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城に戻ると、討伐隊の副隊長がオルキディアをエントランスホールで待ち構えていた。


「良かった、お戻りが早くて。領地内に西の森から魔物が現れたと報告がありました!」


「今日?フォルク、なにかの間違いでは....?」

護衛がオルキディアの聞き返し方に、違和感を感じる。


「オルキディアさま…?魔物の出没は日を選びませんが...」


「いや、そうだった...すまない。すぐに準備をしてくる」

オルキディアが、ちらとフェリスを見る。


フェリスは、行ってらっしゃいませという意味で大きく(うなず)いた。


オルキディアがそれを見て、傍に控えていた家令とともに自室に戻る。


フェリスの隣にいたアイレが、副隊長のフォルクの隊服の袖を掴んで問い掛けた。

「もしや、討伐に行かれるのですか?」


「そうだが?」

フォルクが怪訝な顔でアイレを見る。


「あの、耳が聞こえにくいので首を振ってください」


フォルクが、アイレの頼みに渋々縦に振る。


「私、聖女です。魔物討伐ならご一緒いたしますわ、なにかお役に立てるかもしれません」


聖女と聞いた途端に、フォルクが目を輝かせた。

「聖女さまがおいでになっていると聞き及んでおりましたが、あなたさまでしたか!我々に同行してくださるのですか?」


横で気を利かせたフェリスが、筆記帳に走り書きをして、それをアイレに見せた。


「皆さんが、命懸けで領地を守ってくださっているのですから、同じ領地の出身者である私にも協力させてください」


アイレの言葉を聞いたフォルクは、崇拝者の目になっていた。


(これは、ファンが増えるはずだわ。前回もすごく人気だったものね。もしや、アイレさまの崇拝者の一人が忖度して、モストロベアを仕掛けた...って線もあるのかしら?)


「我々と同行してくださるなら、隊員の士気も上がります」


アイレが、フェリスの持っている筆記帳を指で差した。


フェリスは、気が利かなかったことを申し訳なく思いながら急いでペンを走らせる。


アガットが、先程から記録用員のように自分の主を顎で使っているアイレを見て、憮然(ぶぜん)とした表情をしたが、相手は聖女であるので仕方ないと納得する。

しかし、アイレから預かったラッピング袋を持つ手に力がこもる。


「一緒に行く皆さんの顔を見ておきたいわ、案内してくれる?」


「城のちょうど裏側に我々の宿舎があります。そこで皆、待機をしておりますのでご案内いたしましょう」

フォルクが(かしこ)まって言った。


フェリスが急いで筆記して、それをアイレに見せる。


アイレがフェリスに目で付いてくるように指示する。

フェリスも当然のように付き従った。

アガットは、ラッピング袋を近くにいたメイドに手渡してフェリスの後を付いていく。




討伐隊の宿舎は、横に長い2階建てになっていた。


部屋数は50部屋くらいある。


隊員の寝起き出来る部屋と、簡単に食事ができるように食堂と風呂と医務室が備えてある。


隊員は数千人の騎士の中から、精鋭のものだけが50名程選ばれてこの宿舎に詰めている。


他のものは、城内の門の近くにある騎士の宿舎を使用している。

主に城内や、街の警備などを任されていた。


宿舎の前に、今回任務に当たる20名が待機していた。


フォルクが、女性を3人を引率して来たことで、その場に待機していた隊員が色めき立った。


オルキディアを連れて戻ってくるかと思っていたフォルクが、美しい女性陣を伴って戻ってきたので皆興味津々で見つめる。


「こちらは先日、サルマン領にお見えになった聖女アイレさまだ。今回の討伐に同行してくださるとのことだ」

一気に歓声が湧く。

フェリスが横で一所懸命筆記をしていると、アイレがそれを手で制した。


一歩前に出て、口を開く。

どうやら周りの反応で自分の紹介があったと思ったようだ。


「皆様、いつも命がけで領地を守ってくださってありがとうございます。微力ながら、私もこれから皆さまのお手伝いをさせていただきます。私は神経の再生まではできます。もし過去に受けた怪我などでお困りの方がいらっしゃったら、おっしゃってくださいね」


アイレの挨拶の後に、割れんばかりの拍手と歓声が起きる。


「なんの騒ぎだ」

遅れて、オルキディアが合流した。

オルキディアも討伐隊の隊員と同じ制服を着ている。


紺の立ち襟の上着に紋章の入ったボタンが縦に5つ付いていて左右に大きめのポケットが付いている。

上着の上からベルトを締めている。

ズボンも同色で、左側に帯剣している。



聖女アイレがオルキディアのもとに進み出る。

「キディ...私も行きます。皆さんのお役に立ちたいの」

隊員の歓声がさらに上がる。


「...必要ない」

オルキディアの一言に、不穏な空気が流れる。


周囲を見回したオルキディアは、フェリスの姿を認め思わず二度見する。


フェリスは、筆記帳を胸に抱いて隅の方に静かに立っている。


オルキディアはフェリスを見て、聖女アイレの存在感が増すのに危機感を持った。


「聖女さまの同行など、護りながらでは動きにくいだけだ」


オルキディアが、かなり強めの態度で隊員に告げる。

隊員たちは、水を打ったように静かになる。


フェリスは筆記をするのをためらった。


行きたいと言っている相手に、駄目だと言われているとは伝えにくい。


ここで自分が聖女アイレを擁護するようなことを言って国の宝の聖女さまになにかあっても、自分には責任が取れないので、もどかしいがじっと様子をみていた。



(オルキディアさま、危険な場所に聖女さまを伴いたくないのね。)










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