ドケチの異世界セカンドライフ〜剣だ? 弓矢だ? バカヤロウ高けぇじゃねぇか!! 石でいいだろうが、石で!!〜
一応短編のつもりで書きました。
お楽しみください。
カーンカーンカカカーンッ!!――――
厳戒態勢の王都“クォン・ソォーメ”に半鐘の音が鳴り響く。城壁の上を兵士の怒号が飛び交い、すぐに司令部の在るこの謁見の間に報告が届けられた。
「き、来ました! 暴龍グラトニーが王都最近郊のノーリ・シウォ砦を攻撃中ですッ!!」
“暴龍グラトニー”とは、この“チップス王国”を恐怖に陥れている災厄の名前。一千年以上の時を生きる、過去に勇者によって封印されし邪龍――ドラゴンの呼称名だ。
「やはり来たか……! 伝説では彼の邪龍は財宝を好み、数々の城を落としては宝物庫の中身を総て奪い去って行ったとある。無論、その城のみならず、都市の全ての生命を根絶やしにしてな。どうせ奪われる財貨ならと国宝と同じだけの報奨金を約束したが……本当に勝てるのだろうな?」
「くどいぞポーティ・トゥオ・チップス14世サマ。そもそも俺の都合も関係無しに勝手に召喚したのはそちらだろう。しかも帰れないときたモンだ。日本で貯めに貯めた俺の財産が無になり、手持ちの金もただの紙屑になったんだ。そのくらいの謝礼なんぞ当然だろうが」
「む、むぅ……!」
「そして愚問だ。俺にとっては金が総て。金を貯めまくり、時々豪勢に散財する。その唯一の楽しみのためだったら俺は何だってする。たとえ伝説の邪龍が相手だろうとな」
遥か遠く、肉眼では見えない遠くの砦の方角を見据えながら、俺はこの国の王に返答する。側近だろう白髪の爺さんがこめかみに青筋を立てているが、知ったことか。
俺の名は金岳覚羅。24歳で独身の日本人だ。
両親は俺が中学の頃に騙されて借金の連帯保証人になり、借金苦から追い詰められて心中した。俺も巻き込まれたんだが幸か不幸か助かった。
それから俺は施設に保護され、中学を卒業すると共に就職して我武者羅に働いてきた。普通の同年代の奴らが高校生活やら青春やらをエンジョイしている間にも汗を流し、二度と金には困るまいと必死に貯蓄を増やしてきた。
20歳で個人事業主として運送業で独立し、中古で買った軽のワゴン一杯に荷物を運んで走り回った。自分の誕生日と両親の命日に贅沢をするくらいで、それ以外では清貧を心掛け、徹底的に節約して貯金してきた。
それなのにだ。
「お主には申し訳ない事をした。だが我が国が存亡の危機に瀕し、最早伝説にある“勇者召喚の儀”しか打てる手立てが無かったのだ。我が国の民のため、どうか力を貸してほしい」
「だから謝礼を寄越せば協力すると言っただろう。それで、頼んでおいた奴らは揃ってるのか?」
「う、うむ。宮廷魔導士団の中でも特に優秀な“支援魔法使い”と、“投石機”であったな。既に――――」
「違う。支援魔法使いは合っているが投石機じゃない。投石機に使用する“石”を大量に用意しろと言ったんだ」
「そ、そうであったな。無論、弾となる石も大量に用意してある。魔導士もそちらに待機しておるはずだ」
「そうか。それなら早速作戦を共有してこよう。案内人を付けてくれ」
「良かろう。近衛よ、案内せよ」
チップス王の命令で近衛騎士の一人――女性だな――が、俺を先導し歩き始める。兜を脇に抱え、襟足で結んだ水色の長い髪が俺の前で左右に揺れ続ける。
本当に異世界なんだな……と、思わずそんな感想を抱いてしまう。
そう、異世界なのだここは。
奇しくも俺の24歳の誕生日に、お気に入りのお高い料理屋で美味い酒と飯を楽しもうとアパートを出た矢先、魔法陣――というのだろうな――に囲まれてこのチップス王国の城に召喚されたのだ。
これが従業員が話していた“異世界転移”なんだろうな……などと呑気な事を考えながら、玉座に座るチップス王から懇々と長ったらしい説明を受けた。
