水の短編 不老不死の人魚
海にほど近い、山林の中。
山ガールと言った風貌の女がどこかを目指して歩いていた。
まあ、私なのだけど。
「よっ、と。」
獣道すら無い茂みを掻き分け進むと、目的の洞窟が見えた。
前回同様に、ヘッドライト擬き──百均で買った物から自作した懐中電灯──を点け、いそいそと中へ入る。
1本道の暗い洞窟を進んだ先、青く光る地底湖にたどり着いた。
まあ、湖と言うには少々規模が小さいから、地底「池」と呼ぶべきか。
池の底が何処か外と繋がっているらしく陽光がほんのりと入り込み、灯りがなくともギリギリ問題無いくらいに明るい場所だ。うっすら潮の香りも混ざっているから海と繋がっていると推測している。
荷物を置き、ライトを消して、目と呼吸を慣らしてから、そっと呼び掛ける。
「こんにちは~…、居ますか~…?」
私の呼び掛けから、しばらく。
池の静かな水面に、僅かな波紋が生じる。
ユラリと水中を何かの影が通り過ぎ──
ちゃぽん…
蒼い頭髪を後ろに流した、絶世の美少女が顔を出した。
彼女は、青緑色のキラキラ鱗に覆われた下半身をくねらせながら、青の瞳を細めて柔らかく微笑む。
「──いらっしゃい、カスミ。」
「お邪魔します、人魚さん。」
──────────
この場所は先日、たまたま見つけた場所だ。
不注意で滑落した先、斜面の窪みの向こうに隠れる様に佇む洞窟の入り口を発見したのである。
洞窟の奥の地底池は、それはそれは静かで、幻想的で、「ああ、ここ、いいな~…。」と時間も忘れてボーっとしていたのだが。
そんな時に姿を現したのが、この人魚さんだった。
「ふふ。また会えて嬉しいわ。」
「ええ、ちゃんと来ました。」
私は持ってきた電池式ランタンを点け、ブルーシートを池の傍に広げてその上に座った。
人魚さんは池の淵に上がり、鱗の腰を落ち付ける。
彼女の上半身は裸ではない。人魚でよくイメージする貝殻ビキニ姿でもない。
その胸元は、白い幅広の海藻?の様なものが布の如く巻かれていて、知性を感じさせる装いになっている。
まあ、海藻布から今にも零れそうなその大きさは、むしろ理性を奪いそうだけれど。
私が男だったら危なかった。
胸の谷間に吸い込まれていく滴から目を逸らし、彼女に語り掛ける。
「今日は人間世界のお菓子をいくつか持ってきました。食べますか? お腹は減ってます?」
「大丈夫。『ここ』に居れば、お腹は減らないから。」
やはり人魚だけあって、不思議生態してるっぽい。
「そうですか…。」残念…
「代わりに、カスミが食べてるところを見たいわ?」
「え? 私が、お菓子を…?」
「ええ。それで、そのお菓子のこととか、味の感想を聞かせてほしいの。」
人魚さんは、かなり博識だ。海で生活しているとは思えないほどに、人間や現代社会のことに精通している。日本語だって日本人レベルでペラペラだしね。顔立ちは西洋人なのに。
「それじゃあ、まずは…、ポ○チからいこうかな?」ガサゴソ…
「あら、おイモのスライス揚げね。」
「芋とか、分かるんですね…。」
「ええ。人魚だから長生きしてるもの?」微笑み…
長生きどうこうの問題かな…?
