第五章
スターの秘密 第五章 石枝隆美
わたしは真梨に教えてもらった嫉妬心を煽る方法を試してみることにした。
「中山翔吾さん、カッコいいですよね。ダンディーで立ち振る舞いが様になってて。」
幾島さんは目をパチパチさせたが、すぐに、
「ほんとだよね、俺もああなりたいよ。」と言い、嫉妬してくれたのかどうかはわからなかった。
私と幾島さんは映画に夢中になり、テーブルに置いてあるウーロン茶を飲んだり、ポテトチップスをつまんだりした。
映画が終わると、幾島さんは涙を拭いながら、「いい映画だったな〜。おれもこの映画に脇役でもいいから参加したかったよ。」と感動していた。
「お腹すいたな。炒飯でも食べる?」
「えっいいんですか。」
「おう、味は保証できないけどね。」
「ありがとうございます。」
彼は慣れた手つきで鍋を振り、あっという間に完成させた。彼の特製炒飯は、ハムと卵がよく絡んでて、ニンニクの香りもついてて、とても美味しかった。
幾島さんは「もう遅いから送るよ。」と言って、車のキーを手に持ち、下まで一緒に降りて、車に乗せてもらった。
彼が車を走らせ、40分くらいしたところで私の家の近所に着き、
「幾島さん、ここで大丈夫です。」と言った。
家族に彼を見られるのが嫌だったので、降ろしてもらった。
「またデートしてくださいね。」
「うん、今度はドライブして、海にでも行こうか。」
「あっいいですね。賛成です。」
「じゃまた。」
「はい。」
幾島さんと会っている間は楽しいのだけど、なんだか自分との身分の差というか、向こうは大人の男性で、自分の幼さが恥ずかしくなった。私も自信を持てるものを持って、対等に幾島さんと語り合いたい、そんな風に思った。
十六
居間のドアを開けると、お姉ちゃんが台所で茶碗を洗っていた。お姉ちゃんは私に気づき、「あら、おかえり。」と言った。
「ただいま。お姉ちゃん今日仕事遅かったの?」
「まあね。いつも通り残業があって、今夕食食べ終わったところよ。知華は?ご飯食べたの?」
「うん、彼氏と食べてきた。」
「えっ知華、彼氏できたの?いつの間に…。」
「聞いて驚かないでよ。」
「何よ。」
「あの、幾島颯斗と付き合ってるさ。」
「…うそでしょ。」
「ほんとほんと。」
「…どうやって知り合ったの?」
「上司のつてで紹介してもらったの。」
「知華、騙されてないよね?」
「幾島さん良い人だよ。今日も車で送ってくれたし、炒飯も作ってくれたの。」
「優しい男に限って裏があるからね。気をつけなさいよ。」
「お姉ちゃんたら、心配性なんだから。」
十七
「知華、大変よ。」
真梨が血相を変えて走ってきた。
「どうしたの?」
「週刊誌に知華と幾島さんが出てて、熱愛発覚って書かれてるわよ。」
「えっ…」
まだ付き合ったばかりなのに、もう記事になるなんて思わなかった。それよりもっと驚いたのは、幾島さんが三股疑惑と書かれていたことだ。私は目を疑った。あの真面目な幾島さんがそんなはずない。でたらめだ。私は真実を知るために、幾島さんにその夜電話した。
「幾島さん、週刊誌見ました?三股ってデマですよね?
「…本当だよ。」
「えっ…」
「天宮さん、でも僕は君が一番好きなんだ。他の二人とは関係がズルズル続いてて…。」
「そんなの…」
「俺が嫌いになったのなら、別れてくれてもいい。」
「私、本当に好きだったのに。ひどいですよ。」
「…ごめん。」
私は、世間のことを何も知らない一人で浮かれたお嬢様だったのだ。そして、悔しさが込み上げてきた。
その夜、一人でベットの布団の中で泣き声を聞かれないように泣いた。
次の日、泣き腫らした顔でテレビ局に向かった。
「知華、何その顔⁉︎」
「やられたよー真梨〜。騙された。」
「三股って本当だったの?」
「うん、私バカだよね。」
「…そんな奴忘れちゃいな。」
「うん、忘れる…もう二度と会わないよ。」
「知華…」
「私、自分に自信が持てるようになりたい。男なんか頼らなくてもいいくらいに。」
「そうだね、それがいいよ。」
「ヘアスタイリスト目指そうかな。」
「出演者の髪整える人になりたい。美容室の経験も活かせるし。」
「おっ前向きだね。」
芸能人と付き合うなんて現実とかけ離れ過ぎてて私には荷が重すぎた。今は恋人がいなくてもいい。周りから幸せそうだと思われることで幸せを感じるよりも、自分自身が幸せだと思って生きたい。
しっかりした足取りで街を歩く自分がいた。
3年後
「幾島颯斗さん入りまーす。」
彼がドアからメイクルームに入ってきた。
「今回は刑事役なんで、髪は短めにさっぱりした印象で黒髪で清潔感がある感じでお願いします。」
「わかりました。」
「…久しぶりだね。」
「はい、幾島さんもお元気そうで。」
「今度飲みに行こうか。」
「私、仕事の準備があるので、ごめんなさい。」
「だよね。…頑張ってね。応援してる。」
「ありがとうございます。」