「なあ、近衛騎士さん」
「……なんだ」
俺の案内役を仰せつかった近衛騎士の女性は、不機嫌そうに返事を返してくる。まあ主たる国王に堂々とタメ口利いてたんじゃあ、仕える騎士としては憤懣やるかたないだろうな。
「ステータスは、さっき聞いた見方で総ての情報が観られるんだよな? 隠れている部分なんかは無いだろうな?」
「……スキル【鑑定】で他人を観るのであれば、技量の差で表示されない部分もある。だが自身のステータスであれば総ての情報が表示される」
なるほど。まるで中学の頃に流行っていたRPGだな。
“ステータス”と小声で呟くと、俺の頭の中に俺の情報が浮かび上がる。コレを観て作戦を決めたんだよなぁ。
「着いたぞ。最早貴様の不敬はとやかく言わんが、大見得を切っただけの働きはすることだ。さもなくばたとえ王陛下がお許しになっても、この私が何処までも追って貴様を斬り捨てるからな」
「勝手なことを……。お前らがドラゴンを倒してくれと喚んだんだろうが。俺からも警告する。邪魔だけはするなよ?」
「……ふんっ」
案内人の女近衛騎士は鼻を鳴らし、俺から顔を背ける。そのまま肩を怒らせて先へ行き、一人の女性――随分と露出の多い服装だな――と言葉を交わし始める。
話し相手の女性は艶のある金色の長髪を耳に掛けて、俺のことを興味深そうに眺め始めた。そして。
「初めまして、異世界より召喚されし勇者様?」
そう言って好奇心をアリアリと顔に浮かべながら、俺に近付いて来たのだった。
どうでもいいが、その露出過多な服装はどうにかならないのか? 大きな形の良い胸が零れ出そうだぞ……?
◇
「来たわ。アレが暴龍グラトニー……!」
「漆黒の鱗に禍々しい程の魔力……。正しく伝説の通りの威容だな……!」
本当にドラゴンだな。良く見る西洋風の、翼を広げ空を飛ぶあのドラゴンだ。
王都クォン・ソォーメを背にして布陣する十万以上の大軍を更に背にして、俺は文字通りの最前線の荒野に立っていた。共に居るのは先程俺を案内してくれた近衛騎士ローズ・メイシスと、チップス王に招聘してもらった宮廷魔導士のガーベラ・サイフォンの二人だけだ。
ちなみにその二人は、俺の背後に掘った穴の中に控えている。まあ、塹壕のようなものだな。
「パッと見10メートルくらいか。何を食べたらあんなにデカく育つんだか」
「おい貴様、何を呑気なことを言っている! 分かっているのか!? これは国家存亡の危機なのだぞ!?」
「だから後方に王国軍が控えてるんだろうが。分かりきった事を言うんじゃねえよ」
いい加減この女騎士に気を使うのも面倒になったので、完全に素で対応する。ていうかなんでついて来たんだ? 監視役のつもりかよ?
「ま、まあまあ二人とも。それより、あの速度ならもうあと二、三分で到達するわよ?」
「それもそうだな。ガーベラさん、時間が勿体ないから頼んだ“支援魔法”を掛けてくれ。できるだけ強力に、長続きするようにな」
「分かったわ。――――【肉体強化・強】。――――【貫通強化・強】。――――【命中強化・強】。」
……これが魔法の効果ってやつか。全身に力が漲ってくるのを実感する。なんだったら、日本で受けた人間ドックの時視力2.0だったのが2.5くらいに上がったようにすら感じる。
「スキルの行使は頭の中で念じるだけで良いんだよな?」
「ええ、そうよ。少し試してみたらどうかしら?」
それもそうだな。
俺は支援魔法を掛けてくれたガーベラの助言通りに、頭の中でスキル【角度計算】を行使するように念じる。そして足元に落ちていた小石を拾い上げて女騎士……ローズに顔を向ける。
「ローズ……さん。何か的になる物を掲げてくれ」
「なんだ突然……。この剣でどうだ?」
「そんな高価そうな物壊したら勿体ないじゃねぇか。そこらに落ちてるモンで良いから、何か小さな的だ」
