表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/34

23

「お久しぶりね、フェリスさん」

アイレは、ピンクのオフショルダーのドレスを着ていた。メイドを一人お供に連れてきている。


フェリスは、立ち上がって出迎えた。

「アイレさま、ご無沙汰しております。ご機嫌いかがですか?」


メイドが、不躾に室内を見回す。

「アイレさま、このようなところアイレさまが、足をお運びになるのにふさわしい場所ではありませんわ」

メイドが簡素で殺風景な、鉄格子の嵌った窓を見て言った。


「まあ、そんな言い方は控えてリラ」

アイレがメイドのリラをたしなめる。


「フェリスさん急にごめんなさいね、なんの連絡もなく」


「とんでもないですわ、こんなところで申し訳ないですがお掛けになりませんか?」

フェリスが椅子を勧める。


飾り気のない普通の木製の椅子を見て、アイレが眉をひそめる。

「クッションもなくてお尻が痛そうだわ、でも立ったままだと話しにくいものね、座らせていただくわ」


「このような、椅子を聖女さまに差し出すなんて非常識でしょう」

メイドのリラがフェリスに強く意見した。


アガットが鋭い目付きで、メイドのリラを睨んだ。


フェリスがアガットを横目で見て、苦笑する。

「お客さまに、お茶をお出しして」

フェリスがアガットに指示するが、アイレがすぐに断った。

「そこまでの長居はしないわ」

「あら残念です、毎日退屈で」

フェリスが心底残念そうな顔をした。


「その様子では、こちらにキディは来てないの?」


「そうですね...?この部屋に移ってから、日付の感覚があまりありませんが....こちらには一度もお見えになっておりません。王都に行かれているのでは?」


「そうおしゃっていたけど、あまりにお戻りが遅いので実はこちらにいらしているのかと」


(一応、まだ私が婚約者なのに...ここに来ていたとしても問題ないでしょう。)


フェリスは顔には出さなかったが、少しだけ癪に障った。そして、そんな自分に驚いた。


前回は持つことが許されなかった感情だ。


(私...アイレさまに対して、オルキディアさまからの寵愛が対等だと感じて、嫉妬しているわ...)


「オルキディアさまは、仕事でお戻りが遅いだけではないでしょうか。信じてお待ちになってはどうでしょう」


「なによ!余裕ね。お前の次の嫁ぎ先はコルヌイエ伯爵のもとだと言うのに_」

「アイレさま!」

隣からリラが(いさ)める。


「なぜ、私がコルヌイエ伯爵のもとに嫁ぐのでしょう?」


「ごめんなさい、忘れて。余計なことを言っちゃたわ」

アイレの機嫌がよくなった。



「そうそう2週間後に、星祭を開くの。領民みんなで楽しむのよ」


フェリスが不思議な顔をした。

「星祭とは、いつも9の月にしていたという祭りですか...2ヶ月も前倒しにして開催なさるのですか?」


「領民でもないのに、よく知ってるわね」


「こちらに嫁ぐ前に、大まかな行事は頭に入れております」

「フフフッ...至るところにキャンドルを灯そうと思って。素敵でしょう?」


「ええ、とても」

フェリスがにこやかに笑った。


「じゃあ、あなたも参加する?」


「私はここから出られないと思います」

フェリスが寂しそうに言った。


「大丈夫!私が、ここからこっそり出してあげるわ」



「ご自由な身のアイレさまが羨ましいです」

フェリスがつい独り言を漏らした。


アイレの瞳が揺らぐ。

「私は、不自由でもキディの婚約者でいられるあなたが羨ましいけど。そういえばあなた、キディが好きなの?だって、2人は政略結婚になるのでしょう」


フェリスは去年まで、参加していた夜会を思い出す。

隣国に留学している兄が、帰国した時のパートナーとして一緒に参加していた。


後にも先にも一度だけ、オルキディアにダンスを申し込まれたことがある。


周りの令嬢の羨望の眼差しを一身に受けるなか、一曲だけ踊ったことが鮮明に思い出された。


その後は誰とも踊らず、王太子殿下らとの会話に(きょう)じていたから、フェリスは特別感に胸が高鳴った。


「...サルマン卿は、夜会などには、めったにお姿を現さなかったけれど社交界でも人気でした。お慕いしていたのは私だけではないです。そうですね、普通のことのように多くの女性がお慕いしていたと思います」


聖女は王家主催の夜会には、参加することもあるが顔を出す程度で、ほとんど姿を現すことはない。


「それより_アイレさま、お耳の方はもうすっかり良くなられたのですね....」


「そうなの、まあ一時的なものだと侍医から聞いていたけど、討伐後に治癒の力を使った後から調子が戻ってきたの。あなたがここにいてのんびりしている間に、私は何度かフォルクと討伐に行っているのよ」



アイレが目を細めてフェリスを見た。

「ふふ...じつは面白いイベントを準備しているの。当日のお楽しみよ。私、聖女として王都に行く前からキディが好きなの_あなたには今回も渡さないわ」

「でも私ね、あなたのことも、気に入っているのよ。キディのことがなかったら私たちいいお友だちだったと思うわ」


アイレが席を立った。

「じゃあ、また来るわ」

フェリスも一緒に、立ち上がった。

「なんのお構いもいたしませんで、失礼いたしました」

立ち去るアイレの後ろ姿に頭を下げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