元日本人が異世界で人魚に転生して帰還しました! って言われた方がまだ、しっくりくるんだけど…。
「ねぇ、そっちの赤い袋のやつは何かしら?」
「ああ、かっ○えびせんですね。海老がまるごと入ってるから、人魚さん的には食べやすいのかな、逆に怒るかなと悩みつつ持ってきたんですけど…。」
「別に怒ったりしないわよ? どうして?」
「海の恵みを人間が不当に搾取してる、的な…? あと、妖怪の河童が敵…、とか?」
「ふふ、何それおかしい。」
相手は人間ではない存在なのに、とてもスムーズに話ができる。
私達は、止めどなく色んな言葉を交わし合った。
──────────
「そう言えば人魚さんって、普段は何を食べて…、
──どうしました?」
人魚さんが身を乗り出し、私の顔をマジマジと覗き込んだ。
「う~ん、その『人魚さん』って呼び方、他人行儀な感じで悲しいな、って。」
「え…。」
「わたしはあなたのことを『カスミ』って呼ぶのに、あなたは私を『さん』付けでしょう?」
「じゃあ、私も名前呼びします…?」
「そうね、そうしてほしい──のだけど。
わたし、名前は無いのよね。」
「え…! 名前が無いんですか??」
「ええ。わたしに呼び掛けてくれる人なんて、今まで居なかったもの。」
悲しそうな声色で透明な笑みを浮かべる人魚さん。
てっきり、人間のお知り合いがたくさん居るのかと思ってたんだけど…。そもそもお母さんとかお父さんは──?
「そうだ。もし良かったら、カスミが付けてくれない?」
「え、私が…!?」
「ええ、お願い。」
まさか、子どもなんていない高校生の私が、他人(他人魚?)の名付け親になるなんて…。
う~ん…。「ア○エル」って付けるのは有り得ないよな。最後泡になっちゃうし、色味も全然違うし。
魚の名前なんて思い浮かぶのは、「ニ○」とか「ド○ー」とか…、ってディ○ニーばっか。
失礼な思考から離れる為に、人魚さんを見つめて問いかける。
「そうですね…。貴女は、どんな存在です…、ううん。
──どんな風になりたいですか?」
「なり、たい…??」
こてん、と首傾げる青い美少女。
う~ん、絵になる…。
「いや、貴女が既に持っているものから名前を連想するのは、在り来たりかなって。だから、発想を変えて。貴女が成りたいものから、名前を考えたいなって。
例えば、空を飛びたい!とか、素敵な王子様に会いたい!とか、歌って踊れるアイドルになりたい! …とか?」
「──ふ。ふふふ。ふふふふっ!」
人魚さんが両腕でお腹を抱える様にして笑う。
目もぎゅっと閉じ、眉を寄せて、背中も丸まっている。尾ビレが震えてバシャバシャだ。
「『わたし』に、なりたいものを聞くなんて!」ふふふふ♪
「そ、そんなに、おかしかったですか…?」
「ええ! おかしいわね!
人間は普通、『人魚』を見たらその肉を食べたいと、不老不死になりたいと願うものよ? 少なくとも、化け物として駆除しようと襲いかかってくるものでしょう?
なのに、あなたったら、人魚の願いを聞くんだもの!」
「いや~…、不老不死とか無駄に大変そうですし…。」
「それなのに、願いの例えが『人魚姫』なんて意地悪ね?」ふふ♪
「え!? 人魚姫、知ってるんですか!?」
「もちろんよ。伊達に長生きしてないわよ?」
「いや、でも、その足…。」って言うかヒレ…
「陸に上がらずとも、『はなし』はできるもの。」
「ああ~、過去に、人間のお友達が居たんですね…。」
「う~ん、『ともだち』とは違うかしら?」
色々と気になる発言を聞きつつ、彼女が悩む様を眺める。
後ろに手を付き、尾ビレでぱしゃぱしゃと水面を叩く姿はブランコに乗った幼子に似ていた。
「わたしの願い、願い…、そうね…。『ともだち』が…、いえ。
──『あなた』と、『ともだち』になりたいわ。」
「いや、もう既になってません?」
「そうなの?」きょとん…
「そうですよ。だって、こんな風に、他愛ない話をしながら笑い合えているなら、それはもう『友達』です。」
再び悩ましげに池をチャパチャパしだした。
やがて答えが閃いたのか、私の顔を真っ直ぐに見て口を開く。
「じゃあ、わたしの願いは。
あなたと『永遠に』、ともだちでいたい、かしら。」
う~ん、愛が重~い…。
こんな美人さんから、愛の告白じみた友情宣言を受けるとは…。
これは、真面目に名前を考えないと、だな。
まず、人魚を食べた人、は無いとして…。
「友達、友達…、
ザ・フレンドで、『ザフレド』…?」
「あら格好いい──」
「ごめんなさい! まだです! もっと素敵な名前にしますから!」
「そう?」
友達で友子は、安直過ぎて令和の世の中には流石に…。
「友達…、永遠…、エターナル…、トワ…、
そのままってのも味気ない…。トワーナル…?」
いや、意味不明だ。
見た目の要素を足掛かりに…、いやそれは意味が無いな。
やっぱり永遠をなんとかもじって…、
無限大?