「……壊れるわけがなかろうに。ミスリルの剣だぞ……」
ぶつくさと文句を言いながらも、ローズは俺と同じように小石を拾い上げて指先で摘んで見せた。
「コレで良かろう。間違っても私に当てるなよ?」
「大丈夫だ。スキルのおかげなんだろうが、外す気が全くしない」
俺は手の中の小石に意識を集中し、ローズが身体から離して摘み上げている小石に当てるイメージを膨らませる。そして更に【投擲】スキルを行使。全力で振りかぶって小石を投げ放った。
パシュンッ――――
そんな気の抜けるような音がしたと思えば、ローズの指先に在ったはずの小石は無くなっており、それどころかその後方にある投石機用の大岩にはポッカリと、丁度先程投げた小石と同じ大きさの穴が空いていた。
「これは……想像以上だな」
「う、うわぁ……! か、カグラさん……、カグラさんのレベルと筋力のステータスって、幾つなんですか……?」
「うん? レベルは“50”って表示されてるぞ? 筋力は……“A+”の横に括弧書きで“(強化中)”とあるな。高いのか低いのか知らんけど」
「れ、レベル50で“A+”だとッ!? おい、嘘じゃないだろうなッ!?」
「なんだよローズ……さん。嘘言っても得なんぞ無いだろうが。そんなことより、来たぞ……っ!」
少し悠長に喋り過ぎていたみたいだ。気付けばドラゴン……暴龍グラトニーはその姿がハッキリと観える距離まで近付いて来ていた。
俺はローズとガーベラを穴の中に引っ込ませて、暴龍グラトニーに身体を向ける。
――――ゴルルルァアアアアアーーーーーーッッ!!!
俺……いや俺達の存在に気付いたのか、奴は鼓膜に痛みが走るほどの大音声で咆哮を上げ、その鋭い真紅の瞳でこちらを見据えてくる。
正直ライオンや虎なんぞ目じゃないほどの――とは言っても動物園で観ただけだが――威圧感を感じていたが、不思議と俺の内心は凪いでいて、脈打つ自身の心臓の音がやけに大きく、全身で感じ取れた。
俺は即座に足元に在った人間の頭ほどの大きさの石を拾い上げ、先程有効化したスキル【角度計算】とガーネットが掛けてくれた【肉体強化・強】の魔法に身を任せて、流れるように【投擲】した。
――――グゴァアアアアアアアッッ!!??
狙いは寸分違わず、絶叫を上げた暴龍グラトニーは鼻先を押さえて空中でのた打つ。その前足? 手指? の間からは、ボタボタと紫色の体液が溢れ落ちている。
そう。俺は頭ほどの石を【投擲】し、【角度計算】によって導かれた正確無比なコースを辿って奴の鼻の中に投げ込んでやったのだ。筋力マシマシで。
「良し、怯んでるな。ドラゴンの障壁がどうのと言っていたが、目論見通り鼻の穴の中にまでは張られてなかったようだな。【貫通強化】の魔法も良く効いているみたいだ」
「だ、だからってただの石で……!?」
「なんだ!? 何が起きた!?」
外野が喧しいが、奴が集中を乱している今が好機だ。
俺は続けて投石機用の巨大な石――最早岩だろう、これは――に手を掛け、強化された肉体を以て持ち上げた。
「……理屈の上では持ち上げられるとは思っていたが、普段運搬している荷物とは訳が違うだろうに……」
まるで小柄な女性を抱き上げたくらいの重みしか感じない巨大な石を、再びスキル【投擲】とスキル【角度計算】に従って全力でドラゴンに投げ付ける。狙いは翼の付け根だ。
チップス王や魔導士であるガーベラに確認したところ、ドラゴンは鳥のように翼で揚力を得たり羽ばたいて浮力を得ている訳ではなく、地球には無かった“魔力”を行使して魔法で浮力や推進力を得ているそうだ。そして体表には常に魔法で障壁を張っているとのこと。
魔法の行使には安定した精神が必要不可欠らしく、精神的に乱れ集中が阻害されると、その魔法の強度は著しく下がるという。
ならば文字通り出鼻を挫いて集中を乱してやれば――――
――――グギャォオオオオオオオオッッ!!??
