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4-4


 ごみは撤去したけれども、外履きのローファーは消えたままだ。

 私達はそれから昇降口付近や、校内の思い当たる場所をひと通り回って探したけれども、結局見つかることはなかった。外へ持ち出されてしまった可能性を考えると、腹立たしいけれども、これ以上打つ手はなさそう。

 空の色は更に濃くなっている。校内に残っている生徒は一部の運動部くらいだろう。窓から見える校舎の明かりも殆ど消えている。

 何より寒い。玄関では扉が開閉される度に下がった外気温を風で感じる。


「ごめんね……律子ちゃん。北上くんも。遅くまで……」


 何だかんだで八時近くになっていた。ひとまず、親にはラインで帰りが遅くなることを連絡しておく。


「だから最初から上履きで帰れって、俺は言ったんだ」


 探している最中から北上くんは投げやりで、どうせ見つからないからと、諦めて上履きで帰る案を強く主張していた。

 最終的な手段としては致し方ないだろうけれども、百華ちゃんは電車通学だ。学校の上履きのまま電車に乗って長距離移動することを考えると、それはあまり気の進まない案だ。

 北上くんには先に帰っても良いと予め伝えたのだが、「じゃあ誰が律子のことを送るんだよ」と実直なことを言って、彼はこの時間まで靴を探す私に付き合って残った。ありがたい反面、いたたまれない。

 百華ちゃんに関しても、散々探し回った挙句に見つからなかった徒労感に加え、何者かから恨みを買っていることを危惧した不安を滲ませ、しょんぼりした顔をしている。

 そんな彼女に、安易な励ましの言葉は到底かけられそうもなかった。

 ただ、何か言わねばというそわそわする思いも抑えられず、私は苦肉の策を提案する。


「あ……あのね、百華ちゃん。もし嫌じゃなかったらだけど、私のローファー貸そうか?」


 百華ちゃんは驚いた顔でこちらを見た。


「ほら、百華ちゃんはこれから電車に乗るわけじゃん。それだとやっぱり、上履きで帰るのは抵抗あるかなって」

「ローファーを貸したとして、お前は何履いて帰るんだよ」

「私は……上履き? どうせ暗い道で遠目からならばれないかなって」


 しかも当方、家までは自転車を漕いで帰るので、通りすがりの人に足元を注目される可能性は極めて低いだろう。

 北上くんは呆れた顔をしていた。無理もない。私自身も、馬鹿な提案をしていると思う。百華ちゃんにとっても、他人の靴を履くくらいなら自分の上履きを履いて帰る方がまだましなのでは、とさえ思う。

 それでも、傷ついたクラスメイトのために何か役に立ちたいという同情心が、私を動かす。それは結局、何もできない自分でいたくないというエゴに過ぎないことも、一応自覚はしている。


「嫌とかではないけど……流石に申し訳ないよ」


 百華ちゃんが戸惑いながら難色を示すので、私は「申し訳なくないよ。全然大丈夫だから」と駄目を押すように言った。勧めれば勧めるほど気を遣わせてしまうとは承知だけれども、引くに引けなかったのだ。

 そこで、私達のやりとりを暫く見ていた北上くんが、ふん、と鼻を鳴らした後、百華ちゃんへと向き直る。


「――――しょうがねえな。俺からも頼む。律子がどうしても上履きで帰りてえって言うから、ローファー借りてやってくれや、嫌だろうけど」


 酷い毒舌ぶりだけれども、これは恐らく彼なりのフォローだ。百華ちゃんが私に対して遠慮する必要はない、ということを伝えたいのだろう。だいぶニュアンスはねじ曲げられているが。

 百華ちゃんは依然として困った顔をしていた。

けれども、北上くんの有無を言わせぬ援護が決め手になって、彼女はやがて頷き、私の押し売りじみたお節介を受け取るに至ったのだった。



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