第16話「ニートで昼間に昼寝しすぎで夜寝れなかったから仲間のプライバシー侵害しちゃったけど何か質問あるw?」(4/4)
任務は、次々と与えられた。
標的の名前、場所、方法。
それだけが記された紙を受け取り、キャンディは無言でそれをこなしていった。
「……殺す……」「……残酷に……」
その言葉は、彼女の口癖になっていた。
感情はない。迷いもない。
ただ、任務を終えた後に報告するだけ。
彼女の動きは、音もなく、影のようだった。
誰も彼女の接近に気づかず、気づいた時にはすでに終わっている。
「感情を持たない残酷な暗殺者」――そう呼ばれるようになった。
周囲の者たちは、彼女を恐れた。
話しかける者はいない。
目を合わせる者もいない。
しかし彼女は、孤独ではなかった。
孤独すら、感じていなかった。
ある日、任務の帰り道。
キャンディは、ふと空を見上げた。
星が、静かに瞬いていた。
「……あれ……」
彼女は、何かを思い出そうとした。
草原。星空。小さな手。
誰かの声。誰かの笑顔。
「……ケディ……」
その名前が、口からこぼれた瞬間、彼女は立ち止まった。
「…ケディって…………?」
「誰だっけ?」
胸の奥に、何かが引っかかる。
忘れちゃいけない大切な人…
どんな声で、どんな顔をしていたのか…
でも、それが何なのか、それすら思い出せない。
彼女は、しばらく空を見上げていた。
そして、何も言わずに歩き出した。
その夜、彼女は任務報告の紙に、こう書いた。
**「任務完了。問題なし。」**
それ以外の言葉は、もう必要なかった。
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数年後
キャンディは自立し、個人で依頼をとってきて暗殺命令を遂行する暗殺者になっていた。
例の暗殺者のアジトは警察に解体されていた。
任務の帰り道。
キャンディは、背後に気配を感じて立ち止まった。
振り返ると、そこには黒装束の男――かつて彼女の家を襲撃し、監禁し、拷問し、暗殺者に育てた男が立っていた。
「……久しぶりだな、“刃”」
その声に、キャンディの指先がわずかに動いた。
だが、表情は変わらない。
「……任務の邪魔、排除する」
「おいおい、育ての親に対して随分と冷たいな。俺だよ。」
男は、もう良い年齢だが、相変わらず下品な引き笑いでイラつかせる。
キャンディの足を止めたが、すぐに無表情に戻る。
「……知らない」
「そうかい。なら、思い出させてやるよ。任務の後にな。」
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任務は、王都の地下に潜む反乱分子の排除。
キャンディと男は、無言で共闘した。
刃を振るい、影を裂き、血を流す。
息を合わせることはなかったが、動きは完璧に噛み合っていた。
だが、任務の終盤――
敵の罠が作動し、キャンディに槍が飛んできた
「あぶねっ!!!」
男はキャンディを突き飛ばした。
「…不覚」
尻もちをついたキャンディはお礼をいい、
男のほうをみると
男の腹に槍が深く突き刺さっていた。
どう見ても致命傷だ…。
「……チッ、今年定年して、何なら今日、この任務が終わったら引退するつもりだったんだが、最後の最後でやっちまったな……」
彼は壁にもたれ、血を吐きながら笑った。
キャンディは、ただ見ていた。
短剣を握ったまま、動かない。
「おい、とどめくらい、お前の手で刺せよ。」
何を言ってるのか理解できない…
「俺にだって少しくらい良心はある。お前には……悪いと思ってたんだ。」
ただ黙って見つめているキャンディに勝手に語り続ける。
「お前の家を襲撃し、両親を殺し、弟を殺し…家まで焼いた…。」
「若気の至りとはいえ、俺も流石にやりすぎたと思ったさ…。だが、大体の被害者は俺を恨み罵倒してくれる。逆にそれでバランスが取れてたんだ。」
