第38話「うん○してたら紙がなかったんだけど何か質問あるww?」(10/10)
だが、次の瞬間――
地面への衝突で発生した土埃の煙が晴れたその場所に、立っていたのは――
**無傷の魔王ポテチ。**
清掃服は焼け焦げて破れ、髪はほどけ、瞳は静かに輝いていた。
その姿は、まさに“魔王”そのものだった。
「………ん」
ポテチは、ゆっくりとクッキーに近づく。
その足取りは静かで、だが確実に迫ってくる。
クッキーは、怯えたように後ずさる。
死霊たちも、魔王の気配に圧されて、動きを止める。
「……ま、魔王様……?」
クッキーの声は震えていた。
その瞳には、恐怖と、そして――後悔が浮かんでいた。
ポテチは、クッキーの前に立ち、そっと手を伸ばす。
「暴力は、ダメよ。めっ!」
その指先が、クッキーのおでこを軽くはじいた。
その瞬間――
死霊たちは一斉に消え、空気が静まり返った。
屋敷の瓦礫が、魔王が指をならしたら元通りに修復されていく。
クッキーは、膝をつき、静かに涙を流した。
「…ごごご…ごめんなさい……魔王様……」
ポテチは、そっと微笑んだ。
「うん。わかってくれたなら、それでいいよ。」
「ってか、あのメンヘラって同性愛者だったんだな…」
チョコレートは、ぼそっとつぶやいた。
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屋敷の空気は、静まり返っていた。
死霊たちは消え、瓦礫は元通りになり、クッキーは膝をついて涙を流していた。
魔王ポテチは、清掃服のまま、静かに立っていた。
その姿は、まるで嵐の後の静けさそのものだった。
チョコレートは、ため息をつきながら、ゆっくりとクッキーに近づいた。
「……お前、何やってんだよ」
クッキーは顔を上げる。
その瞳には、後悔と混乱が入り混じっていた。
「だって……魔王様がいないって思ったら……あたし、どうしていいかわかんなくなって……」
「それで死霊暴走させて、屋敷ぶっ壊して、魔王に攻撃したのか?」
「……うん」
「いや、うんじゃねえよ」
チョコレートは、椅子に座るようなだるい姿勢で、屁理屈を展開し始める。
「そもそも、魔王がいないからって暴れるのはおかしいだろ。魔王がいないなら、掃除でもして待ってればいいじゃん」
「……掃除?」
「そう。ポテチみたいに。魔王がいない間、掃除してたんだぞ?100年も」
「……100年!?」
「そう。100年。清掃員として。誰にも気づかれずに。魔王なのに」
クッキーは、目を見開いた。
「……そうとは知らず、あたし、失礼なセリフを……」
クッキーが過去に魔王に靴を磨かせたことを思い出す
「知らなかったからって、暴れていい理由にはならないだろ。お前、死霊軍まで出して、進軍しかけてたんだぞ?」
「……でも、魔王様がいない世界なら、いらないかなって……」
「だからって、暴力に走るのは違うだろ。ポテチは、無抵抗だったんだぞ。お前の攻撃、全部受け止めてた」
「……でも、あたし、魔王様を傷つけたくなかった……」
「じゃあ、なんで攻撃したんだよ」
「……魔王様だなんて、わからなかったし……」
クッキーは、膝を抱えて座り込んだ。
その姿は、まるで迷子の子どものようだった。
魔王ポテチは、静かに近づき、そっとクッキーの頭を撫でた。
「暴力は、ダメよ。めっ!」
その言葉に、クッキーは震えながらうなずいた。
「……ごめんなさい……魔王様……」
周囲の空気は、静かに落ち着いていった。
死霊たちの残滓も消え、屋敷は元の姿を取り戻していた。
チョコレートは、ため息をつきながら呟いた。
「……結局、俺の屁理屈より、ポテチの“めっ!”の方が効いたな」
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屋敷の騒動が収まり、空気はようやく落ち着きを取り戻していた。
死霊たちは消え、瓦礫は修復され、クッキーは膝をついたまま、静かに涙を拭っていた。
