第6話「ワイのニート、リッチーとタイマンしたけど何か質問あるw?」
街の中心、死霊に包まれた広場。
空は黒く、風は止まり、空気は重く淀んでいた。
クッキーとチョコレートの目が合う。
その瞳は涙で濡れ、怒りに歪んでいた。
「ねえ……、あなたも、あたしの邪魔をするの?」
チョコレートは、死霊から逃げながら即答した。
「え?邪魔ってなんだよ。俺と会話したいなら、まずこいつらを黙らせろよ。」
クッキーが軽く手を振ると、死霊たちはピタリと動きを止めた。
だが、彼女の感情が高ぶるたびに、空気が震えている。
「魔王様の寵愛を受けるために、あたしはここまで来たのに……!
なのに、なんで……なんで、大切なブローチ壊されて、魔王様にも見てもらえなくて……!」
「いや、俺、壊してないし。あれ、壊したのキャンディだし。
てか、俺、関係ないし。むしろ被害者だし。」
「何年魔王様をお守りして手に入れたと思ってるの!?
あたしが何年、魔王様の私物あさりをして手に入れたか!?」
チョコレートはドン引きして周りを見渡す。
衛兵や死霊も皆、仲良く、ドン引きしていた。
「待ってくれ?話を整理しようか?
俺らは、お前が魔王様に認められて、それを渡されたのだと思っていたが、
まさかのまさかと思うけど、勝手にストーカーして、部屋にまで侵入して、私物を盗んだ変態メンヘラ野郎ってことで、あってるか?」
クッキーの顔が、ぐしゃぐしゃに歪む。
「ストーカーじゃなくて護衛よ!ご、え、い!!!」
彼女の叫びに、死霊たちがざわめく。
「う、うるさい!いいのよ!あたしと魔王様の仲だもの!」
クッキーは可愛らしく顔をゆがめる。
「や~い、変態!」
ボロボロのキャンディもヤジを飛ばす。
「おお、キャンディ!無事だったんだな?」
「うん…、でも、……しばらく戦闘無理。」
クッキーは怒りに任せて魔力球を作る。
「消し飛ばしてあげる!!!」
その魔力は街を吹き飛ばすほどの威力を秘めていた。
しかし、チョコレートは冷静に言った。
「イヤ、逆に俺に考えがある。」
クッキーが魔力球を構えたまま、睨みつける。
「考え?何よ、くだらない屁理屈で逃げるつもり?」
チョコレートは瓦礫に腰を下ろし、指を立てて語り始める。
「まず、ブローチの件。もしそれが“貰った物”なら、持ってないと怒られる。
でも、“盗んだ物”なら、最初から持ってないって言えばいい。
つまり、盗んだことがバレなければ、何も問題は起きない」
クッキーは眉をひそめる。
「……だから?」
「だから、ここにいる全員が“盗んだ”って言わなければ、話は丸く収まる。
でも、もし俺を殺したら?俺は王族直属の勇者で、貴族の護衛と王族と常に連絡がつながってる(※完全な嘘)」
「……は?」
「つまり、俺が消えたら、“魔王の私物を盗んだ女が勇者を殺した”って噂が広まる。
魔王様の名誉も傷つくし、君の立場も終わる。
それって、魔王様に嫌われる未来、確定じゃね?」
クッキーは魔力球を握りしめたまま、震える。
「……じゃあ、どうすればいいのよ……」
チョコレートは立ち上がり、肩をすくめた。
「簡単だよ。今日のこと、みんな忘れる。
その代わり、君は俺の仲間になる。
もし裏切ったら、俺が“記憶を思い出す”ってことにする。
それでいいだろ?」
死霊たちは沈黙し、クッキーはしばらく動かなかった。
そして——
「……わかった。今回は引き下がってあげる。
でも、あたしが敵に戻らない限り秘密はバラさないってことね?」
「そうそう。俺、記憶のON/OFFできるから」
こうして、死霊術師クッキーと勇者チョコレートの戦いは終わった。
街に漂っていた死霊の気配は消え、静けさが戻る。
チョコレートは、空を見上げてぼそりと呟いた。
「よし、街救った。屁理屈で。俺、やっぱ天才かも」