男は自分勝手に語る
「お前は何も言わずに俺に従い。結局最後まで俺を裏切ることはなかった。クソみたいな人生を送ってきたクズな俺でもよ…。思っちまたんだ。お前のことを、自分の娘だって…」
自分勝手なことを淡々と続ける
どの口が言うんだ
「お前の一番の望みは俺への復讐だろ?だから老いてく俺より強くして、お前の手で復讐されてやるのが俺の贖罪のつもりだった…。お前が裏切って俺を殺そうとするのを、今か今かって待ってたんだぜ?」
「今回の任務で分かった。お前の方が既に俺より強い…。だから、この後、報酬を独り占めしようって欲かいたふりして、お前を裏切り、お前に返り討ちに合う…。俺の還暦祝いにお前の復讐をもらうつもりだった。」
キャンディは答えない。何を言ってるのか理解できない。
「…報酬、欲しかったならあげる」
キャンディの言葉に男は、また不愉快な引き笑いをする。
男は別に任務の報酬がほしかったわけじゃないとわからないキャンディ。
独り占めしようとすればキャンディと揉めて、キャンディに殺されるかと思ったが、
別に二言返事で譲ってくれたみたいだ…。
「…はははっ、お前は本当に良い子に育ちすぎちまったみたいだな。俺の育て方が良すぎたか?………まあ、だからよ。こんな死にかけのジジイを、殺したところで、どうなるわけでもないが…、復讐……しちまってくれよ。」
男は目を閉じた。
キャンディは動かない。
「…どうした?早くしねぇ~と、一生復讐の機会を逃すぞ…。そんなに俺はもう長かねぇ…」
それでもキャンディは、何も言わなかった。
ただ、沈黙のまま、男の最期を見つめていた。
「……復讐しないってのが、お前の復讐か………最後まで思い通りにならない女だよ…。本当にごめん…な…。」
男は、静かに目を閉じ
そのまま、息を引き取った。
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キャンディは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
短剣は、血に濡れたまま。
だが、彼女は一度も振るわなかった。
(……復讐って、何……?)
怒りも、悲しみも、湧いてこなかった。
ただ、空虚だけが残った。
(……あたしは、何のために生きてるんだろう)
その夜、キャンディは報告書に一言だけ記した。
**「任務完了。同行者死亡。問題なし。」**
それ以外の言葉は、必要なかった。
ただ、胸の奥に、何とも言えない重さだけが残った。
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王都の中心にそびえる白亜の城。
その一角にある客間の窓辺に、キャンディは静かに立っていた。
夜風が銀髪を揺らし、冷たい空気が頬を撫でる。
任務は明確だった。
対象:勇者チョコレート。
理由:魔王軍に落ちる可能性。
目的:暗殺。
(……任務、開始)
彼女の手には短剣。
標的は――勇者チョコレート。
キャンディは、いつものように、ただ命令に従うだけだった。
それが、彼女の生き方だった。
それしか、知らなかった。
部屋の中。
豪奢な天蓋付きベッドに、男が大の字になって寝ている。
チョコレート。転生者。勇者。
だが、その姿は、ただの社会不適合者にしか見えなかった。
「飯は出るし、風呂もあるし、最高じゃん……。あとはネットが欲しいな…。」
その呟きに、キャンディは何も感じなかった。
ただ、任務を遂行するだけ。
(……殺す)
短剣が月明かりを反射し、彼女は跳びかかる。
だが――
「うわっ、なに?!」
チョコレートが飛び起きる。
刃は空を切り、枕を裂く。
「ちょ、何?暗殺者なの!?俺、勇者だよ?偉いんだよ?」
キャンディは無言で追撃。
家具が裂け、壁に傷が刻まれる。
だが、彼女の中に、微かな違和感が生まれていた。
(……この男……反撃…なし…?)
