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突然、別行動と言い出したアイレにフェリスが声を掛ける。

「下着なら私と一緒に行きましょう。お一人は駄目です」

フェリスが筆記帳に書いて、アイレに見せた。


アイレがそれを見て、恐縮して頭を下げた。


一点を見つめて動かなくなったオルキディアを(いぶか)しんで、フェリスが声を掛ける。

「あの、オルキディアさま...どうなさったのですか?」


「ああ、すまない。ちょっと考え事を...私も当然店に同行しよう」


フェリスが驚いた。

「聖女さまの護衛ともなると、ら...ランジェリーショップにも同行なさるのですか?」


オルキディアが動揺をした。

「は?ランジェリーショップに行くのか....それは…私は、店の外で待たせてもらおう」


「っふふ...考え事なさっていて聞いておられなかったのですね。困った護衛ですね」

フェリスが可笑しそうに笑った。


オルキディアが、フェリスの思わず(こぼ)れた笑みを見て目を細める。


その横で聖女が、誰にも気付かれないように小さくため息を付いた。



大きな道路を挟んで両脇に店が立ち並んでいた。ランジェリーショップは100メートルほど行った先にある。



フェリスは以前行ったことがあるので、ランジェリーショップまで先導した。


途中にクライトの店の前を通る。


外からガラス窓越しに中が見えるが、お客さんがいて接客中のようだ。クライトの店はオーダーものからセミオーダーとプレタポルテまで幅広く扱っているので利用客の層も広い。


今、試着室から出てきた女性が、連れの男性に披露しているのはプレタポルテのようなので、平民で金銭的に余裕のある人だろうと横目で見ながら通る。


貴族はオーダーメードをステータスとしているので、プレタポルテを買うことはほとんどない。


接客をしているクライトと目が合う。


フェリスは会釈して店の前を通り過ぎる。


クライトは、フェリスのドレスを二度見して苦笑していた。


フェリスの今日の装いも地味な紺色で、お店に行ったときも茶色のドレスだったので、クライトが自分のことを地味好きだと誤解したかもしれないと思う。


ヒールなので、ゆっくり歩いてようやくランジェリーショップに着く。


「では、私は入口の近くに待機しているから行っておいで」

オルキディアが、気まずそうに入口に背を向けて立った。


「オルキディアさま、見張りありがとうございます」

アイレが丁寧に頭を下げて中に入っていく。


フェリスはアイレの後についてお店に入る。


オルキディアが、フェリスと目を合わせてニコリとした。

アガットがそれを見て、ご機嫌でフェリスの後について店に入った。


ガラスのドアを開けると、来店を知らせる鈴がドアに付いていてそれが鳴る。

小さな可愛らしい音だ。


店の雰囲気も、鈴の音に合うようなパステルカラーのランジェリーで溢れかえり可愛らしい。


入り口のドアを挟んで左右に窓がある。


窓にはピンクのドレープのカーテンが、左右でタッセルでまとめてある。その内側にはレースのカーテンがしてあるので店内は外からは見えない。



店に入ってすぐの目立つところに、ベビードールがトルソーに着せてあった。


生地は薄い紫で透け感があり、胸の下あたりから左右に分かれて、丈が腰までの長さになっている。

裾にあしらってあるレースがフリルのようになっていてセクシーだが甘い感じになっている。



「こういうの、...お好きかしら?」

アイレがトルソーにかかっているベビードールの裾を摘んだ。


「ど、どうでしょう?男性も好みがおありでしょうから...」

いそいで筆記をして、見せながら声に出しても答える。


後ろで控えていたアガットが顔を赤くしていた。

アガットは基本的に清楚なものが好きなので、艶っぽいものなどは抵抗がある。


この店は、可愛らしいものから清楚なもの、セクシーなものまでひと揃えあった。


アガットは店内を見渡して異常がないことを確認すると、フェリスに断って少し離れた清楚系のブースに移動した。


アイレは、トルソーにかかっているベビードールの裾を左右にピラリと広げた。


「キディ、私との約束忘れちゃったのかな...」



フェリスは、この絶妙な独り言に反応していいのか迷った。


(キディって__オルキディアさまの愛称だったわね....仲の良い方はそう呼ぶっておっしゃっていたものね。)