大きい数って漢字で書く、単位の名前が有ったよね?
確か、無量大数、恒河沙…、あと…、
「あ、那由多。『ナユタ』さんはどうでしょう?」
「!?」
驚いた様に私を凝視する人魚さん。
「ご、ごめんなさい、友達ってニュアンスを入れれなくて…。」
「え…? 入ってるから驚いたのだけど…?」
「え…???」
那由多のどこに友達要素が…??
「『那由多』の『那』は、『豊か』とか『美しくしなやか』ってことを意味するんだけど、人名で読む時に『那』と音を当てることがあるそうよ?」
「…日本語、詳し過ぎません…??」
「ふふ。」
──────────
「ちゃんと着てきてくれた?」
「着てきたけど…。どうするつもりなの、ナユタ…?」
後日、再び洞窟の奥の地底池にやってきていた。
本日の私は登山に適した服の下に、「水着」を着てきている。学校で使うスクール水着だ。暑さが本格的になる前の気候で良かったよ。
「水着を着て、やることなんて1つでしょう? 泳ぐのよ。」
薄暗い洞窟に素足で立つという奇妙な感覚に戸惑いつつ、しっかりと準備運動をしてから、そっと足先を池に浸ける。
「冷た…。」
隣で心底愉快そうに私を見上げる那由多。
彼女に導かれる様に、ゆっくりと水に慣らして徐々に体を浸けていく。
「おお…。」
整備された人工の水溜まりとはまるで異質な空間に、頭がクラクラする。
指先や肌が伝えてくる刺激が、脳を強く突き刺す錯覚を感じる。
「カスミ…。」ちゃぷん…
優しげな声色と共にナユタが私の後ろに回り込み、体を支えてくれる形で密着してきた。
2つの凶悪な質量を背中に感じて私は焦る。
こ、これほどとは…!?
「集中して? カスミ。」むぎゅっ…
「わ、わ、はいっ…!」
いや、これは、ちょっと難しいって言うか…!?
「さあ、潜るわよ。わたしが導くから安心して?」
「う、うん。」
「大きく息を吸って──」
覚悟を決めて。私達は静かに青い池に沈んだ。
──………
──キラキラキラ…
(凄い…、綺麗…。)
池の中は想像以上に綺麗だった。
ゴーグルも無いのに、青い光が揺らめく空間がよく見える。とても、幻想的だ。
──さあ、ここからよ。
カスミ、あなたに「セカイ」を見せてあげる。
(ナユ、タ──?)
何故か水中で「声」が聞こえた、次の瞬間。
周囲の世界が爆発した。
──…アアア逃アア行アアアア…!!
──…ギ~~異胃~…!!
──…ΨΩ交Σ殺εΞ嫌?ΟДЁ絶№…
──…Ⅶ混⑳君⑧⑨??⑧Ⅶ性ⅡⅡⅣ謎…
──…÷]死∞時%@吐%※ヰ…!
(ゥギッ! ガッ…あ!?)
