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第30話「うん○してたら紙がなかったんだけど何か質問あるww?」(2/10)

「こんな姑息なことするのは、魔王軍に決まっとるがや!」


王宮の広間に、ビスケットの声が響いた。

拳を振り上げ、目をギラつかせるその姿は、まるで戦場に立つ戦士のようだった。

ただし、今いるのは戦場ではなく、チョコレート城の会議室。

そして議題は、トイレットペーパーの盗難である。


机の上には、王宮備品管理局から提出された報告書が山積みになっていた。

「備品消失」「在庫ゼロ」「予算不足」など、見たくもない単語が並ぶ。

その中で、ビスケットだけが一人、戦闘態勢だった。


チョコレートは、椅子に座ったまま、目を細めた。

彼の姿勢はいつも通り、やる気のないニートスタイル。

だが、ツッコミだけは鋭い。


「……急にどうした。まだ犯人の手がかりもないぞ」


「いやいや、こんな陰湿で地味で、しかも紙を盗むなんて、魔王軍しかないやろ!」


ビスケットは机を叩いた。

その衝撃で、湯飲みが揺れ、マギーが慌てて布を持って走る。

「こぼれたら、掃除せんといかんけん……」

彼女の声は控えめで、どこか不安げだった。


その横で、ゼリーも小走りにやってくる。

「グ…、マギーちゃんが動いたら、(グミになった際に私達が)危ないから下がってて、ゼリーが拭くねぇ~♡」

彼女は笑顔だったが、目は笑っていなかった。


「証拠は?」


チョコが冷静に問いかける。

声は低く、だるそう。だが、論理だけは通す。


「ないけど、魔王軍しかないやろ!」


「……うん、憶測で人を疑うのはどうかと思うぞ」


「ぶっ飛ばしてみて、違ったら謝ればええがな!」


ビスケットは、まるでそれが当然のように言い放った。

その発言に、マギーとゼリーが小さく震えた。


マギーは、過去にビスケットの“誤爆”で王宮の倉庫を丸ごと破壊されたことがある。

その時、彼女は「ごめんって言ったやろ!」という一言で済まされた。

ゼリーは、魔王軍の幹部でありながら、ビスケットの暴力に何度か巻き込まれた経験がある。

「かわいくない人は、ゼラチンで包んじゃうよぉ~♡」と呟きながら、距離を取っていた。


「日ごろから疑われることしてる奴らが悪いわ。魔王軍なんて、いつも悪そうな顔しとるし」


その言葉に、マギーがそっと口を開いた。


「……流石に、それは酷かと……」


彼女の声は、まるで風のように静かだった。

だが、その言葉には、確かな痛みがあった。


ゼリーも、少し眉をひそめながら言った。


「ゼラチン的に、それはちょっと……かわいくないよぉ~」


魔王軍幹部である二人の反応に、ビスケットは少しだけ黙った。

だが、すぐに肩をすくめて言い放つ。


「魔物には人権がないらしいし、ええやろ?」


その瞬間、空気が一瞬止まった。

チョコは、椅子に深く沈みながら、天井を見上げた。


「……確かに、未だに魔王軍グミの残党が、部屋に盗撮器や盗聴器を仕掛けてきて……表の白のワゴンから、マギーの動向を始終監視して……命を狙ってるっちゃけど……」


糖質の被害妄想は、華麗にスルーする2人。

恐れ多くもグミ、本人に、ちょっかい出すバカはいないと思う…。

だけど、ゼリーだけは本気にして、マギーを護衛する



「……この世界、倫理観どうなってんだよ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




王都から少し離れた、魔王軍幹部クッキーの居住区。



屋敷というより、廃墟に近い。

崩れかけた石造りの門、蔦に覆われた壁、そして玄関前には、なぜか墓標が並んでいる。

風が吹くたびに、どこからともなく「うらめしや……」という声が聞こえるのは、気のせいではない。


「……ここ、ほんとに住んでるのか?」


チョコレートは、門の前で立ち止まった。

隣では、ビスケットが腕を組んでいる。


「住んでるやろ。昨日もここで“魔王様の見守りがないと安心できない!!!”って叫んでたし」


「それ、近所迷惑じゃない?」


「近所に人間なんておらんし、死霊しかおらんからセーフだがな。」


「近隣の死霊に迷惑……」


門をくぐると、空気が一変した。

冷たい風が吹き抜け、空が曇り、周囲の音が消える。

まるで、世界が一瞬だけ“死”に触れたような感覚だった。


屋敷の扉が、ギィ……と音を立てて開く。


「おい、クッキー。トイレットペーパー知ね~か?」

チョコレートがボケーっとしてるとビスケットが


「ふぁ?トイレットペーパー?なんで?知らないけど……あたしって、そんなに信用ないの?」


現れたのは、魔王軍幹部・クッキー。

長い黒髪に、虚ろな瞳。

その背後には、半透明の死霊たちが浮遊していた。

歴史上の偉人らしき姿も混じっているが、全員がどこか病んだ表情をしている。


「いや、そういうわけじゃ……」


チョコレートが言いかけると、クッキーの目がギラリと光った。


「ねえ、今、私のこと疑った? ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ?」


その声は、甘く、粘つくような響きだった。

まるで、耳元で囁かれているかのような錯覚を覚える。


「違うんだ。魔王軍幹部でそういう事、しそうな奴はいないか?って話」


チョコレートは一歩後ずさる。

死霊の一人が、なぜかチョコレートに向かって敬礼していた。

たぶん、元軍人だ。


「だって……最近、魔王軍ってだけで、疑われるし……。あたしって、そんなに嫌われてるの……?」


クッキーは、壁にもたれながら、膝を抱えて座り込んだ。

その周囲に、死霊たちが円を描くように集まってくる。


「……あたしって、大切にされてる?」


「いや、今はトイレットペーパーの話を……」


「待って!?今、私、ないがしろにされなかった?」


「してないしてない!してないから!」


チョコは慌てて手を振る。

死霊の一人が、なぜか剣を抜いていた。

たぶん、元騎士だ。


「……でも、紙って、……そんなの盗んでどうするの……?」


クッキーは、ぽつりと呟いた。

その言葉には、妙な説得力があった。

確かに


「じゃあ、犯人じゃないってことでいいか?」


「うん……でも、信じてくれるの?」


「……まあ、死霊に囲まれてるし、嘘ついたら呪われそうだし」


「よかった……じゃあ、今日は優しくしてくれる?」


「それはまた別の話だ」





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