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第4話 ラスボスより怖い

凍結解除まであと15分です。

そのアナウンスを聞いたとき、俺ははっと意識を引き戻した。夢中になってステータス画面を見ていた。昔から時間を忘れてステータス画面を見てしまう。

ある日突然ウインドウが浮かんだ時から、ステータス画面を見ると胸が高鳴る。元ゲーマーの本質がそうさせているのだろうか。

学生の頃ドはまりしていたゲームの影響で、プレイヤーになったっけ。確か、アイドルのノノハちゃんが実況していたので始めた。それから高位ランカーになり、ゲームの中でノノハちゃんに会えたのはいい思い出だ。

ノノハちゃん、今何してるんだろうな。

いつも明るく、ちょっとドジっ子。グループの中ではあまり人気はなかったが、俺はナンバーワンだと思っている。グッズもブロマイドも大量に貢いだ。

プレイヤーで得た財産をほぼ捧げ、貯金ゼロの極貧生活をするぐらいには。見かねたマネージャーに通帳を奪われ、給料を減額…というか協会の口座に貯金された。

1年は経っているとして、ノノハちゃんは22歳。送れなかった誕生日プレゼントを遅れた分だけ用意しなければ。

ん…?

先ほどまで静まり返っていた館内が急に活気を取り戻した。

複数人の足音共に、一人分…スキップをしているな。

「ゼロ様…あすかが参りましたよ~」

「あすかちゃん、人目、人目があるから!ちょっと待って。スキップしない」

若い女の声と、呆れる男性の声。

保護者と子供…か?

しかし、ゼロ様?ゼロ様って、俺のことか?

プレイヤーの名前をゼロにしていたことを思い出す。本名とプレイヤー名を一緒にしている人もいたが、あの頃の俺はとにかく病に侵されていた。中二という恐ろしい病に。

本名千賀零の零を少し変えてゼロにしたのだ。

ゼロってかっこいいだろ?

「あすかちゃーん、博物館で走ってはいけませーん。炎上するからやめて~」

悲痛?な叫びとともに、ガタンと大きな音が鳴る。

俺の視界の先にある大きな扉に何かが当たったようだ。

嫌な予感がする。魔物に囲まれた時に感じる恐怖でも、魔人に付け狙われているときの殺気とも違う。そう、ストーカーまがいのファンに追い回され、サインをねだられ、体を触られた時に感じた感情だ。これは、一番まずい。

ノノハちゃんが嫌いになりかけた時の。

「ゼロ様ー!あすかが参りましたよー!」

係員が開錠と同時に、女(一人)がなだれ込んでくる。しかもものすごいスピードで。

髪を茶色に染めてはいるが、日本人だろう。あのスピードはプレイヤーの物だが、小綺麗な見た目をしているので何かの芸能人にも思える。プレイヤーは大抵、金欠か裕福な変わり者が多い。一般人との見分けが簡単につくぐらいには、個性のある服装をしている。そしてウインドウ画面から買える防御アイテムを制服とばかりに着込む。

俺はイメージ戦略で黒っぽい恰好をさせられてきたが、すべて協会が用意した特注品だった。プレイヤーは『かっこいい』を常に体現させられていた。

「きゃー!生ゼロ様。ちかーい。かっこよすぎ」

「あすかちゃん、中継してるから」

カメラやら機材を持ったスタッフと共に、ひ弱そうな男性が入ってくる。父親と思ったがあの感じではマネージャーといったところか。

俺のマネージャー兼パシリの佐々木秀を思い出す。

プレイヤーに登録するとき、すでに協会に就職していた幼馴染に車で送らせた。その後流されるままプレイヤー協会所属になり、マネージャーにするようしつこくねだったのだ。

プレイヤー協会といえば就職先ランキングトップ10に入っていた。そのプレイヤー協会で役職に就くと野望を語っていた幼馴染をパシリにした戦犯が俺である。

普通プレイヤーはマネージャーなんて持たないし、いたとしてもギルドマスターなど、運営に携わる人だけだろう。俺の未来が…なんて嘆いていたが、なんだかんだ将来は出世できるだろう。俺をプレイヤー協会の英雄にまでのし上らせたのだから。

…で、秀のことはいい。あの目の前の女だ。

触ってはいけません!と叫ぶマネージャーをよそに、べたべたと展示ケースを触る。

なんだか鼻息が白いように見える。沸騰しているのか?

「えへ、えへへ。ゼロ様…ゼロ様…」

プレイヤー名を本名にしなくて本当によかった。ストーカーに本名がばれていたら俺の平穏なプライベートが失われていただろう。

『凍結解除まであと5分です』

早く、行ってくれ。頼む。

ここで凍結が解除されたら。どうなるか容易に想像がつく。

あの展示ケースは割れるだろうか。強化ガラス程度なら容易だが、ゲート内の素材なら割れないかもしれない。

「あすかちゃんが到着したようですね。あすかちゃん、英雄ゼロ様を見た感想は?」

別の声がする。あれ、なんか聞き覚えがあるな。

確か…TSBのアナウンサーで…ノノハちゃんと握手していた…。

「はーい!ついに私は、東京中央博物館の特別展示室に来ています。ポスターのゼロ様より何倍も美しい、そしてちらっと見える胸筋…私は感無量。もう死んでもいい」

「それはよかったねー。ゼロ様の見え方はどう?」

「ゼロ様の周囲をぐるっと回れるようになっているので、後ろからも前からも見ることができます。ああ、ゼロ様の横顔…はあ素敵」

「そうか、そうか」

ああ、俺は今イヤモニの音を拾っているのか。プレイヤーとして覚醒してから、聴覚視力が異様に伸びた。ほとんどのプレイヤーはいつもなら聞こえない音が聞こえる…と、覚醒前に違和感を覚えるらしい。その数日後、ウインドウ画面が現れる。

プレイヤーとして覚醒するのは全人口の1億分の1ほど。その1割がプレイヤーに登録すると聞いている。

そしてあのあすかちゃん…は、プレイヤーのレポーターといったところか。

氷のきしむ音が聞こえてもいいだろうが、あの騒ぎ様では自分の声ばかり聞こえている状態だろう。

「あの、スタッフさん。私…一度やってみたいことがあるんですけど」

急にしおらしく手を上げる。

「何かな?あすかちゃん」

「一生に一度でいいんです。ガラス越しでいいんです!」

ん?んんん?

「ゼロ様に初キスをささげてもいいですか?」

はああああ?

こんにちは!

はじめまして!お読みいただきありがとうございます。誤字脱字、コメントありましたら是非お願いします。たまに人物紹介とか後書きにいれていきたいです。

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