恐らく投石機から撃ち出すよりも数倍速かっただろう巨大な石は、【貫通強化】の魔法の恩恵も有ったためか片方の翼の付け根を完全に撃ち貫いていた。
「すごい……!」
「落ちるぞ、今が好機だ!! ……うん? き、貴様、武器はどうしたッ!?」
「武器なんぞ要らん。いや……こんなにゴロゴロしてるじゃないか」
「「……は?」」
「剣や弓矢なんぞ、購入費も維持費も修理費も勿体ない。そもそも持った事すらねぇモンに命を預けられる訳がねぇだろうが。だったら石で充分だ!」
俺はチップス王に用意させていた大量の投石機用の石の中から、再び一つを持ち上げて【投擲】する。
投げ放った俺の武器は矢のように空気を引き裂き、ドラゴンのもう片方の翼も根元から撃ち貫く。
暴龍グラトニーは碌に痛みを感じた事が無かったんだろう。絶叫を上げて、地面に自らが落ちて空けた穴の中でもんどり打って苦しんでいる。
「【肉体強化】様様だな。ありがとな、ガーベラ」
「え……? は、はい……?」
いきなり礼を言われて面食らっているガーベラとその他一名を残し、俺はもう一つ巨大石を担ぎ上げて、普段とは比べ物にならないほど軽い身体で荒野を疾走する。
暴龍グラトニーの暴れる姿がみるみる内に大きくなり、俺は全力で跳躍する。
「たとえドラゴンだろうが、流石に頭は急所だろッ!!」
己を鼓舞して吼え、スキル【角度計算】によって最適なコースとタイミングを測る。そして片手で叩き付けるようにタイミングを調節したスキル【投擲】によって、俺は巨大な石でドラゴンの眉間を殴り付けた。
ゴシャァアアッッ!!!――――
手に硬いモノの潰れた感触が伝わってきた。
それは俺が叩き付けた巨大石が砕けた感触なのか、それとも暴龍グラトニーの頭骨が潰れた感触なのか。
俺が巻き起こした轟音と砂煙の去った跡には、巨大石が叩き付けられた衝撃でちょっとしたクレーターのように穴が穿たれていた。……暴龍グラトニーの首から上を巻き込んで。
「やっぱコレって血……なんだよな。ドラゴンの血って紫色なのか……」
無数の亀裂の入った巨大石の下から、紫色の液体が滲み出てくる。どうやら完全に頭部を潰すことに成功したようで、スプラッタ映画で頭を潰されて死んだ奴のように身体がビクビクと痙攣している。
やがて痙攣も収まり、暴龍グラトニーは完全に沈黙した。
「し、信じられん……! 伝説の邪龍を単騎で、しかも石で殺すなど……ッ!」
「なんて……出鱈目な人なの、カグラさん……!」
おい、誰が塹壕モドキから出て良いと言った……?
いつの間にか俺の両側に立ち、しげしげと暴龍グラトニーの死骸を観察するローズとガーベラ。
どうでも良いが、王国の領土内にクレーターを作った事は咎められないだろうな……? 賠償責任が掛かったとしたら一体いくらで直せるんだ、コレ?
――――ウォオオオオオオオオオオオオオーーーーーッッ!!!
うお、ビックリしたぁッ!?
突然上がった地鳴りのような大歓声に、思わず身体を震わせ振り返る。俺の視界一杯に、口々に喜びや祝福の声を上げながらこちらに津波の如く押し寄せて来る、兵士や騎士の大軍が映った。
おい、おいおいおいおい……ッ!!??
巫山戯んなよお前ら!? そんな大軍で殺す気かよッ!?
俺は問答無用で、否も応もなく、軍人共が諦めるのが先か俺の【肉体強化】の魔法が解けるのが先かというデス・レースに参加する羽目になったのだった。
「ま、まあ……国の危機を救った英雄ですものねぇ……」
「なんという皆の喜び様だ。私もこの日の出来事は決して忘れぬだろうな……!」
いや、お前ら止めろよッ!? 助けろよぉおおーーッッ!!??
◇
「カグラ・カネタケよ。此度の暴龍グラトニー討伐、誠に大義であった。我らチップス王国の至らなさ故にお主を故郷より召喚したにも関わらず、このような偉業を成し遂げてくれた事、国を代表して感謝の意を伝えるものである」
散々に長ったらしい前口上の後でようやく、チップス王からの感謝の“御言葉”が区切りとなった。
さあ、いよいよ報奨の授与だな……!
「お主には先の契約の通り、報奨として我が国宝の価値と同等の“虹貨”百枚を与える。しかし……」
“こうか”とやらがどれだけの価値かはまだ判らんが、国宝と同等価値となれば日本円にして億は下らないだろう。害獣を一匹駆除してコレならぼろ儲けだ。転移して一瞬で日本での貯蓄を軽々と超えちまったよ、うはは。
……ん? しかし?