頭が割れる。目が燃える。耳が爛れる。
ギラギラと熱い光が耳を貫き、ゴウゴウと荒れる渦の音が目を焼く。
絶叫が津波の様に押し寄せ、体がバラバラに砕けていった。
──落ち着いて、カスミ。『これ』はあなたに向けられたものじゃない。
暗闇に差す一筋の光の様に、静謐な『声』が私の輪郭を撫でる。
──『ここ』に在るのは、死者の無念。生命力の残滓。数多の人間の、死の形。
(ナ、ナユタ…。)
──そう。私は那由多。あなたのともだち。あなたは、河澄。わたしのともだち。
死にたいと願って「ここ」に来たのに、不老不死に近づく不思議な子。
(わ、ワた死…、)
──どちらもちっぽけな砂粒。世界に揺らめく小さな「波」。
(な、ミ…。)
──どこまでも伝播していく「方向性」。それが「生命」──
「──はぁっ!!! はぁ!はぁ!はぁ!」
池面に上がり、大きく息を吸う。
窒息しかけた体が、「私」を思い出そうと空気を求める。
「はあ…!! はあ…! はあ…、」
「大丈夫?」後ろから抱えつつ…
「ナ、ナユタ…。」カタカタカタ…
怖かった。恐ろしかった。
けれど、それは。
「私」が消えることでは、ない。こんなもの、別に消滅したって構わない。
「彼女」が変貌したことでも、ない。彼女は「化物」だ、それを理解して私は近づいた。
「ナユタ…!」ばっ!!
彼女との、この「繋がり」が消えることが、私の一番の怖いことだった。
逃がすまい、離れまい、とナユタの体にしがみつき、強く強く抱きしめる。
──────────
「ふふ♪ 凄いわね、カスミ。『アレ』に触れて平然としてるなんて。流石だわ。」
「どこ、が…?」
息も絶え絶えに、ナユタに支えられながら池の淵へと戻ってきた。
今の私の有り様は「平然」とは程遠い。
「ぐちゃぐちゃの情報体になった後、取り込もうと思っていたのだけど。
──これなら『同身体』になれるわね。」
「え──?」
私に抱きつく形の、彼女を見ると。
その目から。青い涙が頬を伝っていた。
「ナユ──?」
ゴポポポポ! ギュルルルル!!
涙が膨らむと同時、ナユタの体から「青い水」が何本も噴き出し、私の周りを取り囲んできた。
「むうぅっ!? ぐうぅ~~っ!!?」
青い水は蛇の様にまとわりつき、腕を拘束し、胴を固定し、口と目を塞いだ。
何!? 何が起きて──!? んぎぃ!?!?
目と鼻、喉、耳、水着の内側、全身余すところなく鋭い痛みが走った。
しかし、それは一瞬のことで。やがて冷たい物が体中に染みわたる「温かい」感覚が襲って──
(熱い…!? な、寒い…!?? 何これぇ…!!)
「水」に捕まった体が歓喜で暴れるが、まるで抜け出せない。楽しみで身体の「力が抜けて」いく。
──落ち着いて? カスミ…。
グッチョ!ベッチョ!としか聞こえない耳に、「ナユタ」の声が響いた。
どこから、声が…!
──もう『わたし』は、あなたの脳にまで到達したもの。あなたの頭に直接語りかけているの。身体の支配権だって、ほら。掌握したわ?
ズルルルル… ジュポッ…!
耳が聞こえるようになった。けれど、洞窟の静けさしか届かない。
視界が元に戻った。すぐ前には、「人魚」が横たわっている。髪も鱗も白く変色していた。
口を塞ぎ、手足を縛っていた「水」が体内へと消え失せ、一切の拘束は無くなった。
しかし、疲弊したはずの身体は崩れ落ちることなく、その場に姿勢良く座っている。
「…ぁ、と、当、然ぃよ。『わたし』ぃが、そう、し、たいと思って、そうしぃているのぉだ、から。」
私の口から、私の声で、拙い『わたし』の言葉が紡がれる。
(~~~っ!!!!)
「そんぁな、うっ、うん! あー、あー↓ あー↑
あ~~~→! んっ。…良し。
そん、なに怯えないで…? あなたが望んだ、ことじゃない。『わたし』と、1つに、なりたいって。」
私の心の絶叫を、まるで赤子をあやすかの様に、私の手が、意思に反して私の胸を撫でる。
(何、が、…。)
「ちゃんと、自分を、保って?
