第7話「死霊料理食ってみたけど何か質問あるw?」
王都の一室。
勇者チョコレートの部屋は広々とした間取りに、魔法式の設備が整った快適な空間。
だが、住人の生活態度はその格式にまったく見合っていない。
チョコレートはベッドに寝転がり、天井の模様を眺めていた。
「息をするのもめんどくせ~…」
その隣では、キャンディが窓辺で短剣を静かに磨いている。
無口で冷静な彼女の存在は、部屋の空気を常に一定の緊張感で包んでいた。
そこに、クッキーが現れた。
死霊術師。魔王軍最強幹部。メンヘラ。
そして今は、チョコレートに弱みを握られ、
どういうわけか王都の部屋に居候している…
「ごはん、できたよ……!今日は、死霊料理……!」
チョコレートは顔をしかめた。
死霊料理という言葉の響きが、彼の想像力を刺激した。
「死霊料理って……なんか、腐った肉とか、目玉スープとか、そういうやつじゃないの?」
キャンディも眉をひそめる。
「……毒……確認……」
クッキーは首を振った。
「違うの!今日は、過去の偉人たちを召喚して、料理してもらったの!」
「偉人……?」
「うん!まず、前菜は古代ローマの料理人・アピキウスが作った“蜂蜜と胡椒の果物サラダ”。
メインは、フランス革命期の宮廷シェフ・ヴァテールによる“仔牛の赤ワイン煮”。
デザートは、昭和の日本の伝説的パティシエ・辻口さんの“抹茶のムース”!」
チョコレートとキャンディは、目を見開いた。
「……それ、死霊料理っていうか、歴史のフルコースじゃん……」
「……豪華すぎる……」
クッキーは嬉しそうに手を合わせた。
「みんな、私のために料理してくれたの……!
私が“おいしいって言ってくれる人”になりたくて……!」
チョコレートはため息をついた。
「いや、すごいけど……重いな……」
キャンディも小声でつぶやいた。
「……構ってほしさ……過剰……」
食事は完璧だった。
味も、盛り付けも、サービスも、すべてが一流。
死霊たちは無言で、しかし完璧な動きで料理を運び、片付け、空気を読んで消えた。
だが――
「ねえ、チョコレート……私の料理、どうだった……?」
クッキーが、食後のティーカップを手に、チョコレートの隣に座る。
「いや、めっちゃうまかったよ。星5つ」
「ほんとに?ほんとにほんとに?嘘じゃない?私のこと、嫌いじゃない?見捨てない?ずっとそばにいてくれる?」
「え、ええと……」
「私、嫌われるの怖くて……でも、嫌われたくないから、もっと頑張っちゃって……
でも、頑張りすぎて重くなって……それでまた嫌われて……」
キャンディがそっとチョコレートの袖を引いた。
「……逃げる……?」
「いや、逃げたらもっと面倒なことになる気がする……」
クッキーは涙目でチョコレートを見つめていた。
「私、どうしたらいいの……?どうしたら、嫌われないの……?」
チョコレートはしばらく黙ってから言った。
「……まず、深呼吸しようか」
クッキーは、ふーっと息を吐いた。
「……落ち着いた?」
「うん……ちょっとだけ……」
「じゃあ、次は“構ってほしい”って言う前に、“自分が何をしてほしいか”を考えてみよう。
俺は、飯がうまいだけで君のこと好きになったし、重いのはちょっと面倒だけど、嫌いじゃない」
クッキーは目を見開いた。
「……好き……?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「好きって言った……!私、勇者に好かれてる……!」
キャンディがそっと短剣をしまった。
「……面倒……でも……悪くない……」