「しかし、救国の英雄たる“異世界の勇者”に報奨金だけでは心苦しいものがある。何ぞ望みは無いのか? お主が望むのであれば爵位や領地、屋敷も与えよう」
ばっ……!? 何巫山戯たこと抜かしてんだこの王サマは!?
爵位だ? 領地に屋敷だぁ!? 要らねぇよそんなモン!?
「そんな大層なモノは必要ない。言っただろう? 俺にとって金が総てだと。金を貯めてたまに……両親の命日と俺の誕生日に贅沢に散財するのが何よりの楽しみなんだ。爵位や領地を得るってのは、要するに貴族になってチップス王、アンタの支配下に入れって事だろう? それが国の恩人への礼なのかよ?」
「……お主ならそう言うだろうとは思っていた。だがそこまでハッキリと言われると、逆に清々しいものであるな。では他に何ぞ、望みは無いのか?」
「望み……ねぇ……?」
どうしたものか。この王サマ、何が何でも何かしらの金以外の謝礼を渡したいらしい。だがそうは言われても金を貯めること以外には働くことと節約することくらいにしか情熱を注いで来なかった……ん?
「ならチップス王、俺に“自由”をくれ。流石に国の法律には従うが、俺は“自由”というものを謳歌してみたい。どうせ日本には帰れないんだしな。今まで働いてばかりで、金儲け以外には特に何も求めた事が無かったし」
「“自由”、か……。だが、お主の力はあまりにも強大過ぎる。決して行動を支配はせぬ故、従者としてお主に人を付ける事は許してくれよう? 我が国での“自由”の、唯一の対価として」
「……まあ、俺も正直自分の力にドン引きだしな。俺の邪魔をしないって約束をするなら、受け入れよう。この世界の事も色々と訊ねられる相手が居れば心強いしな」
「理解が早くて助かる。法の許す範囲でならば、お主の行動は一切妨げぬ事を約束しよう。国内の移動と出入国の課税を免除する、その証の品も与えよう」
「そりゃ助かる。せっかくの異世界なんだし、色々と観て回りたいと思ってたんだ」
「うむ。それではこれを以て、カグラ・カネタケへの報奨の授与を終えることとする」
王サマってのも大変だねぇ。ま、俺には関係ないけどな。
そんなこんなで俺は。“金岳覚羅”という自他共に認めるドケチな男は、異世界で第二の人生を歩むこととなったらしい。
故郷の日本ではずっと金を稼ぐことと貯めることしかしてこなかった俺は、この世界で一体どんな生き方をするのだろう?
正直、ちょっとだけワクワクしていたのは墓まで持って行くか。わざわざ俺みたいな奴を埋葬してくれるような人が居るかは知らんけど。
「と、言う訳で。王様からの勅命で貴方の従者として同行することになったガーベラよ。よろしくね♪」
「納得がいかん! 何故私がこのような無礼で常識知らずな男のじ、従者などにッ!?」
……報奨金を貰い泊めてもらった城の俺の部屋に、何故コイツらが居るんだよ?
は? お前らが俺の従者……要は“監視役”を命じられたの!?
「王陛下の勅命でなければ誰が貴様なんぞの旅に同行するものか!! いいか、私に指一本触れるなよ!? もしも不埒な真似をしてみろ……! その時は貴様も貴様の象徴もナマス切りにしてやるからなッ!?」
「いや、ガーベラは正直支援魔法が心強いから嬉しいが、ローズお前は何もしてねぇじゃねえか。正直要らん」
「まあまあカグラさん♪ そんなツレないこと言わないで。こんな美女二人を連れて旅が出来るなんて、この幸せ者♡」
「ガーベラが美女なのは認めるが正直ローズみたいな跳ねっ返りは好かん。つまり要らん」
「き、貴ッ様ァーッ!? 今のは私への侮辱と受け取ったからな!? 決闘だ! 表へ出ろッ!!」
「チェンジ制は無いのか……!」
意気も前途も洋々だったはずの俺の自由なセカンドライフは、どうやら随分と騒々しいものになりそうだ。
いやホント、ローズはチェンジでお願いします。頼むから。
リハビリとして書かせていただきました。
面白いと感じてくださいましたら、どうぞお気軽に感想をお寄せ下さいませ。