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オルキディアは、帯剣している剣の柄を無意識に触っていた。
7の月19日
魔物が領地内に侵入したという報告を受けた。
朝の早い時間からいつものように、20名の討伐隊を率いて聖女アイレさまと魔物の討伐に向かった。
聖女アイレさまが一緒だと、怪我人が出た時にすぐに対応してくださるので、隊員もその家族も討伐に出る時の安心感が違うようだ。
そんなこともあり、ついつい同行を許してしまいそれが常態化していた。
魔物討伐から帰った時は、当然のようにメイドも隊員たちも聖女アイレさまを中心に話が始まってしまう。
いつのまにか、城内は全てにおいて聖女アイレさまを中心に物事が進むようになっていた。
いつも遠慮するように、ひっそりとしていたフェリを可哀想に思い、城を空けた後などは帰宅後に必ずフェリのもとに顔を出すようにしていた。
ほんの一言二言、言葉を交わす程度だが、私がフェリをぞんざいに扱っていないと周りのものに周知させるためには必要なことだと思った。
あの日も、討伐後かなり遅い時間になったが、フェリなら私を待っているだろうと思い、西の奥の部屋にフェリスを訪ねた。
フェリは、もともと私の主室との続き部屋を使用していたが、ある時から急に主室からかなり離れた奥まった場所にある部屋に、私に一言の相談も無く移った。
そしてフェリのいた部屋には聖女アイレさまが移ってこられた。
内鍵を開けることはなかったが、私の隣の部屋に移ってこられたことで、自然と会話も多くなりそれを見て邪推した使用人が、フェリの耳にあらぬことを吹き込んだりすることもあった。
そんなこともあり、フェリがだんだん余所余所しくなるのに、時間はかからなかった。私は愚かにも聖女アイレさまの誕生会がつつがなく終われば、結婚式の準備に取りかかれる_婚姻さえしてしまえば、フェリとの溝も埋まるだろうと安易に考えていた。
不満を言わずに結婚式の延期を了承してくれたフェリの顔が思い出された。
フェリを訪ねて、部屋に向かうと扉が不自然に開いていて中に進むと__血溜まりの中にフェリが倒れていた。
かなりの出血量だったが、時間が経っていて半分以上が乾いていた。
時が止まったような感覚に落ちた。
あまりの光景に長い間立ち尽くしたような気もするが、よく覚えていない。
周りを見回すと、窓の近くにあるチェストの上の花瓶が倒れていて、セミージャの種子の外皮が捲れていた。
セミージャの種子は希少で殆どの者は目にしたことがないだろうが、つい先だって聖女アイレさまがフェリに手渡すところを私はたまたま見ていた。
偶然_花瓶が倒れて、たまたま種子が水に浸かって城に侵入した魔物を寄せ付けてしまったのか。
こんな最後を迎えさせてしまったことに、胸が塞がる思いがした。
聖女アイレさまに何度も思わせぶりな振る舞いをされたが、討伐に付いてきてもらうことが常態化して強く拒絶してこなかったことが悔やまれた。
フェリも内心穏やかでなかっただろう。
ふと聖女アイレの姿がよぎった。
私は、すぐに浮かんだ考えを否定した。聖女が人を陥れるなど今まで聞いたことがないからだ。
見るも無惨なフェリスのそばにいき膝を付き、亡骸を抱きしめた。
それは、萎れた花のように芯が無かった。
10日後、能力を受け継いだ当主のみが、生涯に一度だけ使用することができる、剣に付与されている能力『時を戻し』を解放した。
術者への代償は命、制約は時戻し時点まで誰にも時を戻したのが術者だと気付かれてはいけないということだ。
その他に必要な代償と対価は剣が選ぶ。




