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第6話 推しが40代

「俺はもうだめだ。恥ずかしくて外に出られない…」

零は漫画の山に顔をうずめた。

俺が凍って何年経ったのか、漫画の発行年月日を見て悟ってしまった。最新刊が2050年、ということは。25年凍結していたことになる。

「自分のスキルで凍って、25年も博物館に飾られるとか。なんのプレイだよ」

この場からすぐさま離れたいところだが、生前(?)はまっていた漫画を前に動くことができない。俺の口座やマンションはどうなっているのだろうか。

ノノハちゃんは46歳!?

ありえない。ノノハちゃんがアラサー通り過ぎて40代とかありえない。

失礼なことを考えながら漫画に手を伸ばす。数ページめくっては恥ずかしさに顔をうずめる…を繰り返した。とりあえず、だ。今は漫画を読んで全てを忘れよう…。

コンコン。

その直後病室の扉がノックされた。

「はい、どうぞー」

何にも考えず、反射的に言葉が出る。公開する間もなく、駆け込んでくるおっさん。

「れーい!!」

「うおー!」

ソファごと抱き疲れ、勢いよく漫画が宙を舞う。

おなかのポッコリ具合が心地よい…という冗談は置いといて、誰だこのカツラのおっさんは。カツラ程度、プレイヤーの真眼は騙せない。

「会いたかったぞ。この25年、お前がいなくなって初めてお前の大切さがわがっ…」

首元が湿っぽい。

だらだらと流れる涙を垂れ流すおっさんを引き離す。

「ん…おまえ…秀か?」

「おおーわかってくれたかあああ、れいいいい」

「やめろ、顔を近づけるな、秀やめろお」

感動の再会を果たす最中、病室にぞろぞろと6人入ってきた。服装的に医者看護師と、協会の職員だろう。おっさんに抱きしめられて苦しんでいる様子をほほえましそうな顔で見てくる。いや、助けてくれ。

「お前ら、こいつを引きはがしてくれ…このままじゃ窒息する。う…っぷ」

わざとらしく手をバタバタすると、やっとのことで助け船が入る。

まじで助かった。

引きはがされた秀は、しょんぼりと肩をすくめる。若いころはかわいいで済んだだろうが、今はだめだ。かわいいおっさんを目指すな。

「…で、秀。今は2050年で合ってるか?」

「はい、さようにございます。ゼロ様」

答えられない秀にかわり、答えたのは後ろのスーツ。20代半ばといったところだろうか。ゼロ様呼びをされ、悪夢の女と同じ匂いを感じる。

「おまえ…もしかして俺のファン、か」

何調子に乗っているんだと思われそうだが、ここははっきりさせておきたい。自衛のためだ。

「え!?なぜお分かりに?さすがは――」

はい、ファン確。

「ああ、そうなの、ありがとうね」

最後まで言わせなかったのは俺の当てつけだ。

「はいい。ゼロ様にお会いできて光栄にございます」

「秀、そろそろ落ち着け。あと、漫画サンキューな。話聞けよ、おい」

「れいいいいいい。お前が好きな漫画全部買ってあるからな。毎月毎月…ちゃんとお前の口座から買ってあるからなああ」

「俺の金かい!」

そんなこんなで1時間後、やっとまじめな会話ができた。


「…で、25年経っているのは理解した。お前が老けているしな。俺が凍ってから博物館にいたのも知っている。一体どいつが俺を博物館送りにしたんだ?」

まず俺のすべきこと、その一。

25年間に起こった出来事を知ること。

「それはなあ、特別な管理をしないと溶けるってことで、費用も稼げて管理もできる一石二鳥で博物館に行くことになったんだよ。その上警備も厳重だろ?あ、最後に決めたのは私な」

「そうか、おまえが俺を晒しものにしたのか」

「そう、怒るな。溶けていたら死んでたかもしれないんだぞ」

「ほう?ちなみに俺の稼いだ金はどこへ行った?」

「ああ、それなら一部を除いて寄付…死んだと思われていたからな、死者と同じような手続きがされているぞ」

「あれ、さっきお前死んでいないみたいなこと言ってなかったか?」

俺には遠縁の親戚すらいない。いわゆる天涯孤独というやつだ。

幼馴染の秀とは養護施設で出会っている。

相続人がいない上、希望の英雄ということで「寄付」となったのだろう。国庫に没収されていたほうが戻ってくる可能性があったのでは?法律はよくわからないが。

「おお?俺は死んでないと思ってたぞ。だから漫画を買って供えていただろう」

「俺の金でな」

「おお!」

笑顔で返事するな。

「…ちなみに、変な所へ寄付したんじゃないだろな」

「それは安心しろ。うちに寄付したからな」

ん?

「うちって、俺たちの養護施設か?」

「いや、プレイヤー協会だ」

「………」

プレイヤーの安全と後身育成の為、生前ゼロが言い遺していたとのことらしい。俺はそんなこと一言も言っていない。

「はあ…その金、返してくれるんだろうなあ」

「すまんな、零。全部使ってしまった。ははは」

おいおい、日本トッププレイヤーの貯金額を25年で使い果たしただと?そう簡単に使える額ではなかったはずだが。

「すまん、すまん。うちは肩身が狭くてなあ。安心してくれ、零。お前がまたプレイヤーに復帰したら稼がせてやるよ」

「俺は二度とプレイヤーなんぞやらん」

「そういうな、零。昔よりもプレイヤーは安全だし、稼げる。特に名前が売れてる奴ほど稼げるようになっている。協会所属のプレイヤーは初心者がほとんどで…残念ながら常に赤字で…お前がいないと俺たちはもう…」

「……俺が凍結解除してなかったらどうするつもりだったんだよ」

秀の疲れた顔を見てはこれ以上追及することはできなかった。まあ、あとで〆させてもらおう。

人物紹介

千賀零せんが れい

アイドルのノノハちゃんに貢ぐため、プレイヤーになった。幼馴染がプレイヤー協会で働いていたこともあり、プレイヤー協会所属として活躍。プレイヤーに登録したのは16歳の頃。凍結したのは21歳。現在は戸籍的には46歳。週刊漫画、月刊漫画、軒並み有名どころは追っている。

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