第3話「勇者サボって暗殺されかけたら、リア充転回きたんだけど質問あるw?」
夜が明け、柔らかな朝の光が白亜の城の窓から差し込んでいた。
王都はまだ静かで、鳥のさえずりがほのかに響く。
城下町の屋根が淡い霧に包まれ、ここが王国の中心だということを実感させる。
そんな景色とは裏腹に、勇者チョコレートはふかふかの羽毛布団に包まれ、相変わらずぐっすりと眠っていた。
が、視線を感じたのか、彼は目をこすりながら目を覚ました。
目の前には、一糸乱れぬ姿勢でベッドの横に座るキャンディがいた。
「……まだいるのかよ?」
寝起きの声で問いかける彼に、キャンディは静かに頷く。
「……観察…………続行中……」
「いや、観察って……俺、ただ寝てるだけなんだけど?」
キャンディは無言で小さなノートを取り出し、さらさらとペンを走らせた。彼女が書いた言葉は――「勇者、寝返りを打つ」。
「……おい、そんなの記録してどうすんだよ」
チョコレートは呆れたような顔でため息をつきながら布団をかぶった。
「……ニートに……なれって…」
少し照れ臭そうに、小さな声で彼女は答えた。
その言葉に、彼は手をひらひらと振って返す。
「まあ、いいけどさ。飯は出るし、風呂もあるし、お前がここにいても俺の生活には支障ないしな。お前も立派なニートになるんだぞ。」
彼の無頓着な態度に、キャンディは少し首をかしげてから、またノートに何かを書き込んだ。窓のカーテンが風にそよぎ、部屋に朝の光が差し込んだ。
こうして、勇者と暗殺者の奇妙な共同生活が幕を開けた。
城の中では、静かな日々が続いていた。
王都の騒がしさから離れ、城の客室は平穏そのものだ。
貴族達も、あのキャンディが苦戦してることが信じられず
動くに動けなかった。
部屋の隅には木製の机、花柄のカーペット、そして暖かな光を放つランプが置かれている。居心地は抜群だった。
破壊された家具は新品と入れ替わっていた。
ある朝、チョコレートはまたベッドの中でだらけながら、部屋の端で何かしているキャンディに気づいた。
「おい、君、掃除してんの?」
少し驚いた声を出す。
「……効率的……清潔……必要……」
彼女はモップを持ち、黙々と作業を続けている。その動きは正確で無駄がなかった。
おそらく家具の総入れ替えも彼女がしてくれたのだろう。
「いやさ、俺ほとんど動かないから汚れないだろう?」
「……ホコリ……放置……害……」
淡々と答えるその態度に、チョコレートは頭をかきながら呟いた。
「ほんとに真面目だな……どっちが勇者だかわかんないよ」
その夜、部屋の窓が夜風に揺れる中、ふとした思いつきで彼はキャンディに問いかけた。
「なあ、お前って何か好きなものとかあんの?」
彼女は少しの間考え込んでから、ぽつりと答えた。
「……静かな場所……好き……」
「へえ、意外だな。じゃあ、この部屋、結構気に入ってる?」
キャンディは一瞬チョコレートを見つめてから、小さくうなずいた。
「……うん……」
彼は優しい笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺が寝てるだけなのも、案外悪くないってことか?」
彼女の唇がほんの少しだけ緩むのを彼は見逃さなかった。
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