2‐3
「おい律子、手出せや」
「な、何……?」
唐突な指図に面食らいつつ、その勢いには逆らえなくて、右手にパンを持ったまま、どぎまぎしながら左手を差し出した。
そんな私の胸中を慮るそぶりもなく、北上くんは躊躇うことなくその手をとる。そして、はらりと拾い上げるように薬指を選んでつまむのだった。
「ちょ、ちょっと……本当に、何なの……!?」
心構えもなしに触れた指から感じる体温に、図らずも胸が高鳴る。そればかりか、その一瞬で身体まで熱くなる自分がいた。
それを悟られたくなくて、出した手を引っ込めようとするけれども、北上くんは許さない。
私の薬指をなぞるように触れながら伸ばしたかと思うと、先ほどまで細く作り上げていた棒状のアルミホイルを、おもむろにその根元へ巻きつける。
余分な部分を手で切って端と端をねじってくっつけると、私の薬指にはごつごつと乱反射する銀色が差した。
すると、今度は私の手首を持って、その銀色含めた手全体をあらゆる角度から覗き込み、最終的には満足したように頷く北上くん。
「――――まあ、これなら遠目から見たら指輪みたいなもんだろ」
「そ……そんなわけないでしょ!」
危うく場の空気に流されて、「確かにこれだけ細くねじっていたら、シルバーのリングに見えなくもないかもしれない」などと、とんちんかんなことを一瞬でも考えた自分に腹が立つ。アルミホイルはアルミホイルだ。しかも、元はおにぎりを包んでいたやつ。
北上くんはというと、自分の目的を達成して満たされたからなのか、その後は何食わぬ顔でお弁当のおかずを食べ始めていた。私のリアクションを気にする様子もない。一事が万事、彼は自分のペースで物を言い、行動しがちなのだ。
「もう。こんなの渡されても困るんだってば……」
如何ともしがたい気持ちが募り、負け惜しみのように私は口にして、環状のアルミホイルを指から外した。
でも、握り潰すことはできない。
捨てるに捨てられないんだから、と呟いたのは心のなかだけ。
その胸中に気づかれると体裁が悪いと思い、私は、彼の目を盗むように小さな銀色のそれを制服のポケットにしまい込んだのだった。