聞こえてないふりをした方がいいのか、なにか言った方がいいのか逡巡(しゅんじゅん)したが、無視をした思われる方がまずいのではと思い質問をした。



「約束って...二人はアイレさまが王都に行く前に、何かお約束なさったのですか?」



フェリスは動揺して、つい普通に話しかけてしまって、振り向いたアイレに紙に書くように指示された。

「そうでした、すみません」


フェリスは紙に書いてアイレに見せた。

アイレは泣きそうな表情でフェリスに訴えた。


「私が16歳の時に聖女の力が顕現(けんげん)して王都にいくいことが決まったの。当然もう帰れないと思っていたから、私たちお互い想い合っていたけど、泣く泣く離れたの」


聖女という言葉に周囲の客や、店員が耳ざとく反応する。



「社交界でも噂の花の妖精と異名を持つあなたがいたなら、私とのことなんて思い出さないよね」


「アイレさま...私_」




アイレがイラッとして紙を指差した。


「そうでしたわ!」

フェリスは申し訳なく思いながら、ペンを持つ。


アイレが、涙目でアイレに訴えた。

「私はキディを愛しているの_正妻じゃなくてもいいから、私のこと許してもらえる?」


フェリスは先に紙に書いてから、それを見せて口でも答えた。

「聖女さまが愛人など、陛下や国民が許すはずはありません!」


周りの人たちが聞き耳を立てる。


「ひどいわ...そうやって周りのせいにして私を反対なさるなんて、どうせならあなたの口からだめと言われたかったわ」

アイレが鼻声で声をつまらせ嗚咽をあげる。


店内の客と店員がフェリスに白い目を向けた。


この国で聖女は稀有な治癒能力の持ち主で、崇高な存在だった。


話している内容よりも、聖女が涙を流している方が国民にとっては許しがたいことだった。


相手がサルマン辺境伯でなければ、王命で婚約者の挿げ替えくらい造作もないことだった。


店内の異常に気がついて、アガットが二人のもとに駆け寄ってくる。


アイレがそれに気付いて急にしおらしくなった。

「ごめんなさい、フェリスさまに聞いてほしかっただけなのに、困らせてしまったわね。無礼をゆるしてくださる?」

「そんな、無礼など露程も思っておりませんでした」

フェリスが紙に書いて優しく伝える。


「キディの婚約者がお優しい方で良かったわ。」

涙目で、無理して微笑むをといった風情でフェリスに微笑みかける。


周りの人達が、健気な様に心を打たれる。


「あの、私でできることがありましたら...」


フェリスはお人好しの傾向があった。

時が戻ってからは、同じ轍を踏まないために、少々逞しくなったが元来持っている性格は芯のところでは変わらなかった。


社交界でも、美しいのにそれを鼻にかけることがなく、穏やかで鷹揚だと言われていたのは、(ひとえ)にお人好しな性格のためだった。



アイレはよく聞き取れなかったが、自分に有利なことを言われた気がして、優しく紙に書くように求めた。


フェリスは口頭で言ったことを急いで紙に書く。


それを見せると、天使のような微笑みを見せた。


アイレは、ピンクのふわふわの髪に深い緑の瞳が愛らしい、保護欲を掻き立てる容姿だった。


周りの者たちがアイレの表情を見て一同微笑む。


「どうなさったのですか?」


アガットが二人の空気感に違和感を持って声をかけたが、今はいたって普通だった。


「このベビードールをくださいな」

アイレが店員に笑顔でトルソーを指差した。


店員がニコニコして包装する。

「聖女様に着ていただけるなんて光栄の極みです。そちらはご来店いただいたことへのお礼に差し上げますのでどうぞお持ち帰りくださいませ」

そういってラッピングしたベビードールを差し出した。


隣でフェリスが店員の言葉を、紙に要点だけを掻い摘んで書き出してからアイレに見せた。


「まあ、申し訳ないわ_でもせっかくだからお気持ちを受け取るわね。王都に戻ることがあったらこちらのお店にのことを、他の聖女にも話しておくわね」

にっこりと笑顔を見せた。


店を出る時は、オーナーと店員とランジェリーを作る作業員の子らと、全員出てきて総勢30人近くがアイレを見送った。














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