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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

創造のチェーン bルート

作者: 鷹缶

これは「もし」の物語。

決して繋がるはずのなかった。

神殿の奥、純白の空間、そして終焉の予感

幾度となく破壊者の群れを切り裂き、廃墟と化した街をさまよい、環輪の身体と精神は、もはや限界の淵にあった。天令学園はあの悪夢のような日に崩壊し、仲間たちは皆、無残に散った。俺の傍らには、もうクウアしか残されていない。彼女だけが、俺の心の奥底に微かに残る人間性を繋ぎ止めていた。だが、そのクウアも、日に日にその命の光を弱らせ、その存在自体が薄れていくかのようだった。彼女の瞳の奥に宿る、俺への信頼と、そして静かな諦めの光が、俺の心を締め付ける。

レイが地上に姿を現した理由は、明確だった。鎖の創造者である白月黎を、自らの手で葬るため。黎の存在は、レイにとって秩序を乱す異物であり、彼が目指す「純粋な創造」の障害でしかなかったのだ。そして、その目的のために、彼は膨大な創造力を地上で解放した。黎との激しい創造力の衝突は、空間に大きな歪みを生み出し、その歪みこそが、俺たちにレイの居場所を特定させる手がかりとなった。

そして、ついに辿り着いた。レイが創造した神殿。その外観は、この世界のどこにも存在しないような純白で、まるでこの世の穢れを一切寄せ付けないかのようだ。神殿の入り口は、巨大な両開きの扉で、その表面には複雑な幾何学模様が刻まれている。近づくにつれ、冷たい風が吹き付け、輪の心を一層凍てつかせる。クウアは、その扉の前で立ち止まり、震える手で俺の袖を掴んだ。彼女の顔色は、まるで紙のように白く、唇は紫色に変色している。


「輪…本当に、行くのね?」


彼女の声は、か細く、今にも消え入りそうだった。その瞳は、覚悟と、そして深い疲労の色を帯びている。もう、ほとんど創造力も残っていないだろう。それでも、彼女は俺の傍らにいることを選んだ。


「ああ。」


俺は短く答えた。他に選択肢などない。この全てを始めた元凶を、この手で断ち切る以外に、もう道は残されていないのだから。俺は無言でクウアの手を握りしめる。冷たく、今にも砕け散りそうな細い指先。その儚さに、俺の胸の奥で、微かに何かが軋む音を立てた。その音は、まるで、壊れかけた心の最後の抵抗のようだった。それでも、立ち止まることはできない。立ち止まれば、全てが無に帰す気がした。

俺が扉に手を触れると、ひんやりとした感触が指先に伝わる。押し開けるまでもなく、扉は音もなく内側へ滑り込んだ。そこは、まるで別世界だった。外界の荒廃した風景とは対照的に、神殿の内部は光に満ち溢れていた。天井からは、どこから差しているのか分からない、柔らかな白い光が降り注ぎ、空間全体を包み込んでいる。空気は澄み渡り、破壊者の瘴気など微塵も感じられない。しかし、その清浄さが、俺にはむしろ不気味に感じられた。それは、まるで何かの間違いを、存在を許さないかのような、絶対的な純粋さだった。

その時、空間の奥から、激しい創造力の衝突の残滓が、波となって押し寄せてきた。それは、膨大な創造力がぶつかり合った証拠。そして、その先に、横たわる影が見えた。


「黎…!」


俺がその影に気づいたときには、すでに遅かった。中央には、純白の玉座が鎮座しており、その傍らには、一人の人物が立っていた。白い衣を纏い、まるで世界の理そのものを体現しているかのような佇まい。それが、レイだった。そして、彼の足元には、無数の白銀の鎖が散らばり、その鎖の主である白月黎が、冷たくなった体で横たわっていた。黎の瞳は虚空を見つめ、その顔には苦痛の痕跡すら残されていなかった。まるで、最初から存在しなかったかのように、虚無へと帰されている。

レイの瞳は、底知れない深淵を覗き込むかのように、あらゆるものを達観しているかのようだ。その顔には、一切の感情の起伏が見られない。俺は、黎の亡骸を一瞥しただけで、その目をレイに向けた。レイが黎を殺したことは、明白だった。しかし、俺にとって、それはもはや、取るに足らないことだった。黎は、学園崩壊の引き金を引いた存在。だが、その裏で糸を引いていたのは、レイだ。真の仇は、目の前にいる。

レイは、俺たちの姿を認めると、ゆっくりと玉座から離れた。その動作は、流れるように滑らかで、まるで空間そのものと一体化しているかのようだ。彼の口角が、わずかに持ち上がる。それは笑みと呼ぶにはあまりにも冷たく、薄いものだった。


