第9話 貯金ゼロの元凶
「おはようございます、今朝もスカッシュを見てくれてありがとう。あすかは幸せ絶好調。みんなもゼロ様とあすかの…」
「うわあああ!」
俺は何となく流していたテレビをたたき割る。
すまん、病院。
あの悪夢の女こと、あすかはまたどこかから中継をしているらしい。
既に映らなくなったテレビを見ながら心をなでおろす。
bpadを駆使して情報を集めていたが、あのキスシーンばかりが検索に引っかかってくる。何度も何度も見せられて、おかしくなりそうだ。とにかくあの女とは二度と関わりたくない。
「あすかは…今日もゼロ様に会いに――」
消したはずなのにあすかの声が聞こえてくる。
あ、廊下でだれか見てるらしい。
「消すか…」
未だ病室に隔離されているのは、安全面の為らしい。報道陣に入院先の病院は隠しているようで、平和を享受できている。俺でも今外に出たら危ないのはよくわかっているつもりだ。
何せ俺、ステータス初期値だし、身体強化スキル持ってないし。
さすがに廊下に出て民間人を襲うのは忍びなく、耳をふさいで耐えることにした。
「そうなの!ゼロ様の入院している病院がリークされたらしくてね。今から会いに行くんだ~」
楽しそうなあすかの声が聞こえる。
ん?今なんといった。
「そろそろ到着しますよ~うわー大きい!さすがは東京国立大学の大学病院ね」
ハートマークが語尾についていそうな声。
東京国立大学前についたらしいのだが…。それって俺がいるとこ!!
「ゼロ様は特別病室にいるらしいので、今すぐ!会いに行きますね~」
「おい、あの女を止めろ!電話、電話、使い方!どうすんの!?」
bpadを慌てふためきながら操作し、なんとか秀に電話がつながった。ちなみにまだ私物のスマホは届いていない。
「——秀!助けてくれ!」
「落ち着け、零。病室の外に出たことがないからわからないだろうが、警備が厳重だからあそこにお前を入院させたんだ。警備員も、特別に警察官もいる。不法侵入でつかまりたくなければ、門前払いで終わりだ」
「内通者がいたらどうするんだよ。俺が現役のころ、散々暗殺されかけただろ?内通者の一人や二人、いたじゃないか」
人気高ランクプレイヤーをしていたので、妬まれることも多かった。その上、魔人と敵対しすぎて恨みを買っていた。
魔人とはゲート内の魔物と契約し、人間離れした能力を得た人のことを指す。能力を使うと目が赤く光るのでわかりやすい。魔物同様倒しても罪に問われない上、報酬を狙ってプレイヤー狩りをしているので高ランクゲートに潜ると大抵出会う。
「というか、スキップが近づいてきているぞ。どうなってんだ」
あの足音には覚えがある。
間違いない、あすかのものだ。
「とにかく、安心しろ。今俺も向かっているところだ。そろそろ着くから。それからすぐに場所を移すぞ?ひとまずプレイヤー協会に――ああ、そこの君、今から被疑者を移すから準備してくれ。ああ、容疑が固まりそうでな」
「おい、秀。被疑者ってなんだよ」
「零を隠すのに最適な言い訳だろう?協会が捕まえた極悪非道の魔人を警護…個々の警察官に事情を話すわけにはいかん」
「俺は犯罪者かよ」
「病室のクローゼットの中に、制服が入っているから着ておいてくれ。ちょうどいいものがなくてな…、警備員の制服を借りたんだが…」
警備員に紛れて脱出するとのことだが、嫌な予感がする。
昔テレビで見た、日本を脱出した経営者のようだ。
とにかく、苦戦しながら警備員の制服を着用する。犯罪者として移送されないだけまし、か。
「零、私だ。入るぞ」
「おう」
秀が警察官を連れて病室へと入ってくる。
「で、これからどうするんだよ。今思いついたが透明化のスキルをコピー出来たら逃げれるんじゃないか?」
「あ…それもそうだな、ははは…」
完全に失念していたらしい。
「荷物は置いてけ、後で運ばせる。とりあえず関係者用の出口から出て、タクシーで移動だ。タクシーはもう手配してある」
「タクシー?自家用車はないんか」
「金欠で売った!」
「おいおい」
金欠プレイヤー協会には絶望を感じる。
「協会長、彼は魔人…被疑者ですか?」
「ん?こいつはゼロだ。誰にも言うなよ」
「え!?」
複数の警察官からの視線が痛い…。まして、警備員のコスプレ中だ。
「えーと、ゼロ様っていうのはやめてくれないか?」
「し、失礼いたしました!英雄ゼロ様!」
「ゼロ様、良ければ俺と一枚…」
「サインください」
警察官の風上にも置けない。
警察官でこの状態なら、外へ出たらどうなってしまうのか。
「今度サインは郵送で送らせていただきますね。警備していただいたお礼に。協会長の私が約束します」
勝手に返事をする秀だが、さきほどから『協会長』と呼ばれている。
協会長、協会長。
プレイヤー協会、協会長。
うーむ……。俺を金欠に導いた元凶…。
「おまえかーい」