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2‐2

 口を開くと癖のすごい物言いで度々人を困惑させる北上くんだけれども、顔立ちが非常に良い。中性的な相貌でありながら全体としては力強い印象が、特撮ヒーロー系の俳優のようだと思っている。そんな彼の外見は、他の多くの生徒の間でも「イケメン」「芸能人みたい」と高く評価されているくらいだ。

 他の人では今一つ間抜けに見えるような所作でも、北上くんがするとつい惹きつけられてしまう。今も、貼りついた海苔を取り除くために下唇を親指でなぞる(さま)が妙に色気があるなあとか考えてしまい、無性に悔しくなる。


 北上くんは、ずるい。

 無茶苦茶なことを言って私を呆れさせたかと思うと、ちょっとした振る舞いで私を引き込むようなことをする。だから、彼の傍にいると気持ちが休まらない。なのに本人は、その自覚がまるでない。

本当にずるい。


 私が暫く目を逸らしていた間におにぎりを食べ終えていた北上くんは、二つ目に手をつけるより先に、空になったアルミホイルの包みを破いて弄び始めていた。


「悪いな、律子。俺が公務員だったら指輪買う程度の金はあっただろうにな」


 小さくちぎったアルミホイルを所在なさげに潰しながら、彼のわけの分からない話がまた始まる。


「早けりゃ二、三年後……まあ大学行ったら五、六年後になるか? それまで待てるなら予約してくれてもいいけど」


 北上くんは割とお金勘定にこだわる。というのも、彼のお家は両親が飲食店を経営している。今でこそお店の状況が安定しているが、昔は経営が危うかった時期もあったとのこと。なおかつ彼は四人きょうだいの長男で、そういった家庭環境の余波を受けてしんどい思いをしたという経験から、本人曰くお金関係の苦労には人一倍敏感になったのだという。

 だから北上くんは、今の時点から頑なに公務員を志望している。高校卒業後すぐに就職するのか、大学に進学した上で就職するのかというところでは悩んでいるけれども、最終的な目標は彼のなかで決まっているみたい。

 ちなみに実家の飲食店に関しては、絶対に継ぎたくないと拒否的な北上くんだ。でもその代わりに、彼の妹弟の誰かが継いだ時に備えて、何かあったらいつでも金銭的援助ができるような蓄えは確保しておくつもりではいるみたい。本人曰く「金は出すが口は出さない兄でありたいんだ、俺は」とのこと。でも、恐らく彼のことだから、口も出すと思う。

 という背景があるのはさておいて、今この場においては、お金の話を持ち出されると私の意図するところからはより遠ざかってしまう。


「そういう話をしてるんじゃないよ。指輪を買って欲しいとは言ってない」

「はあ? じゃあ何でそんな話したんだよ。羨ましいんじゃねえのかよ」

「指輪は羨ましいけど、指輪が欲しいわけじゃない」


 言葉にすると、自分でもだいぶとっ散らかったことを言っていると、改めて思う。

 北上くんは「わけの分かんねえ奴だな」と言ったのち、苛立ったような舌打ちをしながらアルミホイルをねじっていた。

 何となく会話が途切れ、私が再びパンを食べ始めても、彼はその手を止めることはなかった。潰しながらひねって形作られるアルミホイルがどんどん細くなり、短い一本の棒になったところで、「こんなもんか」と彼は言って切り上げる。


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