「来たか、環輪」


レイの声は、透き通るように澄んでいながら、どこか機械的で感情がこもっていない。俺は、その声を聞くだけで、全身の血が凍り付くような感覚を覚えた。学園の仲間を奪い、世界を破壊の淵に追いやった元凶が、目の前にいる。その憎悪が、俺の心をさらに深く蝕んでいく。


「レイ…! お前が、全てを…!」


俺の声は、怒りに震えていた。だが、レイは俺の言葉など意に介さないかのように、淡々と答える。


「全ては定められたこと。創造の理を歪める者には、破壊が訪れるのが必然。白月黎もまた、その必然に囚われただけのことだ。」


レイの視線が、床に横たわる黎の亡骸に一瞬向けられる。その視線には、何の感情も含まれていなかった。まるで、道端の石ころを見るような、無関心な視線。


「ふざけるな! 黎を操り、学園を…仲間を…! お前は、何様のつもりだ!?」


俺は、漆黒の刀身を持つ黒剣を構える。その刃が、白い光の中で鈍く輝いた。レイは、俺の黒剣を見つめ、興味なさげに首を傾げる。


「黒の創造者、黒武…だったか。貴様のような空っぽな人間には、武の模倣しかできない創造がお似合いだな」

「黙れ…!」


俺は一気に距離を詰め、黒剣を振り上げた。漆黒のオーラが刃に集中し、空間が歪む。一撃必殺のつもりで放たれた剣閃は、白い光の壁に阻まれる。レイは、まるでそこに何も存在しないかのように、微動だにしなかった。光の壁は、俺の黒剣の威力を完全に吸収し、彼の攻撃はまるで最初からなかったかのようだった。その光は、俺の黒い創造力を根源から打ち消すかのように、瞬時に拡散させていく。


「無駄だ。私には、お前の創造は通用しない。なぜなら、私こそが、この世界の真の理だからだ。私こそが、天の創造神。私の前では、あらゆる創造は、私の光によって打ち消される。」


レイの言葉が、俺の心をさらに深く抉る。天の創造神…その言葉の響きは、俺の胸に絶望の重石を乗せた。クウアは、俺の背後で《空間結界》を展開し、レイの周囲の空間を歪ませようとする。だが、レイの周囲の光の壁は揺らぐことなく、クウアの結界を弾き返した。クウアの顔に、激しい苦痛の表情が浮かぶ。彼女の身体は、限界を超えていた。もはや、彼女に残された創造力は、数回しか使えないほどに枯渇しているだろう。


「輪…私が、援護する…! 黒矢を…! 空間を歪ませる…!」


クウアの言葉に、俺は即座に反応した。黒剣を納め、空間に複数の「黒矢」を生成する。漆黒の矢が、俺の周囲に浮かび上がる。クウアの結界が、レイの周囲の空間をわずかに歪ませ、矢の軌道を予測不能なものにする。


「黒矢! 黒弾!」


俺は、黒矢に加え、漆黒の塊である「黒弾」も空間に創造し、レイに向けて放った。漆黒の矢と弾が、白い空間を切り裂いてレイに殺到する。だが、レイは瞬時に自身の周囲に無数の白い光の粒子を生成し、矢と弾を弾き返した。矢と弾は、まるで透明な壁にぶつかったかのように砕け散る。そして、その破片すらも、レイの光によって消滅させられていく。


「その程度の小細工、私には意味をなさない。私の光は、あらゆる創造を無に帰す。お前の黒も、例外ではない。」


レイが右手を軽く振り上げると、空間に純白のエネルギーの塊が生成される。それはまるで小さな太陽のように輝き、圧倒的な質量と熱量を放っていた。そのエネルギーは、俺の黒い創造力とは比べ物にならないほどの純粋な力に満ちている。


「これで終わりだ。」


エネルギーの塊は、俺とクウアに向かって一直線に放たれる。俺は咄嗟に黒盾を生成し、クウアを庇うように前に出る。漆黒の盾が、白いエネルギーの塊と激突し、凄まじい爆音が神殿中に響き渡る。盾は悲鳴を上げ、ひび割れ、砕け散った。白い光が俺の全身を灼き、爆風が俺とクウアを吹き飛ばし、二人は壁に叩きつけられる。俺の身体は、骨が軋むような痛みに襲われた。クウアの身体からは、さらに鮮血が流れ出す。彼女の銀髪が、血で赤く染まっていく。


