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オルキディアは結局、隊員の懇願に負けて聖女の同行を許した。
許可がおりたところで、フェリスは紙に書いて聖女アイレに見せる。
「まさか、フェリも同行する気なのか?」
甲斐甲斐しくアイレの世話を焼くフェリスを見て、オルキディアが不安そうな目をした。
「なにがあるかわからないんだ、私が常にそばにいれるわけではないのだ。フェリは城で待っていて欲しい」
フェリスもそうするつもりであった。
なにせ足手まとい以外の何物でもない存在だ。
隊員の中には、ちらほらフェリスに見惚れて気が散っているものがいた。
「わかりました、私はお待ちしています」
オルキディアがほっとして、フェリスの頭を撫でた。
「そうしてくれると安心して行けるよ。部屋までは戻れるかい?」
「大丈夫です」
オルキディアは、フェリスを少しの間見つめた後に、隊の指揮をするために隊員たちのもとに戻った。
フェリスが戻ろうとしたところで、アイレがフェリスの腕を掴んだ。
「どこに行くの?」
フェリスは、筆記帳に書いて今から部屋に戻ると伝える。
「フェリスさん、私今は耳が聞こえにくい状態なの。退避の指示が出ていても私だけ聞こえないわ。どうしましょう。ずっとキディのそばにいてもいいけど、それじゃキディの足を引っ張ってしまうかも…」
アガットがアイレにわからないように、こそっとフェリスの袖を引っ張る。
フェリスはアガットの方を向いた。
アガットの目は大人しく帰るように言っている。
「アガット、あなたの言い分はわかるわ。でもアイレさまのおっしゃることも一理あるのよ」
「アイレさまには退避指示が聞こえないものね。もしアイレさまに何かあれば、その責任は今ここで相談を受けている私にもかかってくるわ」
アガットは渋々納得した。
フェリスの言うとおりここで相談されてしまった以上、無視をして帰るわけにはいかないだろうと思った。
アガットは、オルキディアの方へ目をやる。隊員たちと話をしているところを見ると、忙しそうで入っていける雰囲気ではなかった。
「フェリスさま、思い出してください。サルマン卿は部屋に戻るようにとおっしゃいました」
フェリスは、アガットに真剣な面持ちで告げた。
「アガットは戻って」
「しかし...」
「足手まといは少ないに越したことはないわ。私とあなたが二人いたら余計にお荷物だもの」
フェリスがアイレに同行する旨を書いて見せた。
「まあ、さすがキディの未来の奥さんね。頼もしいわ」
アイレがフェリスに笑顔を向けた。
アガットはしょうがなく言われた通りに、部屋に引き返すことにした。
オルキディアは、今回は聖女アイレをフォルクに護衛させることにした。オルキディアは、フォルクに後方から距離をとって付いて来るよう指示をして、先に馬で駆ける。
聖女の護衛を任されたフォルクが、アイレに経緯を伝えにきた。
フェリスとアイレは、フォルクの後に付いて出発の準備をする。
森に近いところは、道路が舗装されていないので馬の方が移動しやすい。
目的地に行くまでの間に、肥沃な農業地帯が広がっているのが見える。サルマン領のおよそ半分の食料がここで育てられている。
農業地帯からさらに先の西の方は魔物の住む森が広がっていて、その先は海になっている。
オルキディアは、今回出現した魔物はワイバーンと報告を受けた。
この時期に、ワイバーンの討伐をした記憶がなかった。
オルキディアは、剣を使って『時戻し』をしたが前回とは違う出来事が起きていることに不安を感じていた。
森に近いところに、小屋を建てている。到着した者から小屋の隣に隣接している厩舎に馬をつなぐ。
オルキディアの後に続いて、隊員たちも馬を下りて小屋の横にある厩舎に馬をつなぐ。
3人で組になって周辺の捜索を開始する。
アイレは、元厩番の娘というだけあって一人で馬を操って巧みなムチさばきで小屋まで駆ける。
フェリスは馬の背に乗るのは初めてで、ノアという厩番の青年に乗せてもらう。
フォルクは主に聖女アイレを護衛するので、フェリスと二人駆けするわけには行かず、ノアが急遽フェリスのために同行した。
オルキディアはフェリスが一緒に来ていると知らないので、フェリスのための護衛を割り当てていなかった。
ノアは、どこにでもいる特徴のない顔立ちだが、馬の世話をしているせいか体付きはがっしりとしていて、フェリスはノアの前に乗せてもらっていたが、安定感があった。
オルキディアたちから、少し遅れてフェリスたちが、小屋に到着した。
ノアが先に降りて、フェリスを抱きとめるようにして馬から下ろす。
「ノアさん、助かりました」
「いえ、こんなきれいな方と一緒に馬に乗れてオレは役得です」
ノアはニコリとすると、一人その場に残って小屋の外で馬の世話を始めた。
フェリスとアイレとフォルクは、事前に受けた指示通り、怪我人が出たときにすぐ対応できるように小屋で待機をしている。




