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プロローグ

「お二人とも、お気をつけていってらっしゃいませ」

フェリスは、手伝えることが何もないことを心苦しく思いながら魔物の討伐に行く婚約者と聖女らをエントランスホールまで見送りに出る。


「ふふふ...お留守番ありがとうフェリスさん。いつか、フェリスさんにも見せてあげたいな。キディはとっても強くて頼りになるんだよ、魔物を倒すときとか、真剣な眼差しですごくかっこいいんだよ!それに、剣の扱いが巧みでね…」


「アイレやめなさい、遊びに行っているわけじゃないんだよ」

オルキディアが、聖女アイレを見て困った顔をする。


「は~い、一緒に行けないフェリスさんにキディのかっこよさを伝えたかったのにぃ」

アイレが、甘えるようにオルキディアの腕に自分の腕を(から)ませる。


「こら」

オルキディアが、やんわり腕を外す。

見送りに来ている使用人の一人が、アイレに話しかける。

「アイレさま、この間は主人の怪我を治してくださりありがとうございました」

「ううん、お役に立ててよかった」

一度でもアイレの治癒力の恩恵にあやかった者が、一斉にアイレを褒め称え始める。


フェリスは、始終穏やかな表情でこのやり取りを見ていた。

聖女アイレが来てから、常にアイレを中心に全てが回っているので見慣れた光景だった。


「マルス、討伐後は後始末までして戻るから遅くなると思う。フェリは先に休んでいてくれ」

オルキディアが家令のマルスとフェリスに挨拶をする。

「はい」

フェリスは、笑顔で頷いた。


「また、キディの前に乗せてね!安定感が違うもの」「暴れないなら」そんなやり取りをしてオルキディアたちは、エントランスホールを出ていった。

討伐隊のメンバーはだいたい20名前後いて、それぞれが見送りを受けて出ていくが、その中心的存在の聖女アイレが出ていくとエントランスホールは水を打ったように静かになる。見送りに来ていた使用人らが、各々が自分の仕事に戻る。





オルキディアたちを見送った後フェリスは、マルスを呼び止めた。


「マルス、明日の聖女アイレさまの誕生会の準備を皆さんしているのでしょう?私も何か手伝えることがあるかしら」


「フェリスさまにしていただけるような仕事は生憎...お部屋でゆっくりなさっていてください」

マルスが、見送りに来ていた使用人を連れて大広間へ行く。


「仕方ないわね、部屋に戻ろうかしら…アガット?」

いつも付いてくる侍女が足を止めた。


「フェリスさま、実は明日の誕生会の件でアイレさまから頼まれごとをしまして。特別な茶葉を東棟のセイレンさんという方から受け取って来てほしいと言われまして。すぐに、戻りますのでお部屋でお待ちいただけますか?」


「そう、わかったわ。アイレさまの頼みなら仕方ないわね」

フェリスは一人で部屋に戻った。


部屋に戻って、読みかけの本を手にする。


「お誕生会が、優先されちゃったけど...私とオルキディアさまの結婚式はいつになるのかしらね。父も母も延期の手紙だけで日程が決まってないとなると、心配しているわね」




フェリスは、読み終わった本を閉じる。

「そういえば、アガット遅いわね」


フェリスは、扉を開けて廊下に顔を出した。

アガットは、まだ戻ってくる気配はない。

扉を締めて施錠しようとするが鍵が掛からない。


「あら?この扉、鍵が壊れているみたい。いつからかしら…アガットが戻ったら言っておかなければ...」


フェリスは、もう一度読書をすることにした。


本を書架から選んで抜き取り、椅子にかける。



廊下をバタバタと走る音がしたかと思うと、大きな声が聞こえた。

「魔物が城内に紛れ込んだぞー!」


フェリスの部屋は、2階の西の奥まったところだ。


魔物が城に侵入したとしても、一階の大広間に人が集まっているのでそこが狙われるだろうことが予測できた。


アガットの身も心配だったが、東棟はここから大分離れていることを考えると、まずは大広間に助けに行こうと考え執務机の引き出しを開ける。


引き出しの中から、小さな布袋を出した。

中に種子が入っている。


聖女アイレが、フェリスにくれた魔物よけの効果の高い種子でセミージャというらしい。


王家が栽培している貴重な種子で、アイレが王都からサルマン領に向かう道中を心配した国王陛下から賜ったものだと言っていた。


「確か、水に浸すといいのよね。アイレさまがこれをくださったおかげで城のみんなが守れるわ」

聖女アイレが種子をくれた時に教えてくれた使用方法を思い出す。


フェリスは、花瓶に種子を落としてその花瓶を持って大広間に行くよう計画をした。


深くて筒の長い花瓶に種子を落とす。

途端に部屋に甘い香りが広がる。


「こんないい香りが苦手てって、魔物らしいわね」

フェリスが、花瓶を持ち上げた瞬間__扉がゆっくりと開いた。


フェリスの目の前に、体調3メートルほどの釜のような大きさの鋭い爪を持った熊の魔物がいた。

フェリスは、あまりの恐ろしさに手が震え持っていた花瓶を倒してしまった。


魔物は、フェリスを視界にとらえて低く唸った。


フェリスは、死を覚悟した。

咄嗟に震える手を胸元に伸ばして小瓶を取り出した。

魔物がフェリスを獲物と見定めたようで一直線に向かってくる。


フェリスは震える手で必死に小瓶の蓋を開けて、中の液体を一気に呷った。












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