第1話 起きたら博物館に展示されてました。
パキ…ピシ…。
特別な管理をされた展示ケースの中。
中央に設置された氷の像からパキパキと音が鳴る。
東京中央博物館に眠る展示物…もとい俺。
認めたくないが俺は日本最大の博物館に展示されていた。それに気が付いたのはほんの1時間前。
『凍結状態を解除しています』
真っ暗な意識の中、突然アナウンスが流れる。意識が急浮上し、視界がクリアになる。
目を開いたまま凍っていたのが幸いし、凍ったままでも外が見えた。
いや、恥ずかしいわ!
どうやら何やら厳重に囲われた透明なケースの中で、国宝さながらに飾られているらしい。ケースの外側から俺を眺める人々…かなり多数。
だらだらと流れるはずもない汗が流れる気がした。
で、ここはどこだ?
『スキル遠視』を無駄に使い、入館者の手元を見る。
――東京中央博物館。
はい、終わった。
博物館に行かない俺ですら知っている有名な国立博物館だ。入館者数も日本一。
一体今まで何人の人に見られたのか…。想像するだけで恐ろしい。
『凍結解除まで、のこり35時間』
無慈悲なアナウンスに、俺は心の中で叫ぶ。
羞恥プレイは嫌だー!
2020年、4月1日午前12時―――。
世界の根本が変わる事件が起こった。
突然視界の先に、ゲームのウインドウのようなものが見える様になったのだ。いわゆる『ステータス画面』といわれるそれには、「ゲートをクリアしてください」と大きな文字が浮かんでいた。
その後、世界各地で『ゲート』が発生し、勇気ある人々が挑戦することになる。ゲートは円形で、中心に向かって渦を巻いた。一歩そのゲートをくぐると、不可思議なことに異世界さながらの場所へ飛ばされる。
それは青々とした木々の生える森であったり、じめじめとした薄暗い洞窟のなかであったり。同じゲートからは同じ場所へ飛ばされるが、ゲートの先にいる『ボス』を倒さない限り出ることはできなかった。また通常ゲートはクリア後消滅し、二度と立ち入ることはできない。
ゲートへ挑戦する人を『プレイヤー』と呼び、そして『プレイヤー協会』と呼ばれる組織が世界各国に作られるのは時間の問題だった。
そして、2025年4月1日。
ゲートが初めて生まれてから5年もの月日が流れた日。
特殊ゲート『第一ゲート』が開いたのだった。
何故このような状況に陥っているのか。
氷の中で必死に頭を回転させる。
数千人のプレイヤーを飲み込んだ『赤いゲート』に単身乗り込んだこと。そこで『炎帝』を名乗るボスと対峙したこと。そして仲間を失ったこと…。
仲間を失った?
誰を?
そうだ、たまたまゲート内で会ったパーティと意気投合して、それで…。
ぐわんぐわんと揺れる意識の中で、数時間戦地を共にした仲間の顔を思い浮かべる。スキンヘッドのアニク、こめかみまで刈り上げた高身長男子ルーカス、そして金髪美女のソフィア。
髪も瞳も真っ黒ぼさぼさで、ぼっちな俺とは対照的なパーティだった。
一時の仲であったが、しばらく動けなくなるほど頭が真っ白になって悲しかった。今まで仲間を作らなかったのは、仲間を失うのが怖かったからだと思い出した。
『プレイヤー名ゼロ。おめでとうございます。第一ゲート赤の王、炎帝をクリアしました』
突然視界の先にステータス画面が浮かびあがり、報酬が提示されていく。
プレイヤーは本名を名乗ることは少ない。
メディア露出も多いためか、プレイヤー名を名乗ることが多かった。
俺もそれに倣い、本名の読み方を変えて名乗っている。かなり雑につけたほうだ。もっと長い、アメコミヒーローのようなプレイヤー名が多いのだ。
第一ゲートをクリアしただと?
ラスボスにふさわしい姿をした炎帝と対峙したとき、数千人を飲み込んだゲートであることをありありと感じた。恐怖心はさることながら、周りを囲む炎の熱さで全身がひりひりと悲鳴を上げた。
仲間が一人、また一人と焼けていく中で、俺だけが無事だったのは一重に『氷のスキル』を一時的にコピーし持っていたためだ。とはいっても、偶然の産物で手に入れた戦闘力が高くないスキル。
ちょっと全身を涼しくしたり、武器に氷をまとわせて使うぐらいだった。まさかラスボス戦で役に立つとは思わなかった。
このスキルは第一ゲートをくぐる直前に出会ったおばあさんから拝借したものだった。
そういえば、あのおばあさんなんか怪しかったような…。
どこの世界からやってきたのだ、と言わんばかりにフードを目深にかぶり、しわがれた声と曲がっているように見えた鼻。
頭が痛くなってきた。とりあえず、氷の像になっている上展示物にされていることに納得がいっていないのに、これ以上悩むのはキャパオーバーだ。
こう見えてプレイヤー協会所属のエリートで、マネージャーもついていた。誰一人クリアできないゲートに困り果てた協会から「君だけが希望だ」と頭を下げられ参加することになった。プレイヤー協会所属はいわゆる準公務員のような立ち位置で、プレイヤーの指標を求められる。ましてやメディア露出も多少あり、ぼっちだが正義感には燃えていた。
わざわざ外国…しかも南極のゲートなど、『ゲート崩壊』のおそれがなければ参加したくなかったのが本音だ。
『炎帝討伐報酬として、炎帝のコアを手に入れました』
ピコンと頭に音が鳴る。
炎帝のコア。炎に焼かれるバスケットボールのような見た目をしている。
いくつか集めたら願いが叶うとか?
ふざけたことを考えながら、俺はステータス画面をスクロールした。