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スターの秘密  作者: 石枝隆美
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第一章

スターの秘密  第一章    石枝隆美


 一


 いつからだろうか。平凡な毎日を過ごすうちに無難な生き方をしている自分が嫌になっていた。

 私はサラリーマンの家庭でごく普通に育ち、何不自由なく生活している。美容師の専門学校に行ったが、2年ほど勤めて、上司と反りが合わず、辞めてしまった。今はフリーターをしていて、コンサートのバイトやテレビ局でのバイトでお金を稼いでいるが、生活費には足りないので、親のスネをかじっている。私はいつかとんでもない幸せが自分に降りかかってこないかと望んでいた。


 テレビ局のバイトで休憩時間にバイト仲間の真梨が話しかけてきた。

「知華、ニコニコテレビの観覧募集してたよ。」

「マジ⁉︎絶対行く。誰出るの?」

「人気俳優だって、誰かはまだ決まってないみたい。」

「そっかーでも楽しみ!じゃあ応募しておくね。」

 私はよく友達とテレビの観覧に応募する。観覧に参加しては、一際大きな拍手を送り、場を盛り上げる。テレビに参加することで自分の存在価値を高めたいのかもしれない。好きな芸能人はコロコロ変わる、私はミーハーなのだ。  


 二

 

 帰ってきてテレビを見た。帰ってきたら、お母さんが夕飯を置いておいてくれていたので、一人で食べた。この前収録した番組が映っている。この時は、少し気になってた芸能人が出演していて緊張したなー。大きな機材を運んだりして汗だくになって仕事して、カンペ出しもタイミングとか司会の人と息が合うかとか考えたりして、当たり前だけど、自分の仕事に専念していて、全然見れなかったのが残念だ。芸人さんならそんなに緊張しないのにな、と思いながらシャワーを浴びて、ビールを飲んだ。今日もよく働いた。


 部屋で飲んでるとドアが開いてお姉ちゃんが入ってきた。

「知華、早く寝なさいよ。」

「お姉ちゃん、一緒に飲もうよ。」私はすでに出来上がっていた。

「何時だと思ってんのよ。明日も早いんでしょ?」

「うん。お姉ちゃん彼氏とうまくいってんの?」

「なによ、急に。」

「いや、私もう2年も彼氏いないからさ、どうやったらお姉ちゃんみたく長くお付き合いできるのかなと思ってさ。」

「うーん、お互いあんまり干渉しないからかな。」

「そっか、自由が一番だもんね。」

「うん、縛っちゃうと、離れたくなるもんだからね。それよか早く寝なさいよ。」

「は〜い。」

 私はいつも束縛してしまう。相手の全てを知りたくなって、今何をしてるのか、何を思ってるのか気になって全部聞いてしまう。それで喧嘩になることがよくあったが、ハマってしまうと周りが見えなくなってしまうのだ。


 三


 ニコニコテレビの観覧の日になった。私はいつもより派手なメイクをして、お気に入りのスカートに花柄のネックレスをして出かけた。今日は晴れてる。いつもより気分が良く、爽快な朝だ。気持ちも明るくなって、なんでもできそうな気がする。テレビ局につくと、ニコニコテレビのテーマソングが流れていた。わたしは真梨と一緒に観覧者の列に並んだ。

「知華、今日の出演者の人気俳優って、幾島颯斗らしいよ。」

「本当⁉︎私、最近好きなんだよね。今やってるドラマも見てるし、イケメンだし、カッコいいよね〜。」

「間近で見られるね、顔の細部まで見えちゃうよ。ニキビとかあるのかな。」

「いや〜まじまじと見て目合っちゃったらどうしよう〜好きになっちゃう。」

「知華ってば本当熱しやすいよね。」

「あはは、熱しやすく冷めやすい。長所でもあり、欠点でもある。」


 ニコニコテレビが始まり、幾島颯斗が出ると、私の胸は高鳴った。ネットでは幾島颯斗はナルシストだとか、女癖が悪いだとか、何が本当の情報なのかわからないが、本物の芸能人がここにいる。私は同じ場所で息をしているのが嬉しかった。 

「幾島さんは幼い頃にお父様を亡くされて、一家の大黒柱として家族を支え、下積みを経て、人気俳優の地位まで上り詰めたわけですが、どうしてそこまで頑張れたのだと思われますか?」

「はい。僕は父が亡くなったことで父がいない喪失感と向き合うことになり、今までの自分を捨て、家族のために生きようと決めました。家族が嬉しいと自分も幸せなので、お金の面もそうですが、自分が家族を支えることで自分の生きる意味を見出したかったのだと思います。そこが僕の原動力になりました。」

「素晴らしいですね。家族の存在が今の幾島さんを作ったんですね。」

「はい。」

「幾島さんは下積み時代の苦労なんかはありますか?」

「そうですね、エキストラの時は主演俳優の人が羨ましくてしょうがなかったです。エキストラでも目立とうとしたら、そこの男の子邪魔って言われて落ち込んだこともありましたし、自分ってなんなんだろうって自問自答の日々でした。」

「そんなご苦労があったんですね。今の幾島さんからは考えられないです。」

「そんな僕を救ってくれたのはやっぱり人でした。出演者の皆さんが悩みを聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたりして、自分の力になり、頑張る勇気をくれました。」


 四

 

「知華、幾島颯斗なんかすごい人だったね。」

「うん、若いのに自分持ってて偉いよね。性格もカッコいいなんて反則だよね。」

「また観覧募集あったら、一緒に行こうね。」

「行こう行こう、リサーチしとくわ。」

 私はテレビ局のバイトが午後から入っていたので、そのまま残った。出演者の控え室を通り過ぎて、給湯室で水筒に水を入れて、現場に行こうとした時に、幾島颯斗が前からこちらに向かって歩いてきた。私は話しかけたい衝動に駆られ、感情に突き動かされるように行動に移した。

「あの!」

幾島颯斗がこちらを向き怪訝な顔をした。

「私、幾島さんの大ファンで、さっきニコニコテレビの観覧してました。サインもらえませんか。」

「…いいですよ。」

 私はバックからペンと手帳を出し、彼に渡した。

  











 




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