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帰りは、オルキディアの馬に二人乗りをすることになった。



オルキディアの馬の扱いはかなりの腕前のようで、フェリスはオルキディアに背を預けて乗っていたが、ノアの時より揺れが少なく安定していた。



フェリスは少しだけ後ろを振り返って、オルキディアを仰ぎ見るようにして様子を伺う。


もう先ほどのような冷たい雰囲気は収まっていたので勇気を出して話し掛ける。


「オルキディアさまは馬の扱いに長けていらっしゃるのですね」


オルキディアは、見るともなしにフェリスを眺めていた。


フェリスは、帰路について安堵したせいか、時間が経つにつれて魔物に遭遇して怖い思いをしたことをじわじわと実感する。


(オルキディアさまと、もう少しくっつきたい....癒やされたい....私、甘えてもいいのかしら?あの場で聖女アイレさまに一瞥もなさらなかったし、言葉を掛けることもなかった...前回と違うと思っていいの?)


口を開かないオルキディアに、しばらくしてから再度話しかける。


「もう少し背中を預けてもいいですか?」

オルキディアが、はっとするようにフェリスを見つめる。



(どうしたのかしら?怒っていらっしゃるというよりも...失礼だけどぼんやりしてたような...馬の背で考え事なんて乗りなれてない私からしたら怖いわ。)


オルキディアが一つ息を吐き出して、答えた。

「あなたがその方が楽だと言うなら致し方ないが、討伐後は気が(たか)ぶっているので、これ以上の接触は控えてもらえると助かる」


フェリスは、小屋で何人もの怪我人を見てきたのに、オルキディアの状態を思いやれず、癒やされたいだの、ぼんやりしているだの思ったことを恥じた。


「このままでも十分乗り心地も良いので、贅沢を言ってごめんなさい」


「あの、ワイバーンの討伐お疲れさまでございました…オルキディアさまは、お怪我などございませんでした?」


「ああ__私に目立った怪我などはないよ、ありがとう。被害届はなかったが、あれは人を襲ったことがある個体だった」


最後のは、独り言のようにつぶやいた。


オルキディアは、一度時を戻して取り戻した命は前回よりも命の危機に(さら)されやすいのだろうかと考えていた。


今回の討伐にフェリスが同行したのは、偶然なのか、それとも時戻しに抗う自然の摂理が働いたことによるものなのか__もし後者なら…幾通りもの道筋を考え、先を読み手を打たなくてはまた死神に持っていかれると不安の渦に巻き込まれそうになる。


打つ手も、自分に掛けられている制約とのバランスを考えなければ死神に刈られるのは自分になるだろうと考える。


オルキディアは、負の思考から浮上するために、意図的に息を吐いてから吸った。


そしてフェリスを抱きしめるように、手綱を握った。


(先程は疲れているから、駄目だとおっしゃったのに私のために乗りやすいように背中を支え直してくれたんだわ。)

さきほどより背中が密着したことを、フェリスはそう考えて感謝した。



オルキディアは厩舎に馬をつなぎ、フェリスをエスコートしてエントランスホールに戻ると、家令が出迎えた。

「お疲れ様でございます。お二人ご一緒だったのですか?」


「フォルクと、動けるものは後処理をして戻るだろうから、もう少しあとになるだろう。怪我人がけっこう出た、聖女が皆を救ってくれたが怪我をした者は先に戻ると思うから、手厚く遇してやってくれ」


「旦那さまはどうなさいますか」

いつも一番最後まで残って後処理をしてから戻るオルキディアが先に戻ってきたので、何か予定があるのかと確認する。


「風呂に入りたい、それと彼女も一緒に入るから侍女を...アガットを呼んで支度をさせて」


「え?」

家令とフェリスの声が重なった。


家令の反応とフェリスの顔が赤くなっているのを見て、オルキディアが慌てて付け加えた。

「私が彼女と一緒に入るわけじゃない。彼女も風呂に入れてやって欲しいということだ。婚姻前にそのようなことはしない」


家令は安心したが、フェリスはさらに赤くなった。


(その言い方だと…婚姻後は一緒に入るの!?)


メイドが家令の言いつけで、アガットを連れてきた。


「フェリスさま、ご無事でよかった…」

アガットが涙目で迎えた。


「彼女を風呂に入れて、全身を怪我などがないか、(くま)なくチェックしてくれ。それとアガット、君は後から私の執務室に来るように」


「かしこまりました、サルマン卿」

アガットがお腹に両手を組んでお辞儀をした。


「きみは、将来の妻の侍女だ。オルキディアと呼ぶといい」

オルキディアがアガットに優しい口調で告げた。


「ではフェリ、今夜は遅いから軽いものを部屋に届けさせよう。また明日」

フェリスは、オルキディアの態度が普通に戻っているのに安心して笑顔を向けた。

「はい、オルキディアさま。おやすみなさいませ」




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