「クウア!」


俺は、痛みに呻きながらもクウアに駆け寄る。彼女は、白い壁にもたれかかり、呼吸が乱れている。その瞳は、焦点が定まらず、まるで今にも消え入りそうだった。


「輪…すまない…もう…」


クウアの細い指が、俺の頬に触れる。その手は、凍えるように冷たかった。俺の胸に、絶望が広がっていく。クウアまで失ったら、俺は一体どうなる。この復讐の旅を、何のために続けてきたのか。その意味さえも、失ってしまう。


「諦めるな、クウア! まだだ! まだ終わってない!」


俺は、震える手でクウアを抱きしめる。彼女の体温が、みるみるうちに失われていく。その温かさが失われることが、何よりも俺を恐怖させた。レイは、そんな二人を冷徹な視線で見下ろしていた。


「無駄な足掻きだ。お前たちの創造は、この世界において異物。排除されるのが当然の摂理。私が、この世界の創造神として、全てを浄化する。」

「摂理…? お前が勝手に決めた摂理なんか、知るか!」


俺の瞳に、再び怒りの炎が燃え上がる。もう失うものなど何もなかった。いや、失いたくないものが、今まさに手のひらからこぼれ落ちようとしている。その絶望と怒りが、俺の創造力を暴走させる。俺の身体から、かつてないほどの漆黒のオーラが噴き出した。それは、単なる創造力ではなく、破壊へと傾きかけた俺の憎悪そのものだった。神殿の白い空間が、その漆黒のオーラにわずかに侵食されていく。


「黒槍!」


俺は、巨大な「黒槍」を生成する。それは、これまで生成してきた槍とは比べ物にならないほど、禍々しく、そして強靭だった。漆黒のオーラが渦を巻き、槍の先端から黒い稲妻が走る。俺は、その槍を力強く握りしめ、レイに向かって突進した。地面が、俺の一歩ごとに砕け散る。踏み出した足元からは、黒い創造力が噴き出し、俺を加速させる。

レイは、その猛攻を前にしても、表情一つ変えなかった。彼は右手を軽く掲げ、その掌から白い光の鎖が何本も現れる。それは、まるで黎の鎖を模倣したかのような、しかし比べ物にならないほど洗練された鎖だった。鎖は、俺の黒槍に絡みつき、その動きを封じようとする。


「くそっ…!」


俺は、鎖の抵抗に抗いながら、力任せに槍を振り回す。槍と鎖が激しくぶつかり合い、金属が擦れ合うような耳障りな音が神殿中に響き渡る。その音は、俺の耳元で、絶望の歌を奏でているかのようだ。俺は、身体の痛みを無視し、ただひたすらにレイを貫くことだけを考えた。憎悪が、俺を突き動かす唯一の原動力だった。


「黒侵!」


俺は、奥の手である「創造拡張(エクテンズ)」を発動した。黒いオーラが、レイの鎖にまとわりつき、それを「黒鎖」へと変換しようと試みる。だが、レイの白い鎖は俺の黒侵を完全に弾き返した。光が黒を打ち消し、俺の創造力を根源から否定する。まるで、存在そのものを否定するかのように、俺の黒い創造力を受け付けない。


「私の創造は、お前の模倣などには染まらぬ。お前の黒は、私の白に全て吸収される。」


レイの言葉と共に、白い鎖が俺の身体に巻き付く。腕、脚、胴体…瞬く間に俺は鎖に拘束され、身動きが取れなくなった。黒槍は、その手から滑り落ち、地面に突き刺さる。俺は、全身の力を振り絞って抵抗するが、鎖はびくともしない。鎖は、彼の身体を締め付け、骨が軋む音を立てる。


「ぐぅ…! 離せ…!」


レイは、ゆっくりと俺に近づく。その足音は、神殿の静寂の中に響き渡り、俺の心をさらに追い詰めた。レイの白い手は、俺の左頬に触れる。その手は、石のように冷たかった。俺の顔に、感情のない虚無的な表情を浮かべるレイの顔が近づく。


「お前の憎悪は、理解できる。だが、それはこの世界の理を乱すもの。全てを浄化し、新たな秩序をもたらすためには、お前のような存在は不要だ。」

「何を…勝手なことを…!」


レイの白い光が、俺の身体にまとわりつく。その光は、俺の創造力を吸い取ろうとするかのように、彼の身体の奥底へと浸透していく。俺は、創造力が枯渇していく感覚に襲われる。まるで、身体の中から生命力が吸い取られていくような、恐ろしい感覚。

