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第2話「勇者サボってニートしてたら暗殺されかけたんだけど質問あるw?」

数日後。

王都の中心にそびえる白亜の城、その一角にある客間のひとつ。

豪奢な天蓋付きベッドに、チョコレートは大の字になって寝転がっていた。


天井には繊細な彫刻が施され、壁には絹のタペストリーがかかっている。窓からは王都の灯りがちらちらと揺れ、夜風がカーテンを優しく揺らしていた。


「飯は出るし、風呂もあるし、最高じゃん……。あとはネットが欲しいな…。」


ふかふかの羽毛布団に包まれながら、チョコレートは満足げに呟いた。

召喚された当初こそ騒がしかったが、今や誰も彼に無理を強いない。むしろ放置されていた。

それが彼にとっては何よりの幸せだった。


だが――


王国の上層部は、静かに、しかし確実に焦っていた。


「この勇者、何もしないどころか、魔王に落ちたら厄介では?」


「仮にも勇者だ。潜在能力が何かのきっかけで覚醒して魔王軍に落ちたら、こっちが困る」


「……暗殺者を送ろう」


重苦しい空気の中、老練な宰相が静かに言い放った。

その場にいた者たちは誰も反論しなかった。

勇者とは、世界を救う存在であると同時に、制御不能であれば脅威にもなり得る。

ならば、芽のうちに摘むべきだ――それが彼らの結論だった。


こうして送り込まれたのが――キャンディ。

銀髪の無口な少女。

夜の闇に紛れて動く、王国直属の暗殺者。

その名を知る者は少なく、姿を見た者はさらに少ない。


だが、彼女にはひとつだけ致命的な欠点があった。


――対面コミュ障。


◇ ◇ ◇


夜の静寂に包まれる王都、その白亜の城の一角。

キャンディが部屋に忍び込んだとき、窓からは冷たい夜風が吹き込んでいた。銀髪が揺れ、瞳には冷徹な輝きが宿る。彼女の手には短剣が握られ、その刃先は、眠るチョコレートに向けられていた。


静寂を破る閃光


「……勇者、排除……」

その呟きが風に紛れるやいなや、キャンディの足がベッドへ向けて走り出した。短剣が月明かりを反射し、一瞬だけ鋭い閃光が部屋を照らす。


しかし、その瞬間――。


「うわっ、なに?!」

チョコレートは不意に目を覚まし、剣の閃きに気づくやいなや、反射的にベッドから飛び出した。刃が空を切り、枕元を切り裂く音が部屋に響く。


「ちょ、何?何?暗殺者なの!?俺、勇者だよ?偉いんだよ?」


キャンディは無言のまま、次の一撃を放つ。

彼女の動きは風のように速く、正確だ。

短剣が空を裂き、チョコレートはそれを床を転がるようにしてギリギリかわす。


「嘘だろ!マジでやめてよ!」


部屋の中を二人が縦横無尽に駆け回る。

キャンディの短剣は次々と家具を切り裂き、チョコレートは必死にそれを避ける。

机が真っ二つになり、壁には深い傷が刻まれていく。


(おかしい…これだけ騒いでるのに、誰一人、俺の部屋を確認に来ないなんて…ってことは、つまり)


「理由も話さないなんて、ひどくないか?俺寝てただけなのに」


そして、ついにチョコレートは部屋の隅で袋小路に追い込まれる。キャンディの短剣が迫り、反撃の術がないと悟ったその瞬間――。



「待って!俺を殺して何になる?何で殺したいんだよ?」


その言葉に、キャンディの動きが僅かに止まった。彼女の瞳に、ほんの一瞬だけ疑問の色が浮かぶ。


「命令……だから……」

彼女の声が小さく漏れる。


チョコレートは、(これだ!)っと思った。


幸い正論に屁理屈で反論することはヒキニート時代、親で練習済みさ!←最低


「命令なんて知らね~よ!自分で考えろよ」!てめーの人生だろ!お前は死ねって言われたら死ぬんか?」


その言葉は鋭く、キャンディの心に突き刺さる。短剣を握る手が震え始め、やがて彼女は刃を下ろした。


「………はい、そう指示があれば…」


---


彼女の刃を握る手は震え、いつも従ってきたその指示に疑問が湧いてきた。



その時、また声が響いた。


「死ねって言われたら死ぬだって?そんな馬鹿なこと、従う必要なんてねえだろ!」


短剣を握りしめるキャンディの手は止まり、振り返ったそこには鋭い目をした男が立っていた。


「そんなの、ブラック企業の奴隷みたいなもんだ。」

男は一歩近づきながら続けた。


「ブラック企業で働くお前とニートの俺、どっちが幸せそうだよ?よく考えろよ。」


キャンディはその言葉に圧倒されながら、短剣を見つめた。

自分の中の葛藤が火花を散らしている。

それはまるで、自分自身を初めて見つめ直す瞬間だった。


---



---


キャンディは短剣を手放し、両手で顔をおおい、しゃがみこんだ


「…私、死にたくないよ。」声は震え、ぽたぽたと涙が頬を伝った。


しかしその中には確かな意志が宿っていた。


男は少し驚いた顔をして、それから肩をすくめた。

「じゃあ、指示なんて無視して、やりたいことをやればいいんだよ。」


キャンディは泣きながらも、かすかな微笑みを浮かべた。


「でも、そんなこと…どうやって?」


男は軽く笑いながら言った。

「だったら、お前もニートしてみればいいじゃん。自由ってのがどんなものか、ちょっと体験してみなよ。」


キャンディは彼を見つめ、しばらく考え込んだ後、小さく頷いた。

「…うん、やってみる。」


キャンディはニコッ綺麗に笑った。

その瞳には新しい光が宿り、キャンディは初めて自分の人生を選ぶ一歩を踏み出した。


---

※ちなみにキャンディに命令した貴族は一言もキャンディに「自決」の命令は出していない

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