「命令……だから……」
彼女の声が小さく漏れる。
チョコレートはハッとした顔になる。
「命令なんて知らね~よ!自分で考えろよ」!てめーの人生だろ!お前は死ねって言われたら死ぬんか?」
(考えたこともなかった…)
その言葉は鋭く、短剣を握る手が震え始め、やがて彼女は刃を下ろした。
(けど、それが命令なら…)
「………はい、そう指示があれば…」
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彼女の刃を握る手は震え、いつも従ってきたその指示に疑問が湧いてきた。
その時、また声が響いた。
「死ねって言われたら死ぬだって?そんな馬鹿なこと、従う必要なんてねえだろ!」
短剣を握りしめるキャンディの手は止まり、振り返ったそこには鋭い目をした男が立っていた。
「そんなの、ブラック企業の奴隷みたいなもんだ。」
男は一歩近づきながら続けた。
「ブラック企業で働くお前とニートの俺、どっちが幸せそうだよ?よく考えろよ。」
男の耳障りな叫び声。
この人は何を言ってるのだろう?
命令が全てなのに…
その瞬間――
キャンディの視界が揺れた。
目の前のチョコレートの背後に、弟・ケディの姿が見えた。
「姉ちゃん……今日も、帰ってきてくれてよかった」
あの草原。あの星空。あの小さな手。
キャンディの中で、忘れたはずの記憶が一気に溢れ出す。
次に見えたのは、母・アメの子守歌を歌う姿。
父が薪を割る音。
家族の笑い声。
でも、それが何なのか、もうはっきりとはわからない。
ただ、胸の奥が、ぐちゃぐちゃに痛む。
(……あたし……死んじゃダメだ……)
(……ケディが……あたしを……見てる……)
(……お母さん……お父さん……どこ……?)
幻覚の中で、家族がキャンディを見ている。
何も言わず、ただ見ている。
その視線が、彼女の心を締め付ける。
キャンディはその言葉に圧倒されながら、短剣を見つめた。
自分の中の葛藤が火花を散らしている。
それはまるで、自分自身を初めて見つめ直す瞬間だった。
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その声は、最初は小さかった。
でも、次の瞬間――
彼女の中で、今まで我慢していたすべてが崩れた。
泣けなかった日々。
目の前で惨殺された両親。
弟を守れなかった後悔。
復讐対象なのに助けることも復讐することもできなかった義理の父。
感情を殺して生きてきた痛み。
それが、いっぺんに溢れ出す。
そして――
キャンディは、静かに膝をついた。
からん
短剣が床に落ちる音が、静かに部屋に響く。
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キャンディは短剣を手放し、両手で顔をおおい、しゃがみこんだ
「…私、死にたくないよ。」
声は震え、ぽたぽたと涙が頬を伝った。
もう何年も流れてない涙…
とっくに干乾びて枯れたと思ってた涙…
悲しい涙じゃない…
暖かい涙…
男は少し驚いた顔をして、それから肩をすくめた。
「じゃあ、指示なんて無視して、やりたいことをやればいいんだよ。」
キャンディは泣きながらも、かすかな微笑みを浮かべた。
「でも、そんなこと…どうやって?」
男は軽く笑いながら言った。
「だったら、お前もニートしてみればいいじゃん。自由ってのがどんなものか、ちょっと体験してみなよ。」
キャンディは彼の後ろの名前も忘れてしまった男の子を見つめ、しばらく考え込んだ後、小さく頷いた。
「…うん、やってみる。」
幻影のケディも安心したように笑い、そして消えていく。
キャンディはニコッ綺麗に笑った。
(もう…安心して良いんだよね?)
その瞳には新しい光が宿り、キャンディは初めて自分の人生を選ぶ一歩を踏み出した。
(もう…自分の人生を歩んでも良いんだよね?)
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「重い!!!!!!!!」
チョコレートは叫ぶ
クッキーはクスクスと笑い
「あ~面白かったね。」
と非人道的なことを言う。
「俺もニートだから人の気持ちはわからない人種だけど、流石に笑うのはやばいと思うぞ。」
「次は誰行く?ビスケット?この子も重いわよ」
クッキーは全員の夢を、もう見ているようだ。
「ま、まてまて!じゃあ俺のも?」
チョコレートはクッキーを捕まえようとする
「もう夜明けね。またね!」
クッキーはキッチンに消えていった。
「どんな顔してキャンディに会えばいいんだよ…」
チョコレートは布団に入った。