魔王ポテチは、焼け焦げた清掃服のまま、モップを手にしていた。
その姿は、どこか神々しく、そして――妙に庶民的だった。
「指を鳴らせば、元通りになるのでは?」
チョコレートはポテチにささやく
「たまには身体も動かさないとね。ほら、車持ってる人が、自転車や徒歩を選ぶのと同じ理屈よ。」
ポテチの返答に、やはり自分とは根っから考え方が違うと実感した。
「さて……そろそろ、王都に戻らないとな…」
チョコレートは、だるそうに立ち上がりながら言った。
その顔には、いつものやる気のなさと、ほんの少しの達成感が混じっていた。
「王様に報告か?」
「いや、報告っていうか……紙の件、どうするかって話だな」
「トイレットペーパーの話、まだ続いてたんかい」
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王都に戻った一行は、クラッカー王の執務室へと向かった。
机の上には、相変わらず「紙不足」「備品消失」「勇者役立たず」と書かれた報告書が山積みになっていた。
「勇者よ、そなたは戻ったか。で、魔王は倒したのか?」
「ま~、和解?」
「…は?」
「で、トイレットペーパーの犯人は、どうやら、魔王軍ではなかったんだけど、トイレットペーパーの供給は、ポテ…、じゃなかった。魔王にしてもらえることになった。」
「は???」
クラッカー王は、口をぽかんと開けたまま、言葉を失っていた。
「え、ええと……それは……ありがたいが……。でも、裏がないか?魔王って、めっちゃ悪い奴なんだろ?」
「”ただし、犯人捜しはしないでください。誰かを責めるより、今できることをする方が大事です”だってよ。それが虫も殺せないような善人なんだよ。」
「……魔王、めっちゃええ奴じゃないか」
クラッカー王は、椅子に座りながら呟いた。
「ただ、住民には魔王軍を良く思わない奴もいる。だから、この話は、俺達だけの秘密な?」
チョコレートはクラッカーを指さして言った。。
「……国民に隠し事をしろと?」
「今後、トイレットペーパー以外の物資も取引するつもりだ。そこで得た利益の何割かを、お前に税金として納めるよ。金ないんだろ?」
王は言葉を失う。
「だから、その営業の妨げになるし。魔王軍と取引してるって言うなよ?」
「…悪魔に魂を売れと?」
「悪魔じゃなくて魔王な?」
「ぶっちゃけ、人間の通貨何て、あいつらには何の価値もないんだで、俺らにしか利益のない取引だぞ?(ぶっちゃけ、魔物が買い物に来てもみんな逃げるもんな…、しかも取引でのポテチの取り分0だし…。」
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その後、魔王軍と王都の間で、**トイレットペーパー供給協定**が締結された。
魔王ポテチの魔力によって、王都のトイレは復活。
住民たちは歓喜し、勇者チョコレートは――
「……やっぱ俺、無理!!!」
社会不適合者らしく働きだして3秒で家に帰ったチョコレート
「働かなくて済むなら、それでいいや」
結局予想していた通り、チョコレートは社会不適合者として、商人デビューは失敗。
代わりに、マギーとゼリーが店を切り盛りすることになった。
「マギー、伝票の計算間違ってる……かわいくないよぉ~」
「ご、ごめん……怒らんで……ゼリーちゃん……」
グミ時代はゼリーがいじめられていたが、今ではマギーが仕事で怒られている。
それでも、二人は仲良く店を回していた。
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そして、チョコレートは今日もベッドで昼寝をしている。
世界は救われた。
紙も戻った。
でも、彼は――
「……ってか、やばい!!!魔王と和解したら、現実世界に戻されたりしないか???」
誰も聞いていない。
風だけが、彼の言葉を拾って、どこかへ運んでいった。
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