば、必ず返してくださるのですね」


オルキディアが、フェリスを慰めようと抱きしめる。


フェリスは、オルキディアが当たり前のように抱きしめてくるのに戸惑ったが、オルキディアの鼓動を聞いているうちに、昂ぶっていた気持ちが鎮まってくるのがわかった。



「王都に行かれていたのですか?」


フェリスの声が落ち着いて、穏やかな声に変わったのに気付いてオルキディアが、安堵の微笑みを見せる。


「...王太子殿下に個人的な用事で、会いに行ってきたんだ」


王太子殿下はオルキディアの学友だった。


それを聞いたフェリスは、自分でも気付かないうちに爪が食い込むほど手を握り込んでいた。


(こんなに感情が制御できないなんて、前回の私では考えられない...)


「王太子殿下に?聖女アイレさまを妻に迎えるように王家から圧力があったのではないのですか?」



(オルキディアさまのせいだわ....私を甘やかすから弱くなってしまっている...)



「昨日、アイレさまがお見えになって、私がコルヌイエ伯爵の妻になるとおっしゃっていました。王家からそのように話があれば、オルキディアさまもお受けせざるをえないのではないですか…」


(こんなこと言うべきではないのに...私はなんてみっともないの....)



オルキディアが、フェリスの力いっぱい握り込んだ手を見て、優しく包み込んだ。


「...打診は、確かにあった。しかし、私はフェリと婚姻すると陛下にしっかり伝えてきた。いくら王家といえども私に強制はできない、私は_」


(やはり、打診があった....)

フェリスは、王家からの打診という言葉に脳内が占領されて、途中からオルキディアの声が耳をすり抜けていた。


オルキディアがまだ何か言いたげに口を開いたが、フェリスがそれに気付かずに遮るように話しかけた。


「星祭は、私も参加できるのですか?」



「星祭は毎年9の月に開催しているんだが、アイレさまの一存で前倒しになったようだね」


「アイレさまのお誕生会の変わりに、星祭をなさるのですか?」


(このままいくと、だいたい同じくらいの時期が星祭の時期になるわよね。)


「...うっ」

オルキディアが突然胸を押さえて苦しみだした。


「オルキディアさま、苦しいのですか?」


アガットも駆け寄ってくる。

「オルキディアさま」


オルキディアがそれを手で制した。

「心配ない_治まった....フェリ、アイレさまの誕生会とはなんのことだ?」


「あ...いえ、忘れてください。」


(あれは、以前の話しで今回は誕生会は計画されていないのね。でもこのことを知らないとなると、オルキディアさまは以前の記憶はお持ちではないのね。)


オルキディアが、フェリスの腕を掴んで引き寄せた。優しく抱きしめる。


「フェリ、星祭には私と行こう」


そう言うと、フェリスを解放して立ち上がりアガットにフェリスを託して慌ただしく部屋から立ち去った。



塔の一階に下りたところで、ノアが待っていた。


「ノア、フェリスに密偵だと明かしてないよな?」

ノアがオルキディアと並んで歩く。

「もちろんですよ」


二人は、厩舎(きゅうしゃ)の奥にある小屋に向かう為に、人けの無い道を歩いていく。


「明日からフェリスに張り付いてくれ、コルヌイエ伯爵がこちらの予想を上回る動きをしてきた」


ノアが大きくため息をついた。

「まだ、失恋引きずってますが...いいんですか?オレで」


オルキディアは、少し考え込んで口にした。

「最初から、お前にフェリスの方を任せておけばよかったか...」


「いやいや、そうなったらあの二人乗りが任務になるじゃないですか、嫌ですよ。オレの初恋まで取らないでくださいよ」



ノアは、もともと領地の東端で馬を育てる仕事をメインに必要があれば密偵として活動していた。


時戻しの後、オルキディアが自分の手足となって働いてもらう為に呼び戻していたが、フェリスを紹介する前に予定外の討伐があり、まさかのフェリスも討伐に同行していてノアと先に知り合っていた。


前回は、アイレの誕生パーティに参加するためにノアは戻ってきていた。


「そもそも、なんでフェリスさまのお披露目をしなかったんですか?フォルクさんだって顔と名前が一致せず、無駄にフェリスさまを想ってましたよ」


「教えていたら、惹かれないか?」

二人は誰とも会わずに小屋にたどり着く。


引き戸を開けて中に入る。相変わらずベッドが真ん中を占めている。


「あの方、オレら平民に対して垣根なく接してきますよ、あれ気をつけておいたほうがいいですよ。最初からお貴族さまって雰囲気出してくれてたら、オレだって隣国に連れて逃げようなんて、バカな提案はしなかったでしょうね...多分」


ノアがベッドをずらして、床板を外す。

オルキディアとノアが床下に飛び下りた。狭いスペースの奥に隠し扉がある。

ノアが扉を開けて、オルキディアが先に入室した。


「済まない少し遅れた、(そろ)っているようだな」

小さなテーブルの中央にランプが一つ置かれていて、テーブルの周りに隙のない雰囲気の3人が立っていた。


オルキディアが一つしかない椅子に座る。

ノアが3人の横に並んだ。


「まず、報告を聞こうか」


ノアが、先に口を開く。

「コルヌイエ伯爵ですが、フェリスさまの部屋に侵入する前に聖女と人目をはばかるようにして会っています。星祭りという単語が何度か聞き取れました。詳しくは、内通者からの報告待ちです」


「詳細が分かり次第時間は問わない、上げてくれ」


「今朝早く、魔物の森から境界内に入った魔物がいたので威嚇して森に返してます」


「そうか、ご苦労」


「東端の方は異常なしです」

「引き続き頼む」


「聖女に付いているメイドですが、王都を出る前にコルヌイエ伯爵が付けた間諜のようです」


「そうか...タイミングがきたら確保する。証人に使うかもしれん。心積もりしておいてくれ」



「4人ともありがとう、私からも報告がある。今夜王都から戻ったことにする。明日からは今まで通り、使用人に紛れて執務室に報告にきてくれ。それと、フェリスの見張りにはノアも付ける。何かあったときすぐに姿を現せるからな。今までのように影に徹する者が1人とノアの二人体制だ」


4人がそろって頭を下げた。

「解散してくれ、ノアは私にもう少し付き合え」














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