第15話「ニートで昼間に昼寝しすぎで夜寝れなかったから仲間のプライバシー侵害しちゃったけど何か質問あるw?」(3/4)
訓練の日々は、容赦なかった。
刃の扱い、気配の消し方、毒の知識、そして「気の迷いの排除」。
キャンディは、すべてを飲み込んだ。
それは、ケディを守るためだった。
「いいか、人にはな?くそしょ~もない罪悪感ってのがある。相手が情に訴えてくるようなことをすると発動して、気の迷いが産まれる。」
「だから、殺す際は勢いだ。ゆっくり冷静に、人の身体に刃を入れれる人間なんてサイコパスだ。いかれたふりをしてる奴は大勢見てきたが、こういう本当に頭のネジの飛んだ奴は、そうはいね~。だから俺らみたいな凡人の暗殺者は、頭が良い悪いを判断する前に機械的に殺害するんだ。自分に考える時間を作らないことだ。」
「迷ったら、負けだ。その瞬間。逆にやられる。やっちまってから数日飯も食えなくなるが、それさえ乗り越えちまえば、気持ちいもんだねwww」
相変わらず下品に笑う男
耳障りな引き笑い
歯には歯クソまみれだ
歯ぐらい磨けやクソがって思うキャンディだった。
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だが、ある日、訓練から戻った彼女に、静かな現実が突きつけられた。
「……ケディは?」
檻の中に、弟の姿はなかった。
「…なんて?」
男の言葉は、あまりにも軽かった。
「……何処に…」
キャンディの声は、かすれていた。
「何のこと言ってんのか知らねーけど、もともとガキはおまえしかいね~ぞ?」
「うそだ……そんなの……」
だが、誰も否定しなかった。
誰も、ケディの名前を呼ばなかった。
誰も、彼の存在を覚えていなかった。
キャンディは、静かに立ち尽くした。
そう、彼は彼女の意識、良心、感情…人間らしさを具現化した幻影。
涙は出なかった。
怒りも、悲しみも、湧いてこなかった。
当然だ。それは彼女が殺してきた感情
感情を殺すたびに彼が衰弱していったのは…。
そして今日、幻影の彼は
完全に消えた…
本物の弟、ケディ
あの日、女の子は人身売買で使えるが、男の子は肉体労働用の奴隷くらいにしかならない。
だけど、それも身体が育ってきた男の子のみだ。
若い男の子を育てても、この過酷な環境で衰弱して亡くなることが大半
うまく、育っても身体を丈夫にしすぎれば復讐でもされかねない。
まあ簡単に言うとお金になるまでにコスパが悪い。
「じゃあ、ケディは?」
「知らん。まあバラバラにして、臓器を売ったんじゃね?」
男はケタケタと、いつものように笑う。
「外に出したんだから約束は守ったぞwww」
何がおかしいのか過呼吸でひくひくと引き笑いする
気持ち悪くて物凄く不愉快だ。
キャンディは、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚だけが残った。
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その夜、彼女は一人で空を見上げた。
あの草原で、ケディと見た星空。
「ねえ、姉ちゃん。明日も草原行こうね」
「うん。明日も、明後日も、ずっと行こう」
あの言葉が、風に溶けて消えていく。
キャンディは無表情、もう感情が希薄な彼女の頬には涙は流れない…。
「…あたし、弟が死んだのに、涙の一つも出ないんだ……」
ただただ無感情で最愛の弟を失った悲しみすら感じれない自分自身を嫌悪する。
「……もう、何もいらない」
キャンディは、そう呟いた。
その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて完全に壊れた。
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それからの彼女は、任務を淡々とこなすようになった。
感情を見せることはなく、ただ効率だけを追い求めた。
「……殺す……」「……残酷に……」
それが、彼女の口癖になった。
弟が死んでも何も感じない自分は残忍で冷酷な殺人鬼
何も考えないように刃を身体に入れる際は「残酷に」と言う。
周りは死体処理がしやすいようにとバラバラに解体するのかと思っていたが、
それはバラバラにされた弟への、彼女なりの手向けなのかもしれない…
そして、誰もが彼女を恐れるようになった。
「感情を持たない、残酷な暗殺者」――そう呼ばれるようになった。
だが、彼女の心の奥底には、今も小さな声が残っていた。
「姉ちゃん……今日も、帰ってきてくれてよかった」
その声だけが、彼女の中で、まだ消えていなかった。
それが彼女の中に残った、最後の人間らしさなのかもしれない…
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冷たい石の床に膝をつき、キャンディは無言で刃を見つめていた。
それは、彼女にとって「生きるための道具」であり、「感情を捨てた証」でもあった。
「持て。振れ。刺せ。迷うな」
暗殺者の男は、毎日同じ言葉を繰り返した。
それは教えではなく、命令だった。
感情を持つ者は、失敗する。
迷う者は、死ぬ。
キャンディは、迷わなかった。
それは、彼女が「感情を持たない」からではない。
「感情を持ってはいけない」と、自分に言い聞かせていたからだ。
「ケディを守るために、あたしは刃になる」
その言葉だけが、彼女の心を支えていた。
ケディは、もういない矛盾を、考えないようにして…
訓練は過酷だった。
音を消す歩き方、気配を殺す呼吸法、毒の調合、急所の位置。
すべてを叩き込まれ、すべてを覚えた。
「お前は、つまらんが……使えるな。」
暗殺者の男は、汚い歯を見せながら言った。
キャンディは何も言わなかった。
ただ、無表情で次の指示を待った。
夜、彼女は一人で空を見上げた。
星は、あの日と同じように輝いていた。
ケディと並んで見た星空。
「ずっと一緒だよ」
その言葉が、風に溶けて消えていく。
「……ケディ、あたし、ちゃんと守れてるかな」
誰にも届かない声で、キャンディは呟いた。
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その翌日、また任務が与えられた。
標的は、組織に逆らった元構成員。
キャンディは、無言で任務を遂行した。
刃を振るう瞬間、何も感じなかった。
血が飛び散っても、悲鳴が響いても、心は動かなかった。
「……殺す……」「……残酷に……」
その言葉が、自然と口からこぼれた。
任務を終えたキャンディに、暗殺者は言った。
「お前は、もう立派な“刃”だ」
キャンディは、ただ頷いた。
復讐という言葉は、彼女の中にはなかった。
怒りも、悲しみも、正義も、すべては遠い感情だった。
ただ、そこに「やるべきこと」があるだけだった。
だが、彼女の心の奥底には、まだ小さな声が残っていた。
「姉ちゃん……今日も、帰ってきてくれてよかった」
その声だけが、彼女の中で、まだ消えていなかった。




