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朝食後にアガットと図書室へ向かう。


主室の方の廊下は赤い絨毯が敷いてあるが、フェリスたちの部屋のある西側の廊下には、アイボリーの絨毯が敷いてある。

通路の窓からは使用人棟が見え、奥には図書室のある建物も見える。


フェリスとアガットは、なるべく使用人とすれ違わない道を選んで歩いている。


「こんな通路よくご存知でしたね…」

アガットが感心するように言ったのを、フェリスは僅かに肩をすくめて笑った。

「前回は、静かな場所を求めていたのよ_アガット、私に前の記憶があることは他言無用でお願いね」


「なぜですか…オルキディアさまにお伝えしなくていいのですか?」


「まだ、やめましょう」

状況が、急に過去に合致してきている。


朝食を食堂でとったが、使用人の態度に昨日までと違いよそよそししさを感じた。

フェリスはなんだか気詰まりで、落ち着いて食事ができなかった。


次会うときは、もう昨日までのオルキディアとは違っているのかもと、フェリスは胸が痛んだ。


(もしそうなっても...慣れてしまえば、平気。)


向かいからアイレとメイドが、こちらに向かって歩いてきていた。


こんな人けのない通路を使うということは、自分に用があるのだろうと思う。


案の定、アイレがフェリスの目の前で足を止める。


「フェリスさん、ノアのこと気にかけていたでしょう。お知らせしておこうと思って...ノアったら腕を魔物に噛まれたらしくて、今は片手で色々しなくちゃいけないから不自由してるらしいよ」


「彼、厩番(うまやばん)でしょう?厩舎(きゅうしゃ)の隣に小さな小屋があるんだけどそこで一人で、寝起きしているの」


アガットが無礼を承知でアイレに意見をした。


「彼は藁の中に隠れていて、無事だったとオルキディアさまから伺いましたが…」


アイレが、侍女の口出しに嫌な顔をすることなく答える。

「キディ...優しいからね、フェリスさんに心配掛けないようにそう言ったのよ」


「しかし、私は昨日オルキディアさまに直接確認しましたが...」

アガットが食い下がる。


アイレの隣にいるメイドがフェリスに意見した。

「侍女の分際で、聖女さまに二度も意見するなど躾がなってないのではないですか、フェリスさま」



それに対して、アイレが鷹揚な態度を見せる。

「気にしてないわ、そんな些細なこと」


フェリスが深く頭を下げる。

「アイレさまの寛容なお心に感謝いたします。侍女が大変失礼いたしました。アイレさま、ノアさんのこと教えていただきありがとうございます。後ほどお見舞いに伺いたく存じます」


「ふふ...私は一応お伝えしましたから。それとキディは今朝早くから王城の図書館に用があるとかで、夜も明けないうちに出ていったわ」


「そのワンピース、フェリスさんにとてもお似合いね」

アイレが笑顔で付け加えた。


アイレの身に着けていたドレスは、フェリスに用意されていた衣装ルームの中にあったものの一つだった。


フェリスは、自分のためのドレスを身に着けて満足しているアイレを見た刹那、少しだけ優越感を感じたがその感情はすぐに取っ払った。



「ありがとうございます。コルセットもいらなくて楽なんです」

フェリスも笑顔で答えて、去っていくアイレに頭を下げて見送った。


アイレの身に着けているドレスは、オルキディア好みの可愛らしいデザインになっている。


(アイレさま、手直しせずに着れたのね...聖女さまのイメージにピッタリね...)



アガットが、アイレとメイドの姿が見えなくなってからフェリスに頭を下げる。

「フェリスさま、先ほどは申し訳ございませんでした」


フェリスは、珍しくアガットに注意した。

「アイレさまが、気さくな方でも私たちとは住む世界の違うお方で、王族に次ぐ権力を認められているお方よ」

「そうでした…」


「フェリスさま、ノア様とやらのもとに行かれるつもりなのですか?」


「そうね、アイレさまがわざわざ足をお運びになって教えてくださったものね」


「私は反対です。オルキディアさまが戻られてからにしましょう」


「でも今朝、王都に発たれたなら、戻ってこられるのに最低6日はかかるわ。彼には恩があるのよ、このまま放って置けないわ...無事だとしてもお礼はしたいわ」


二人はちょうど図書室に着いた。


「わかりました、私も付いていきます」


「もちろんよ、お願いするつもりよ。今からで悪いけど、お見舞い用に果物を手配して欲しいの」

「私は、ここで調べ物をしているから」


アガットが疑いの目を向ける。

「絶対、ひとりで行かないでくださいね」

「信用ないわね、大丈夫よ」

アガットが念押しをして図書室を出た。


フェリスは絵本を探すためにきた。


(伝承などで時戻しのことを、絵本で伝えていたりしてないかしら。うちのアルモアダ伯爵家の門外不出のセルピエンテの毒のことも絵本になっているのよね。物語のなかに本当のことを隠して書いていたりするのよね。)


背表紙を眺めるようにして探す。

フェリスはその中で、一冊だけ背表紙にタイトルの無い本を見つけた。


なんとなくそれを手に取り、図書室の中央にあるテーブルを借りて本を広げる。


絵本なだけあって、表紙に騎士のような出で立ちの青年が剣をかかげている絵が描いてある。


丁寧に一枚ずつ(めく)る。

少しずつ読み始めると、騎士とお姫様の恋物語から始まって、途中でお姫様が魔物に襲われて亡くなり騎士が剣の魔法を使うところまで読む。


(....騎士が愛おしい者の死を悼み、時を戻す。)


剣は時戻しの代償に騎士の命と....そこまで読んだところで本が急に青い炎に包まれて灰になった。

フェリスはとっさに持っていた本から手を離して、後ろに()け反った。


「こ、怖かった…急に青い炎が_熱くなかったけど」


息を吐き出して、冷静さを保つように努めるが、驚きで心臓がすごい音を立てているのが聞こてくるようだった。


フェリスは自分の手が震えているのを見ながら、読んでた本が急に燃えてしまい跡形もなく消えてしまったことに、恐怖を感じた。


(この本にきっと今回の時戻しの秘密があったのかも...周りに誰もいなくてよかった。)


席を立って、手近な本を一冊取る。

周りに人がいないのを確認して、本の間に灰を挟んでひと目のつかない場所に戻した。


(この本が燃えたことを見ると普通の本ではない…やはり時戻しの真相が書いてあったのかも...騎士の命と引換えってことは__時戻しをした騎士は死んだということ?)



(最近亡くなった騎士がいないか、オルキディアさまが戻ってから確認しましょう。)



本を隠して、顔を上げるとアガットが果物の盛った籠を両腕に抱えてこちらに近づいてきている。


(あら、早かったのね。)


「アガット、ありがとう。早かったのね」

「ちょうど、メイドのサリさんが果物をたくさん持っていたので分けていただきました。」


二人は果物籠を携えて厩舎(きゅうしゃ)横にあるという小屋を訪ねることにした。







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