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応接室は、窓が大きくて部屋の中が明るい。窓から中庭が見えるようになっている。


ベージュの絨毯が敷いてあって、壁側に3人掛けの重厚感のあるソファが配置してあり、天然木のローテーブルを挟んで、左右に1人掛け用の重厚感のある本革ソファがある。ローテーブルの上にはインクとペンと筆記帳が置いてあった。


筆記帳には、なにやら文字が書いてある。

気にはなったが、ジロジロ見るのも失礼なので、フェリスは一瞥して視線を外した。


3人掛け用のソファに聖女アイレが座っている。


左側の1人掛けのソファに座っていたオルキディアが、ローテーブルの上の筆記帳を手に取り、すらすらと何かを書いてアイレに手渡した。


乱れや癖のない美しい文字だった。


オルキディアはソファから立ち上がり、扉の付近にいたフェリスの側に寄り添った。



「ご紹介させていただきます。こちらは、私の婚約者のアルモアダ伯爵令嬢です」



聖女アイレがオルキディアから渡された筆記帳を見て、フェリスに向けて微笑んだ。


オルキディアが、フェリスに聖女アイレを紹介する。

「こちらにいらっしゃるのは、聖女アイレさまだ」


アイレが、気さくな笑顔でフェリスに向かって話しかけた。


「じつは王宮を出る前夜に、虫に刺されたせいだと思うんだけど...ちょっと聞こえが悪くなっちゃって。侍医に見てもらったら、そのうち回復するだろうって。今は自分の声はなんとか聞こえるんだけど、まだ人の声が聞き取りづらくて、ごめんね筆談で」


「よろしくね、フェリスさん」


オルキディアが、ペンと筆記帳をフェリスに渡した。



フェリスは自己紹介を筆記帳に書いて、オルキディアからその筆記帳をアイレに手渡してもらい、カーテシーをした。


「フェリス・ロロ・アルモアダと申します。こちらこそ、よろしくお願いします。聖女様に拝謁(はいえつ)叶い大変嬉しく思います。よろしければフェリスとお呼びいただければ」




アイレは、恐縮したように頭を少し下げてから言った。

「私なんて、もとはこちらの厩番(うまやばん)の娘で平民なんです。フェリスさま...フェリスさんのほうが由緒正しいお血筋でいらっしゃいます。ごめんなさい、さま付けすると国王陛下に叱られてしまいますのでフェリスさんとお呼びいたしますね」


フェリスは驚いた。


(厩番の下りは前回はご自分で語られなかったわ__この間オルキディアさまから伺ったから知ってるけど...私のこのドレスの色のせいかしら?もともと平民出身でいらっしゃるから、私の地味で落ち着いた装いが功を奏して親近感を持っていただけたのかしら。)



「え?」

オルキディアが、フェリスの腰を抱いて、ローテーブルを挟んで右側の、1人掛け用のソファにエスコートした。




(やだ、びっくりしたわ。以前は聖女さまの前でこんなくっつくなんてこと...いえ、聖女さまの前じゃなくてもなかったわ。)


「聖女アイレさまが、身の回りのものを買いに街に出られると言うから警護をするために私も同行するが、フェリはどうする?」


「オルキディアさま、わざわざこのように近づかなくとも聞こえますのに...ご一緒させて頂いてもいいのですか?」


「もちろんだ」


フェリスがソファに腰掛ける。


オルキディアが筆記帳に書いて聖女に見せる。


聖女がオルキディアから手渡された筆記帳を見て目を輝かせた。

「フェリスさんも、一緒に来てくださるの?いいのですか?楽しみです」

アイレがソファから立ち上がって、フェリスを歓迎した。


3人は紅茶を飲みながら、一時(いっとき)ほど談笑した。




街へは車で行くことになった。

オルキディアが、後部座席の観音開きのドアを開けた。


順番としてはアイレから乗ると思われていたが、

「私は、皆さんの後でいいので先にフェリスさまどうぞ」

アイレが、手のひらをシートに向けて先に乗るように伝える。


「そんな、恐れ多いです。アイレさまこそお先にどうぞ」

フェリスが恐縮して先に乗るように譲る。


「フェリ、アイレさまが仰っているのだから先にお乗り」

「...気が(とが)めますけど...では、お言葉に甘えて」

フェリスが進行方向側の奥に座って、一つ空けて隣にアイレが腰掛けた。


フェリスの対面にオルキディアが腰掛ける。オルキディアは窓枠に頬杖を付いて窓の外に視線をやっていた。

オルキディアの足が長いので、つま先がフェリスのつま先に当たる。


フェリスが、それに少しドキドキしていると、オルキディアがフェリスの反応に気付いたようで含み笑いをして先程より大胆に触れる。


「オルキディアさま、困りますわ」

フェリスが頬を染めて、上目遣いに睨む。


オルキディアが、いたずらが成功した子供のような目でフェリスを見た。


聖女アイレが二人のやり取りを見て聖女が目を見開いた。それからすぐに、あからさまに寂しそうな目をして俯いた。


「失礼、フェリが可愛らしいもので...つい」


オルキディアが素早く何かを書いた筆記帳を手渡して、聖女アイレにも話しを振った。


「アイレさまは、どのくらいの間城を空けることを許されているですか?」


オルキディアが、フェリスにもわかるように声に出して言う。


アイレが筆記帳を見て、オルキディアの方を見上げた。


「恥ずかしながら、もう22です。そろそろ婚姻をと王命が下りまして」


フェリスも、準備してもらっていた手元の筆記帳を使い会話に入る。

「まあ、ではアイレさまは婚姻のために、サルマン領に戻られましたのね?」


アイレがフェリスの筆記帳を見て頷いた。

「そうなのです」


アイレがオルキディアを見詰めた。

「私、昔からオルキディアさまをお慕いしておりましたので、どうしてもお会いしたくて」


オルキディアが目を見開く。


フェリスが、オルキディアの隣で小さく息を呑んだ。


(こんなに、早くから気持ちを伝えるなんて....気付かなかったけど、前回もそうだったのかしら。)


「嘘だろう...今言うのか...」

オルキディアの咄嗟に出た言葉は、筆記帳に書いていなかったが、アイレには何かしら伝わったようで寂しそうな目をした。


(清廉で、可憐な雰囲気の聖女さまにこんなにはっきり想いを伝えられたら婚約者がいたとしても、気持ちが揺らいでもしょうがないわ。今は身分的にも問題は無い...王家を後ろ盾に持つお方。当人同士が良ければ、こんな婚約無かったことにしてしまえるわね。)

フェリスはオルキディアを盗み見た。


オルキディアを見ていたフェリスの瞳は、自分では気付かなかったが不安に揺れていた。






車が街の入口付近で停まった。

「着いたようだね」

オルキディアが先に降りて、手を差し出す。

アイレが先に降りて、フェリスが続いた。

助手席から侍女のアガットが降りた。

「オルキディアさま、わたし下着などが欲しいので別行動させていただきますね」

アイレがそう言ってすぐに離れようとした。










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