めにぅぜろさん
ねぇ、めにぅぜろさんってきいたことある?
突然ね、夜、スマホが鳴るんだって。
みると、電話がかかってきているの。
電話番号は、自分の番号が表示されているの。
おかしいなって、
スマホを手に取ると電話がつながるの。
そう、通話ボタンを押さなくてもつながるの。
画面には444って数字がでて、
それは1秒ごとに減っていく。
それから、
「もぅ、いいかい」
って、聞こえるらしいの。
らしいっていうのは、
後ろの音が大きすぎてきこえにくいから。
新宿の交差点かってぐらいうるさいみたいよ。
あ、うん、それでね、
電話は切ったり、電源オフにしたりもできなくて
繋がっている限り、ずっと、
もぅ いいかい、もぅ いいかいって
繰り返すんだよ。
あ、よくわかったね、そう、
『かくれんぼ』みたいでしょ?
だからね、時間以内に
隠れなきゃいけないんだって。
無視したり、隠れなかったりすると、
めにぅぜろさんにみつかっちゃうの。
隠れるときにルールがあってね、
1 階段をつかってはいけない
2 扉が3つ以上ある部屋に隠れてはいけない
3 窓が1つもない部屋に隠れてはいけない
以上、3つ。
カウントが0になったら、
めにぅぜろさんが探しにくる。
まずは窓の外から、次は、扉を開けて入ってくる。
めにぅぜろさんはひどい臭いがするんだって。
だけど、声を、出しちゃだめ、
みつかっちゃうから。
めにぅぜろさんが部屋に入ってきたら
声に出さず、44秒数えてね。
44秒すぎたら、
「私の勝ちですめにぅぜろさん」って
いって、隠れていたところから出ていくの。
その時めにぅぜろさんの姿は見ちゃだめ。
目が腐るから。
めにぅぜろさんはさっき言ったように、
めちゃくちゃ臭いんだ。
だから、いるかどうかは臭いでわかるから。
臭いがなくなったら、目を開けていい。
そして、
「めにぅぜろさんを知らない人に
この話をしないといけないの」
4人に、といいながら、マホは指で4をつくる。
「馬鹿なの?高校生にもなって、怪談?」
「ひどいー、馬鹿じゃないもん」
「で、マホはめにぅぜろさんに会ったわけ?」
「マホは会ってないよ、
彼氏の友達の友達の話だから、本当だよ!
マホが心配だから教えてくれたの」
「お似合いだよ、ベストカップル」
褒めたわけではないのに、
マホは嬉しそうに手を叩く。
本当に馬鹿だ。
だけどいい子なのは間違いない。
「でね、マホは、
サエちゃんが心配だから教えたの。
これで、めにぅぜろさんが来ても大丈夫だね」
「はいはい、ありがと」
お礼を言うとマホはスマホをしまった。
こんなに文章読んだの久しぶりだー
とか言っている。
この馬鹿かわいい、
友達を少しからかいたくなった。
「ねぇ、めにぅぜろさんにみつかるとどうなるの?」
ガランコロン、ガランコロン、下駄が鳴る。
スーツに下駄を身に着けた長身の女が
街灯の下を早足に抜ける。
「あぁ、面倒くさい、面倒くさい」
半分だけ長い髪を振り乱し、
女は下駄を、うるさく鳴らし不機嫌そうに呟く。
「多少知恵のついた
子供にかかるとこうして
めんどくさいことになる。
怖い、恐いといいながら、
なぜ情報を補強するのか」
女の携帯電話が鳴る。
女は即座に携帯を地面に叩きつけ、
下駄で踏み砕く。
「伝染、速度も早すぎる」
粉々になった携帯の破片を丁寧にすべて拾い、
胸の内ポケットから取り出した風呂敷に包む。
「ルールが多すぎて面倒くさい。
妙なリアリティがあってより面倒だ」
また、女の携帯電話が鳴る。
複数所持しているようだ。
鳴っている携帯電話をまた地面に
叩きつけようとして…やめた。
「あぁ、そうか」
私も友達の友達からきいたんだけどね、
めにぅぜろさんって、しっている?
そう、かくれんぼ電話の、
あれね、ルールとかあったけどね、
もっといい方法があったんだって。
それはね、
電話がかかってきたら
「おかけになった電話番号への通話は、
おつなぎできません」
って、言えばいいんだって。
そうそう、着拒の音声。
めにぅぜろさんは着拒されているって思って、
悲しくなって、2度とかけてこないんだって。
ほら、めにぅぜろさんって、変な臭いするし、
ルールも多くて面倒くさいから、
自覚あるんだよ、嫌われてるっていう。
それでね、ここからが大切なんだけどね、
間違っても、現在使われておりませんって、
言っちゃ駄目だよ?
そう言うと、めにぅぜろさんはね……