第31話「うん○してたら紙がなかったんだけど何か質問あるww?」(3/10)
魔王軍幹部・クッキーの屋敷を後にしたチョコレートたちは、王都の広場へと戻ってきた。
午後の陽射しは柔らかく、風も心地よい。
だが、その空気は、広場に集まった住民たちの視線によって、じわじわと重くなっていった。
チョコレートが広場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが起こる。
「……あれが、勇者だって?」
「紙の盗難も解決できないくせに、王宮で寝てるだけらしいぞ」
「魔王軍とつるんでるって噂もある。あの女幹部と仲がいいらしい」
「勇者って、じゃなくて、あいつが犯人なんじゃないのか?」
「ってか、俺、朝から尻拭けてないんだけど…」
愚痴愚痴とチョコレートに文句を言う。
あまりのしつこさに、じわじわとチョコレートの胸に沈んでいく。
「……俺、何もしてないんだけどな」
チョコレートは、誰に言うでもなく呟いた。
だが、その呟きは風に流され、誰の耳にも届かない。
「トイレットペーパーが盗まれてるのに、何も進展がない。勇者って、何のためにいるの?」
「魔王軍の幹部と話してたって聞いたぞ。犯人をかばってるんじゃないのか?」
「そもそも、あの魔王軍の女……あれ、勇者の恋人なんじゃないか?」
「ってか、あたしって大切にされてないんじゃ?」
「勇者が裏切ってるってことか……」
チョコレートは、広場の真ん中で立ち尽くしていた。
今、絶対クッキーおったやろ…
周囲を囲む住民たちの視線は、冷たい。
ただ、静かに、確実に、彼を責めていた。
「……俺、紙のことなんて、正直どうでもいいんだけどな」
そう言ってみても、誰も聞いていない。
誰も、彼の言葉に耳を傾けようとしない。
「勇者って、もっとこう……世界を救う人じゃないの?」
「寝てるだけの男に、何ができるっていうの?」
「王様に取り入って、税金で暮らしてるって話もあるぞ」
「ナマポ(生活保護)じゃん!最低!」
「……最近は魔王軍のグミが、あたしば抹殺しようとして、本格的に悪の組織ば使って貶めに来よるとよ。すごく怖かけど……簡単には死なんけん……」
「魔王軍と繋がってるなら、もう処刑してもいいんじゃないか?」
その言葉に、チョコレートは目を細めた。
処刑。
その単語が、あまりにも軽く口にされたことに、彼は少しだけ驚いた。
「……俺、勇者なんだけどな。(あと、絶対マギーも、今いたよな…。)」
誰も答えない。
誰も、彼を見ようとしない。
ただ、冷たい視線だけが、彼の周囲を取り囲んでいた。
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王都の広場を後にしたチョコレートは、静かにため息をついた。
住民たちの視線は、まだ背中に突き刺さるようだった。
理不尽な罵倒は、怒鳴り声よりも重く、静かに心を削っていく。
「……俺、勇者なんだけどな」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。
だが、風はその言葉を拾わず、ただ通り過ぎていった。
向かった先は、王都の外れにある魔王軍幹部の仮住居。
そこには、マギーとゼリーが一時的に滞在していた。
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部屋の扉をノックすると、すぐにマギーが出てきた。
控えめな身なりに、丁寧な所作。
だが、その瞳には、常にどこか怯えたような光が宿っている。
「……チョコレートさん、どうされたと?」
「トイレットペーパーの件で、ちょっと話を聞きたくてな」
マギーは少しだけ首を傾げた。
その仕草は、まるで風に揺れる花のように儚い。
「……最近は魔王軍のグミが、あたしば抹殺しようとして、本格的に悪の組織ば使って貶めに来よるとよ。すごく怖かけど……簡単には死なんけん……」
「……いや、今は紙の話なんだけど」
「紙も怖かよ。情報ば抜かれるけん……」
「盗まれたのは、情報じゃなくてトイレットペーパーだ」
「……それも、生活に必要やけん……」
チョコレートは、そっと目を伏せた。
マギーの言葉は、いつもどこかズレている。
だが、本人は真剣だ。
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その後ろから、ゼリーがひょこっと顔を出した。
見た目は幼女、しかし実年齢は千年以上。
そのギャップが、彼女の言動に妙な説得力を与えていた。
「トイレットペーパー?そんな、しょ~もないことする幹部、ゼラチン的には心当たりないよぉ~」
「そうか……じゃあ、魔王軍の中に犯人はいない感じなのかな?」
「うん。でも、かわいくないことする人は、ゼリー的に許せないから、見つけたら幼児化しちゃうねぇ~♡」
「それはそれで問題だと思うぞ」
ゼリーはくるりと回って、部屋の奥へと戻っていった。
その背中には、キラキラした宝石のブローチが揺れていた。
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マギーは、チョコレートの袖をそっと引いた。
「……チョコレートさん、無理はせんでよかよ。みんな、勝手なことばっか言うけん……」
その言葉に、チョコレートは少しだけ目を細めた。
誰かに気遣われることは、久しぶりだった。
「……ありがとな」
マギーは、静かに微笑んだ。
その笑顔は、ほんの一瞬だけ、世界の重さを忘れさせてくれた。
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