その時、クウアが、わずかな力を振り絞り、俺に向かって手を伸ばした。彼女の身体は、痙攣を起こし、血が止まらない。それでも、彼女の瞳は、俺を真っ直ぐに見つめていた。


「輪…! 黒界を…!」


クウアの言葉が、俺の脳裏に響く。そうだ、まだ奥の手がある。「擬似超越創造(ビヨンズ)」。クウアの空間結界と俺の創造力で、空間そのものを黒に染め上げ、敵を閉じ込める。しかし、今のクウアでは…。


「クウア…もう…」


俺の声は、絶望に満ちていた。クウアの身体は、完全に限界を超えていた。彼女の瞳には、薄い膜がかかっている。それでも、彼女は俺を見つめ、力なく微笑んだ。その微笑みは、この世の全ての諦めと、そして俺への深い愛情に満ちていた。


「大丈夫…私なら…できる…輪…お前を、信じてる…」


クウアは、最後の力を振り絞り、レイの周囲に《空間結界》を展開しようとする。彼女の身体から、かすかに青い光が放たれる。その光は、細く、頼りなく、今にも消え入りそうだった。レイは、その光に気づくと、わずかに眉をひそめた。


「まだ抵抗するか。だが、無駄だ。その程度の残滓、私の光には敵わぬ。」


レイは、右手をゆっくりと振り下ろす。その掌から、白い光の刃が生成され、クウアに向かって一直線に放たれる。俺は、鎖に拘束されたまま、ただ見ていることしかできない。身体中の創造力を振り絞って抵抗しようとするが、鎖はびくともしない。


「やめろぉぉぉおっ!」


俺の叫びが、虚しく響き渡る。白い光の刃は、クウアの胸を正確に貫いた。彼女の身体から、鮮血が噴き出し、純白の床を赤く染め上げる。クウアは、その場に崩れ落ちた。銀髪が、血に濡れて地面に広がる。その瞳は、俺を見つめたまま、ゆっくりと光を失っていく。彼女の唇が、かすかに動く。


「輪…生きるんだ」


クウアの最後の言葉が、俺の脳裏に焼き付く。彼女の指先が、俺の頬に触れたまま、カクンと力を失った。クウアが、死んだ。俺の腕の中で、彼女の体温が、完全に失われた。

俺の心が、完全に壊れる音がした。それは、ガラスが砕け散るような音ではなく、まるで根を張った大樹が、根元から引き抜かれるような、深く、鈍い音だった。

唯一だったクウア。

俺の全てが、奪われた。俺の生きる意味が、全て。


「クウア…俺は…」


俺の口から、掠れた声が漏れる。悲しみも、怒りも、絶望も、全てが混じり合い、一つの感情へと収束していく。それは、「破壊」だった。全てを破壊したい。この世界を、レイを、そして自分自身を。もう、何もいらない。

俺の左眼に、激しい痛みが走る。まるで、眼球そのものが燃え上がるかのような熱。そして、クウアの《空間結界》に似た、しかし禍々しい青い輝きが、その瞳から迸った。それは、破壊者の力が俺の身体に宿った証だった。クウアの最後の願い。彼女の力が、俺の左眼に宿ったのだ。それは、俺の心を蝕む「破壊」の感情を、さらに加速させる。

俺の身体を拘束していた白い鎖が、軋みを上げて弾け飛んだ。俺は、ゆっくりと立ち上がる。その顔には、一切の感情が失われていた。ただ、虚無だけがそこにあった。その瞳は、レイを、そしてこの世界全てを憎悪するかのように、深く、暗い光を放っている。


擬似超越創造(ビヨンズ)…黒界!」


俺の左眼から放たれる青い輝きが、漆黒の創造力と混じり合い、強大な「黒界」が展開される。その空間は、見る間に黒く染まり、レイを包み込む。神殿の純白の空間が、漆黒の闇に侵食されていく。黒界の中では、俺の創造力が暴走し、無数の「黒剣」「黒槍」「黒矢」「黒弾」が生成され、嵐のように渦を巻いている。まるで、俺の心に渦巻く破壊の感情が、そのまま具現化したかのようだ。

レイは、その光景を前にしても、微動だにしなかった。彼は、興味深げに俺の左眼を見つめる。


「ほう…破壊者の力か。まさか、お前の身体に宿るとはな。これもまた、定められたことか。しかし、所詮は人の器。その力は、真の創造神たる私の前では、無力。」


黒界の内部では、無数の「黒剣」や「黒槍」が具現化し、レイに向かって一斉に射出された。それは、俺の憎悪と破壊の感情が具現化したものだった。漆黒の刃と槍が、嵐のようにレイに襲いかかる。レイは、それでも冷静だった。彼は、その白い手を軽く振り、自身の周囲に白い光の結界を張る。その結界は、まるで宇宙そのものを内包しているかのように、無限の広がりを感じさせた。結界は、俺の放つ無数の黒い武器を弾き返し、その全てを無力化する。黒い武器は、レイに触れることなく、次々と砕け散っていく。そして、その破片すらも、レイの光によって消滅させられていく。