あなたと言う『人格』を、消すのは、容易いことだ、けど。『わたし』は、そ、れを望まないわ。」
(意味、分か、んな、い…。)
「『わたし』達は、1つになった。1つの身体に、2つの心。お互いに考えて、いることが、ずっとたくさん、伝わるの。素敵でしょ?」
(…、あな、たは、寄生虫、な、の…?)
「そうね、そうとも言えるかも、しれないわね。」
悪辣な言葉を投げても、『わたし』はおかしそうにクスクスと笑うばかり。
「『わたし』はね? あなたの心が、ううん。あなたの『魂の色』が、とても。好ましい、と思ったの。」
(たましい、い、ろ…??)
「そう。『黒くて』『煤けてて』『歪んで』『捻れて』いるのに、『純粋で』『柔らかくて』『パチパチ弾けてて』、何より『温い』。
とっても面白い。とっても不思議。」
(分か、んな、い、よ…。)
「ふふ、あなたは、それでいい、わ。たくさん、お話ししましょうね。」
そう言うと、『わたし』が、色を失いぐったりとしている人魚の体を抱きあげる。
(何、をす、るの…。)
「ん? 『食べる』、のよ?」
(──!! 『人魚』を食べた者は──)
「──『不老不死』になる。
そうやって、『わたし』は生きてきた。ずっと、ずうぅっと、ね。」
『わたし』が人魚を持ち直す。
髪も瞳も白くなった『脱け殻』と目が合った。
肌も生気がなく、これじゃまるで「人形」だ──…、
(や、だ…、)
「? カスミ?」
(──嫌、だッ…!!!!)
「カ、カスミ…?」
「私」は!! こんな「同化」は! 望んでないっ!!!
「え…?」ホロリ…
『わたし』が、黒い涙を溢す。
目から出てきた「黒いぶよぶよ」が、ぶちゅブチュと体積を増しイソギンチャクの様に空中に伸び上がっていく。
やがてそれは白い顔を掴み、『人魚』の瞳に触れると、その中へと侵入していった。
「なっ…! 『精神生命体』…!??」
ぐちゅりグチュリ…、と中身の無い白い体を、黒く、黒く染めあげていく。
そして『人魚』の体は。
黒い髪に黄土色の肌、薄茶色の鱗、黒い瞳の姿になって。
びくりビクリと動き出した。
「………ぁ……、…ァ…、」ぐぐっ…
「呆れた…。
いくら『わたし』と、同一化したからって、数分で『魂の転写』を為すなんて…。」
ナユタの畏怖の声が聞こえる。
理屈なんかどうでもいい。このあとのことなんて知らない。
「私」は。「私」が、欲する、のは──!!
ドン!!
「え。」
下半身の鱗を突き破って「右足」が姿を現し、地面を踏みしめる。
続けて、「左足」も淵へと掛けた。
黄土色の皮膚を纏うそれらから、茶けた鱗がぽろぽろ剥がれ落ちていく。
「人」の足に力を込め、跳ね上がる様に前へと飛び込んだ。
「きゃっ…!?」ドサッ…!
水着姿の女子高生に覆い被さり、その体を組み敷く。
「カ…、カス、ミ…、」顔面蒼白…
見覚えのある薄い胸が、激しくに上下している。
柔らかそうな唇が、ふるふると震えながら言葉を絞り出す。
青く染まった綺麗な瞳が、恐怖で歪んでいた。
「……ァ、ュタ……。」ニィ~…
怪物の腕力に勝てない、非力な人間の姿が可愛くて、笑みが零れる。
そんな「私」の背中から、欲望が形になった「黒い触腕」が4本飛び出し、私達を閉じ込める檻になって囲う。
「カス…ミ…ッ──」
「ナ、ユタァ…♪」
『私たち』、これからずっと、
『1つになろう』、ね…?
2色の『水』が織り成す、共演の、狂宴──。