秋へ
さらりと一瞬、
重厚な舞台幕がおりました。
夏はやすらかに消えました。
役目を終えた花のように、
静かによこたわる仏陀のように。
そして、秋の香気のする風に、
人は折り返していきます。
こころに ほのかな情熱をとどめて、
誰も彼も孤独なのだから、と。
それでも、
紅葉の道で、ふと振り返ると、
なにかを、忘れてきた気分になります。
どこまでも紅い道の中途で、
人肌恋しくなるのです。
さらりと駆けてゆきたい季節に、
感傷なんて 重荷でしかないのに、
どうして私は、
感傷に身を焼き、
感傷に酔いしれているのでしょうか。
初秋、
人のこころの黄昏に、
これを捧げます。