「その程度の力で、私を倒せると思うか。お前の黒は、私の白に全て打ち消される。私は、この世界の理そのもの。お前の存在は、私の創造を乱す異物でしかない。」


レイの声が、黒界の中に響き渡る。俺の黒界は、レイの白い光の結界の前には、まるで意味をなさない。黒い武器は、レイに触れることなく、次々と砕け散っていく。俺の身体から、さらに黒いオーラが噴き出す。だが、それは最早、創造力とは呼べないものだった。ただ純粋な「破壊」の力。俺の身体は、その膨大な破壊の力に耐えきれず、血管が浮き上がり、肌が裂け始める。

俺は、憎悪の眼差しでレイを見据える。だが、レイは既に興味を失ったかのように、小さく息を吐いた。


「今回もダメか。お前では、私には届かない。残念だが、ここで終わりだ。」


レイは、白い光の結界をさらに強める。その光は、俺の黒界を圧倒し、徐々に侵食していく。黒界は、レイの白い光に飲み込まれ、まるで墨が水に溶けていくかのように消え去っていった。俺の全ての創造力が、レイの光によって打ち消された。

俺は、その場に膝をつく。身体中の力が、まるで抜けていくかのようだ。破壊者の力が宿った左眼も、その輝きを失い、ただ虚ろな光を放っていた。彼の身体は、もはや動くことすらままならない。

レイは、俺の前に歩み寄る。その足音は、神殿の静寂の中に響き渡り、俺の心をさらに追い詰めた。レイの白い手が、俺の頭に伸びる。その手は、俺の頭を包み込むように、優しく、しかし冷たく触れる。


「終わりだ、環輪。お前の役割は、ここで終了だ。お前は、私にとっての試金石でしかなかった。そして、その試練にも、お前は耐えられなかった。」


レイの言葉が、俺の脳裏に響く。死が、すぐそこまで来ている。俺の瞳は、虚空を見つめていた。クウアの亡骸が、白い床に横たわっている。血の海に、銀色の髪が散らばっている。その光景が、俺の心に最後の絶望を刻み込む。

レイの掌から、白い光が放たれる。その光は、輪の身体を包み込み、彼の存在を消し去ろうとする。俺は、その光の中で、ただ一人、クウアの顔を思い浮かべていた。彼女の笑顔、彼女の声、彼女の温もり。全てが、遠い幻のように感じられる。俺の手から、クウアの温もりが、完全に失われていく。

輪は、意識が途絶える寸前、かすかに唇を動かした。それは、もはや誰にも届かない、最後の独り言だった。


「クウア…」


レイの光が、輪の身体を完全に包み込んだ。輪の姿は、神殿の純白の空間から、まるで最初から存在しなかったかのように、突如として消え去った。

レイは、わずかに目を見開いた。その完璧な表情に、初めて微かな驚きが浮かぶ。彼が放った光は、確実に輪の存在を捉えていたはずだ。しかし、輪の肉体も、創造力も、全てが文字通り「無」に帰した。まるで、この世界から、その痕跡すら消し去られたかのように。


「…消えた、のか?」


レイは、静かに呟いた。その言葉には、かつてないほどの疑問と、わずかな困惑が滲んでいた。彼は、自分の創造の理から外れた現象を、目の当たりにしたのだ。輪が、ただ破壊されたのではなく、その存在そのものが、この世界から跡形もなく消え失せた。それは、レイが「天の創造神」として知る、あらゆる創造と破壊の法則を超越した事象だった。


「ここから、いやこの世界から、いなくなった、というのか…?」


レイは、消え去った輪がいた場所を、しばらく見つめていた。その瞳の奥に、かつてない探求の光が灯る。

神殿には、再び静寂が訪れる。白い光が満ち、クウアの亡骸だけが、そこに横たわっていた。レイは、その場に留まり、消えた輪の残像を追うように、虚空を見上げていた。

彼の背中が、純白の玉座へと向かっていくことはなかった。

静かに、そして冷たく、全てが終わったかに見えた。しかし、レイの胸には、解き明かせない謎と、不確かな予感が残されていた。


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