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小屋の中は、小さな暖炉とキッチンに丸テーブルと椅子が2脚、ベッドが1床置いてあり作り付けの棚に毛布が山積みされている。

棚には救急箱もある。


フェリスは、慣れない手付きでハーブティを淹れた。

「ここに置いてあった茶葉なので、味はわかりませんがよければどうぞ」

ハーブティーを4人分淹れて、丸テーブルに置いた。


「ノアさんにも声を掛けてきましょうか?」

窓のそばで、外の様子を始終警戒しているフォルクに問い掛けた。


フォルクは、アイレのために毒味のつもりで、フェリスの淹れたお茶に手を延ばし、立ったままでカップに口を付けた。

「ノアは、外で馬の世話をしている。終われば勝手に戻ってくるだろうから放おって置いてよい」


フォルクはフェリスをオルキディアの婚約者だと、()()は紹介されていなかったので聖女アイレのそばでずっと何くれとなく世話を焼いているのを見て、アイレのお世話係だと思っていた。


フェリスはフォルクが視線を凝らして見ているものが気になり、一緒に見ようと窓の傍に近寄った。


フォルクの隣に並ぶ。

窓からは、20メートルほど先に鬱蒼とした森が見える。

「あの森の深くに、隊員の皆さまは探索に入られているのですか?」


フォルクが、始めてまじまじとフェリスを見た。


蜂蜜のような滑らかな髪をまとめ上げていて、白いうなじに後れ毛が掛かっているのを見て、やましい気持ちになり視線を逸らす。


瞬きするとバサリと音がしそうな睫毛(まつげ)に、紫味を帯びた深い青い瞳が鮮やかで澄んでいて、上品な鼻に瑞々(みずみず)しい果実のような唇を見て、目が釘付けになった。

地味な紺色のドレスを着ているが、着飾れば極上品だとフォルクは失礼なことを考えていた。


フェリスは自分のした質問が聞こえなかったのかと思い、小首を(かし)げた。


フォルクがそんなフェリスの様子に、我に返る。


思い出したように質問に答えた。

「ああ、我々はあの森の中には入らない。あそこは魔物の住処だからな。森から出て領地内に入ってきたものについては討伐するがな」


「では、皆さんどちらに?」


「森の入口周辺を見て回っていると思う。ちょうど森と領内の境界だ」

「魔物は農作物にしろ、人にしろ、一度味を覚えると繰り返しやってくる。領地内に入られると厄介だから通常は境界内に入らないように普段から見回っていて、魔物を見つければ、こちらから攻撃を仕掛けて威嚇する。そうしておくと同じ個体はもう森から出てこない」


「ただ今回のワイバーンについては、領地内に侵入しているから、討伐なさるやもしれん」


フォルクがフェリスを盗み見しながら説明する。


先程の流暢な説明とは打って変わって、急に歯切れが悪くなる。

「あの、できれば名前を...」

フォルクの視線が泳ぐ。


「名乗っておりませんでしたか、失礼いたしました」


(そうだわ、前回はすぐに歓迎会があってそこで紹介されたけど今回はなかったものね。顔を知られていないのね。)


「ねえ、ふたりでいい雰囲気ね。私も仲間に入れて欲しいな」

アイレがフェリスの後ろから声を掛けた。

フォルクが突然のアイレの登場に狼狽える。



突然、外で(いなな)きが聞こえた。


フォルクが、窓から外を睨みすぐさま扉の前に張り付いた。帯剣していた剣をスラリと抜いて正眼に構える。

「お二人ともできるだけ部屋の奥へ」


フォルクの緊張感に、フェリスとアイレが何事かが起きたと察する。

「馬が暴れている、魔物が近くにいる可能性があります。これだけ騒いでいるから、すぐに他の隊員が気付いて来てくれると思いますが…」

フォルクが聖女アイレに伝える。


フェリスはテーブルの上の筆記帳を、急いで掴んで筆記する。

それを見せながら、フォルクの指示通り部屋の奥にアイレを誘導する。


(こんなの前回経験したことないから、どうなるのか不安だわ。)


「まさか、ワイバーンじゃないわよね。こんなはずじゃ....」

フェリスはアイレの独り言を聞いて同情をした。


(アイレさまも、気丈に同行を申し出たけど怖いんだわ。外にいたノアさんは大丈夫かしら?私のせいで連れてきてしまったけど....)


不意に扉に大きな音とともに振動がある。


フェリスがアイレを抱きしめるようにして、背中で《かば》庇う。


再度大きな音がした瞬間、扉が破壊されて魔物が向かってくる。



イノシシの魔物『モストロボア』で、角を入れて体調2メートルほどあった。


フォルクが構えていた剣を、上から下へ一気に振り下ろす。


剣で魔物を一太刀するが、魔物は勢い余って部屋の奥へと突進してきた。


モストロボアは、ちょうどフェリスたちの横を突進して壁にぶつかる。


フェリスの腕を角が(かす)める。



魔物が向きを変える間を与えずに、フォルクが素早く魔物の背後から、さらにもう一度斬りつけて仕留めた。


フォルクは、さすが副隊長というだけあって冷静で、太刀筋も無駄がなかった。


オルキディアが聖女の護衛に選んだだけはあった。












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