第14話氷のアトラクション
逃がさないとばかりに用意されていたタクシーに乗り込み、スタジオへ向かった。
色々あったがノノハちゃんに会えるのだから全て水に流そう。
そういえば、下調べをしてくるのを忘れた。まあ、なんとかなるだろう。
「もうしわけございません、ゼロ様。祭典の影響で渋滞しているようで…」
「祭典?」
「あれ?ご存じない?世界各国の首脳が集まってゼロの復活を祝っているんですよ」
初耳。
「そ、そうか…」
嬉しいやら恥ずかしいやら。
25年後の世界のノリにはついていけない。
「こんにちは~ゼロ様」
タクシーを降りて早々、ハイテンションのあすかに抱き付かれた。俺は落ち着いているぞ。
ノノハちゃんに格好悪いところは見せられない。
「あれ、ところでここは…?」
スタジオ…にしては大きなドームのような。
丸い円形の、野球スタジアムにしてはバカでかい建物だった。
25年も経って、スポーツも進化した、とか?
「ここは、第二ゲート兼慰霊地よ」
あすかは俺から離れると、後ろの建物を指さした。
「第二ゲート…だと」
「ええ、20年前に開いた第二ゲートによって生み出された場所なの」
―――!
ドーム内から見知った気配を感じる。
これは、ノノハちゃんと魔物!?
「まさか、このゲート…まだクリアされてないんじゃ」
「さすが、ゼロ様」
「ゲート崩壊が起きているのか!?」
あすかの肩を揺さぶる。
「いいえ、ゲート崩壊はまだ起きていないのだけど…」
あすかの話によると、このドームそのものがゲートなのだという。
建物内に一歩足を踏み入れるとあら不思議。
プレイヤーのスキルやステータスを磨くためのアトラクションが揃えられているという。
「クリアを前提としていないゲートだと?しかもプレイヤーのレベリングをするための…?」
「本当は違うんじゃないかっていわれているのだけど、今のところそうなっているわ。初心者プレイヤーはここからスタートするのよ」
それを受け入れるなど、どうかしている。
このゲートの奥から強い気配を感じるというのに。
これはおそらく、強いプレイヤーを欲するボスが、獲物を育てているだけだろう。
「で…ここにノノハちゃんがいる…と?」
「え、ええ。このゲートが開いたとき、たまたま近くにいた人たちが巻き込まれて…それで…」
頭の中が真っ白になり、何も聞こえなくなった。
巻き込まれた。
ゲートの誕生に巻き込まれた…。
「ノノハ…!」
俺はスタッフたちを置き去りにして、ドームへと入場した。
「え…ゼロ様」
「行っちゃいましたねえ、英雄様。どうします?これからいいシーンがとれたはずなのに」
スタッフは顔を見合わせた。
このゲートはプレイヤーが同伴すれば、一般人も入場ができる。
あすかだけではこの人数を怪我無く帰還させることはできないだろう。
「仕方ない…出てくるのを待つか…」
「えーん、ゼロ様ぁ。私は一人でも追いかけます~」
そうしてあすかは第二ゲートへ入場した。
「なんだ、ここ」
ゲートに足を踏み入れた瞬間、なんだか懐かしい風景に様変わりした。
これはまさしく、テーマパーク。
「遊園地に化けているのか?」
思えばこの場所、実際に25年前に野球ドームがあった立地ではないか?
そしてその近くには遊園地があった。
おそらく何かのロケをして巻き込まれたのだろう。
「しかし、ここ。遊園地にしては気持ちが悪いな」
常にすべての場所からみられているよう。
値踏みされているような。
「ノノハちゃん、どこに?」
ゲート内の時間は外の時間と同じ進みをするとされている。しかしごくまれに、時間がゆったりと流れているゲートも存在する。
もしこのゲートが遅い時間を刻んでいるのなら、ノノハちゃんが生きている可能性はあるだろう。もちろん、魔物に襲われていなければの話だが。
俺は周りを良く見渡すため、観覧車へと向かう。
そういえば、他のプレイヤーに会わない。
「プレイヤーの練習場になっているっていわなかったか?…ん?あれは」
氷のミュージアム、と書かれた建物から強い視線を感じた。
「氷…ね」
嫌な予感しかしないが。
「行くか」
初期ステータスであることを放念し、俺は扉に手をかけた。
「うう…寒…ん?寒くない!」
建物の中は冷気や氷の像を楽しめるアトラクションになっていた。夏場は人が好んで寄るスポットになっていただろう。
「ステータス」
どうやら俺の氷結の英雄によって、寒さを感じないようになっているらしい。
この氷結の英雄、気になっていたが肉体改造を優先し、一度も使っていなかった。せっかくだ。ここで試すのも悪くないだろう。
ゆったり歩きながら、俺は手のひらの上でスキルを使う。
ピシ、ピシと音を立てながら氷塊が生み出された。これを槍状にして敵に向けたら楽しいだろうな。
これは俺の固有スキルだから、制約のあるコピーとは違ってレベルを上げることもできる。色々試してみるか…と思いながら氷塊を握りつぶした時。
「-――え」
目の前に、最推しのノノハちゃんがいた。
パラパラと散る氷と推しを隠す冷気の奥。
25年前とあまり変わらない姿で、ノノハちゃん――いや、テレビ局のスタッフも共に、撮影をしていた。
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