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午前の授業が終わると、私の席の周りに昼食持参で百華ちゃんと珠里ちゃんが集まってくるのが、ここ数日の流れである。けれども、今となっては百華ちゃんに対して依然として気まずく感じるのが、私の正直な気持ちだった。
ただ、彼女が私に対して何かしたわけでもなければ、自分自身が何に対して居心地の悪さを覚えているのかも不明瞭で、その輪郭のぼやけた感情が判断を鈍らせる。
だから、昨日の昼休みの時点で、もやもやする胸の内を隠して昼食の席を共にしていた。そして、今日も明日も、恐らくその先もずっと怠惰な嘘を自分につき続けるのだろうと、漫然と構えている。
そんなさなか。
また昼休みがやってきて、いつもの成り行きのなか、百華ちゃんと私は昼食を始めていた。私は自席で、百華ちゃんはその前の席の生徒の椅子を借りて、一つの机を共有する形をとる。
昨日北上くんに宣言した手前、今日は私もお弁当を持ってきた。といっても、昨日の夕食だった焼きそばの残りをフードコンテナに移し替えただけなのだけど。先日のお弁当差し入れドッキリがあってからというもの、何の危機感を覚えたのかお母さんに「あんたも自分で弁当くらい作ったら?」と急な自立を促される羽目になったのだ。けれども、朝の短時間のなか自分でできる限界がこれだった。
目の前の百華ちゃんが食べるSNS映え必至の可愛いお弁当とちらちら見比べつつ、茶色いソースの絡んだしなびた麺を箸でつまむ。
雑多な感情は片づかないけれども、お喋りをしていると幾分楽だった。午後の授業の課題が終わっているとかいないとか、新作のコスメやスイーツが気になるとかならないとか、他愛のない話題は私の気を上手い具合に逸らしてくれる。
そこへ、授業終了後に一端教室を出ていた珠里ちゃんが戻ってきて、既に昼食を半分ほど食べていた私達のもとへ合流する。
「あ、珠里ちゃんごめん。先に食べちゃってたよ」
「――――うん」
箸を止めて私は軽く謝ったのだけれども、珠里ちゃんはこちらを見ない。ふと彼女の手元を見ると、手ぶらであることに気づき、状況がいつもと違うことを察する。
「珠里ちゃん……?」
「――――ごめん」
名前を呼んで返ってきた返事が、これ。
何に対して謝ったのだろう、と首を傾げるより先に、言葉の続きがある。
「悪いけど……やっぱり私、百華とは一緒にいられない」
「どういうこと……?」
突然の宣言に動揺する私の向かいでは、百華ちゃんが目を見開いてきょとんとしていた。
珠里ちゃんは、切羽詰まった視線でそんな彼女を睨みつけていた。
「一体何のつもりなの、百華」
私の問いかけには答えず、百華ちゃんを問いただす珠里ちゃん。表情も声も、余裕が失われていることが明らかだった。
「何のつもりで北上に近づいているの」
「えっ……?」
声を上げたのは尋ねられた百華ちゃん本人ではなく、私だ。唐突に挙がった北上くんの名前と、それを引き合いに出した珠里ちゃんの含意が汲み取れないことに、戸惑ったのだ。
「――――何が言いたいの」
百華ちゃんはというと、意外なほど落ち着いていて、いつものふんわりとした口調のまま聞き返している。




