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2‐1



 時折私は、自分が所属する漫画研究部――漫研部の部室で昼休みを過ごすことがある。

 大体の生徒は教室か学食で昼食をとるけれども、一部の人やグループは、自分の所属する部室や出入り自由の空き教室を使用していたりする。そのことに関して先生達にはあまり良い顔もされていないけれども、厳しく禁止もされていない。よって、“良識の範囲内で黙認”という解釈が何となく生徒達の間で了解されている。

 漫研部の部室は一般教室棟とは離れた校舎にあって、建物自体に人の出入りがほとんどない昼休みは、本当に静かな空間になる。静かに落ち着きたい時や作業がしたい時、少人数で喋りたい時などの昼休みに、私も他の部員達も部室を使ったりする。

 それで、今日はどうしても喋りたいことができてしまったので、私は午前の授業が終わると、とある人物を誘って部室へ向かったのだった。


「――――はあ? 何だお前、指輪なんか羨ましがってんのかよ」


 長机を二つ合わせた作業スペースの一角を借り、互いに直角になる位置取りで隣り合う。

 今朝の一連の出来事を話すと、彼――北上(きたかみ)稔貴(としき)くんは鼻で笑った。そんなことよりも昼食が大事と言わんばかりに、私の目を見ることもなく、持参したおにぎりを食べ続けている。


「指輪が羨ましいっていうか、指輪がもらえる関係が羨ましいっていうか……もう。分かるでしょ」

「いや、全然分からん」


 ここまで言ったら察して欲しいところだけれども、北上くんに求めるのは無理だということも、経験上承知している。そして、この件に関しては私がいつまでも踏み出せないのも悪いと分かっているので、彼を責めることもできない。

 渋々引き下がって、私も購買で買ってきたメロンパンの袋を開けて食べ始める。今朝はお母さんが忙しかったので、お弁当の代わりに持たされた昼食代で買ったものだ。

 それを見た北上くんは、「菓子パンは飯じゃねえ」とか「そんなもん食うんだったら俺が弁当作ってやる」とか、私の食生活に苦言を呈してきた。

 彼は常にこんな感じだ。自分が納得できないことや気に入らないこと、理解できないことに対して、文句を言わずにいられない。しかも口調が非常にぶっきらぼうなので、周囲からは柄が悪い人物として誤解されがちだ。

 その文句は、先ほどまで話していたリングの件に戻って及ぶ。


「大体ペアリングって、あの細い指輪だろ。あんな地味なの、着けてるんだか着けてないんだか分かんねえだろ」

「大きいものや派手なものこそが至高という考え方は、ちょっと品が良くないと思う」


 北上くんの言動は基本的にがさつだ。そんな彼だから、華奢で目立たないリングに込められた意味など、汲み取ることもままならないだろう。

 そりゃ価値観は人それぞれだ。とはいえ、時々もう少しこちらに寄り添ってくれてもいいのにと感じることがある。

 北上くんと私は、クラスこそ違うけれども、同じ部活に所属している。出会ったのは二年生になってからなのでまだ一年も経っていない。そんななか、何かとトラブルを起こしがちな彼のフォローをしているうちに行動を共にする機会が多くなって、今に至る。


「あんな指輪で良いなら、針金でも指に巻いてろっつーの」

「流石にそれはすっとこどっこいだよ!」


唯我独尊。思い込みやこだわりが激しくて、おかしな主張を常習的に繰り返す北上くんだ。私の抗議も意に介さず、一つ目のおにぎりを食べ終えた口を指で拭っている。その仕草に、不覚にも目を奪われている自分に気づいた私は、きまり悪くなって下を向く。


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